味方を救え
「味方の位置は分かる?」
『今プロットします』
T34のハッチから尋ねるカチューシャに後方の装甲情報車――BMPにスマホとデスクトップパソコンを積み込んだ車両で情報管理をしているマルーシャが答える。
西側の援助のお陰で、スマホなどを使い、味方とやりとりが出来る。
その技術を応用して、取り残された味方の位置を把握。
マルーシャが組み上げたプログラムでプラウダ内部で情報を共有し、カチューシャのタブレットに映し出した。
「私達がロシア軍の間に入るから、その間に残された兵士を救出して」
『危険よカチューシャ』
後続を率いる友人のノンナが無線で言う。
速力に勝るカチューシャのT34は味方の危機にはせ参じるべく全速力でやって来たため部隊を置いてけぼりにしていた。
味方を助ける為とはいえ、カチューシャが突進したことに、敵中に孤立したことに危機感を抱いた。
「どこにいても危険よノンナ。それに取り残された味方を残してはいけない」
『……分かったわカチューシャ。でも私が行くまで無理はしないでね』
「ロシア軍に言って。ノンナもあまり近づかないでね。離脱する時、足が遅いから」
『分かっているわ』
「良し、じゃあ皆、始めるわよ! 全速! 間に入って」
カチューシャは躊躇なく戦線のど真ん中に飛び込んだ。
突如、乱入してきた戦車に対してロシア軍は驚くが直ぐに反撃する。
たちまちの内に銃撃が集中するが、カチューシャとしては望むところだ。
第二次大戦の旧式戦車でも戦車は戦車。
小銃では貫けない分厚い装甲を持ち強力なエンジンで移動する鋼の城に生身は太刀打ち出来ない。
「突撃!」
カチューシャはためらわずロシア歩兵の中にT34を突っ込ませた。
「右へ! 十秒直進した後、左へ急旋回!」
ハッチの影に隠れながら、隙間から前方を注視して操縦士に指示を出す。
銃弾が飛び交う外に頭を出す危険な行為だが、周囲の状況を確認する為には仕方ない。
分厚い装甲の内側では視界が確保出来ず、危険な状況に気が付かない事が多い。
一緒に乗る四人の為にもカチューシャが身を乗り出して、周囲を見て指示を出し、危険を回避するのだ。
それに、外に身を出すのは、もう一つ利点がある。
走り回っていると、空から切り裂くような音が響く。
「! 急旋回! 戻って!」
T34はすぐに味方陣地に向かって直角に曲がる。
直後、カチューシャたちのいた場所に砲弾が炸裂する。
カチューシャの戦車を狙って放たれた砲撃だ。
ロシア軍の歩兵もいるが、ロシアの連中にとって歩兵など捨て駒。
旧式戦車一両を吹き飛ばす必要コストと割り切り、躊躇無く砲撃する。
正にソ連の後継者、ロシアだ。
躊躇いなく敵兵の中にT34を突っ込ませたのは、敵の砲弾で歩兵を吹き飛ばすためだ。
「よくやるわ 」
激しい砲撃で空に放り出される敵兵を見てカチューシャは溜息を吐く。
よく、ロシア軍は兵隊が減らないと思う。
捨て駒を使いすぎてロシアは、かなり拙いことになっているのは分かっている。
少数民族の徴兵は限界。
刑務所の囚人も枯渇し、最貧国からの募集も激減。
そのため外国人観光客をエリ○88のように詐欺同然の手口でサインさせ最前線に送っている。
そんな連中に負けたらどんなことになるか。
百年前のホロモドールより酷い事になるのは分かっている。
だからカチューシャたちは戦い続けている。
「あっちは上手くいっているようね」
チラリと味方の方角を見るとBMDが残された歩兵の元にたどり着いた。
動けない兵隊にバックで接近すると後部ハッチを開き、仲間の歩兵が収容室に入れている。
ハッチを開いてから、収容し再びハッチを閉めるまで十数秒。
閉まった瞬間にBMDは全速を出して離脱していく。
わずかな時間だが、この時間を作り出すためにカチューシャは、敵に飛び込んだのだ。
任務は達成した。
「離脱する! 反転!」
味方に合流しようと戦車を旋回させる。
任務を達成した以上、長居は無用ださっさと逃げ去る。
だが、タブレットが警告表示を出した。
「もう一人が逃げ遅れがいたの!」
混乱で情報処理が追いつかず反映されなかったようだ。
このままではもう一人が置いてけぼりにされる。
捕虜になったらロシア軍に何をされるか。
「転進! 救援に向かう!」
「BMDは帰還中です」
通信手のサーシャが答えた。
既に負傷した二人を乗せているBMDは離脱中だしスペースもない。
「本車両のみで救出を行う! やり方はいくらでもあるわ! 兎に角向かって!」
カチューシャは命じると、味方の元へ向かった。
だが執拗にロシア軍が砲撃してきて、前進を阻んだ。
「近づけないわね」
今接近したら救出予定の兵士も砲撃に巻き込まれる。
何とか砲撃を黙らせたいが、ロシア軍は執拗だ。
その時、ロシア軍の陣地に爆煙が上がった。
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