フィニスト
「今、ウクライナ軍の戦車が、ドイツから供与されたレオパルト戦車でロシア軍を駆逐していきます。多くの国の援助を受けた我々は確実に勝利に向かって進撃しています」
ウクライナ軍の陣地からカメラに向かってレポーターが早口で言う。
欧米の援助で勝てた、彼等の兵器が勝ったことを高らかに称えることで、歓心を買うのも忘れない。
これも宣伝戦の内でありウクライナは諸外国の支持、支援が必要なのだ。
だからこそ、進撃するレオパルト2がロシア軍を潰す姿を収めようと良い構図を探していた。
だから最初にカメラマンが気がついた。
「何だあれは?」
地平線から白い煙が立ち上っている。
キャタピラにしては派手だ。
大部隊にしては乱れが少ない。
単体でこちらに向かってきている。
「早いっ!」
何よりも驚いたのは、そのスピードだった。
明らかに時速一〇〇キロは越えている。
現代の戦車でもせいぜい時速五〇キロ程度。
それも地面の条件が良い場合であり、凹凸がある荒野を進むのは難しい。
なのにそれは、猛速力で迫る。
ヘリではなかった。
どんなに腕の良いパイロットでも地面から一メートル程度しか離れずに飛ぶことなど出来ない。
「小さい」
更に彼等を驚かせたのは、やってくるのが車両程度の大きさだったことだ。
そして、そいつはレオパルト2に接近すると突如ミサイルを放った。
ミサイルは噴煙を残して一直線にレオパルト2に向かい、砲塔に命中する。
最初の爆発は、外側の薄い装甲、で爆発した。
対戦車ミサイルが主装甲に命中する前に爆発させるために備え付けられている装甲で、成形炸薬弾頭、装甲を貫くメタルジェットを逸らす効果がある。
設計者の目論見は当たり、高温の噴流は一点に集中できず、装甲に当たって拡散された。
だが弾頭はタンデム式だった。
最初の爆発で装甲を吹き飛ばした後、二段目が内部に侵入し、主装甲に張り付いてメタルジェットを浴びせた。
今度は一点にメタルジェットが集中。
900ミリの均質圧延鋼装甲板を貫く熱量を余すことなく叩き付ける。
レオパルト2は複合装甲で鋼の装甲より強度がある。
だが、流石に耐えられなかった。
ジェット噴流は装甲を貫き、砲塔内部に侵入。
搭載弾薬を誘爆させる。
激しい爆発でレオパルト2が爆発を起こした。
だが、弾薬庫を砲塔内に配置する設計のお陰で、爆発は上空へ向かった。
ソ連戦車のように床下に置いていたら、爆発が上へ、乗員を吹き飛ばす方向へ作用していた。
お陰で被弾したレオパルト2の乗員は奇跡的に無事で、被弾と同時に車外に脱出。
負傷するも全員が生き延びた。
レオパルト2の生存性を証明した事例だが、ロシア軍の新兵器の前に霞んでしまった。
「やったね」
ドローンの映し出す映像を見てモーリェは大笑いする。
「僕たちのフィニストは上手くやってくれた」
「はい、僅か数十センチですが浮かんだのが良かったようです」
ホバークラフト型対戦車装甲車フィニスト。
ロシアの民謡に登場する鳥の名前を付けた兵器こそモーリェが生み出したものだった。
ホバークラフトは凸凹した地形では扱いにくいが障害物平原ならば、活用出来る。
しかも浮かぶので高速移動が可能。
その高速性能を生かして懐に入り込み攻撃するのが目的だ。
目論見通りの性能を発揮した様子を見てミスキーも饒舌になる。
「RPGも上手く使っているようです」
本来なら誘導ミサイルを搭載したいが、西側の経済制裁で半導体部品が手に入らない。 そこで苦肉の策だったが、RPGにした。
射程は短いが有効射程まで持ち前の高速移動で突撃させれば問題ない。
「ふふん。そうだね。でもフィニストの能力はこれからだ」
モーリェは嬉しそうに画面を覗き込みながら言った。
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