味方救出

 カチューシャの命令でT34の85ミリ砲が火を噴き、迫撃砲陣地へ砲弾を浴びせる。

 整備兵が作ってくれた即興のレーザーとデジタル照準器、そして砲手の日常の訓練のお陰でロシアの陣地に直撃弾だ。


「目標に命中、次に機関銃陣地」

「了解!」


 戦果確認のあと、砲手に目標変更を命令。砲手はハンドルを使い砲塔を旋回させる。

 すでに装填手が次弾を装填している。

 再びレーザーで位置を確認し、砲撃を行う。


「命中!」


 派手に敵の陣地が吹き飛んだのを喜んだとき、周囲に砲撃が降り注ぐ。


「まだ迫撃砲があったか」


 先ほどの偵察で見落としたことをカチューシャ悔いるが、反省は後だ。

 すぐに対応しないと反撃を食らう。

 幾ら戦車でも頭上から迫撃砲を受けたらダメージを受ける。

 装甲を破られなくてもエンジンを破壊されて、動けなくなったら歩兵の餌食だ。


「前進! ジグザグに走行! 標的にならないで! 砲撃は続行! 狙いは荒くて良いから敵歩兵の前に砲撃を」

「了解!」


 操縦士が戦車を前進させる。言われたとおりジグザグ走行させるので、戦車は右に左に揺れる。旋回する直前に砲撃。

 放った砲弾は敵と味方の間に着弾する。

 黒い土が巻き上がり、敵の突撃が鈍る。

 これでいい。

 歩兵のような小さな的に、戦車砲は命中しない。敵歩兵の前で派手に爆発を起こして突撃の足を鈍らせる。それだけで味方の陣地に踏み込めないようになり、陣地は保持される。

 俯角をとれるように改造した甲斐があった。


「砲撃を続行して」


 カチューシャはハッチを開き、盾にしながら、蝶番で出来た隙間から敵の陣地を確認する。

 すると白い煙が見えた。


「ミサイル!」


 赤い炎がこちらに伸びてきている。微妙に曲がっていることから誘導式だ。


「煙幕弾散布! 回避!」


 砲塔脇に後付け装備させた煙幕弾が発射、上空で白い煙をばらまく。

 同時に操縦手が旋回し回避運動。

 無事にミサイルを回避した。


「ノンナ、敵のミサイルを潰して」


『ノンナ了解、カチューシャ逃げて』


「分かっている」


 襲ってくるミサイルを煙幕を撃ちながら右に左に逃れつつ、カチューシャは操縦手に叫ぶ。


「敵の歩兵の中を突っ切って!」


「分かった!」


 操縦席隣の通信手が全部機銃を砲手が砲塔機銃を乱射しながらロシア兵の中を突き進む。

 歩兵がRPGでも持っていたら不味いけど、持っていたら陣地攻撃で使っているはず。

 持っていないとカチューシャは判断、いや賭けた。

 持っているなら陣地攻撃で使い切っているはずとカチューシャは思った。

 あったとしたら、この場を生き残る事が出来ない。

 そしてカチューシャは賭けに勝った。

 連中はRPGや対戦車兵器を持って居らず、AKで撃ってくるだけだ。


「敵陣地を砲撃しながら突っ切って」


 そのまま敵歩兵の中ををつっきる。

 敵のミサイル攻撃があったが敵歩兵の真ん中に命中してから撃つのを控えている。

 誤射を恐れて撃たれないだけ、カチューシャ達の生存率が上がる。


「搭載弾薬ありません! 撃ち尽くしました」


 装填手が報告した。

 誘爆の危険阻止とバスケットを取り付けたため砲塔内にしか砲弾を乗せておらず、その弾薬を使い尽くした。

 予備の弾薬は外にくくりつけてあるのみ。

 銃撃を浴びている戦闘中で取り出すことは出来ない。


「稜線の裏側へ逃げて、そこで再補給する」


 主砲が撃てない戦車では意味がない。機銃射撃だけではダメだ。

 砲弾を載せるために丘陵の裏へ行くようタブレットに入力しながら操縦手に命じる。


「でも、稜線へ向かうと越えるときに敵に攻撃される」


「大丈夫よ。向かって」


 操縦手は不安に思いながらも言われた通り稜線へ向かい越えようとする。

 そこを、ロシア兵が狙っていた。

 だが、突如、ロシア軍の陣地に大口径の砲弾が着弾しミサイルをランチャーごと破壊する。


『お待たせ、カチューシャ』


 遅れていたノンナのIS3だった。

 T34より主砲が大きく防御力もあるがその分重量があり足が遅い。そのため、置いて行かざるを得なかった。

 だが、到着してくれたら非常に頼もしい。

 122ミリ砲は手前に着弾したが、強い爆発でロシア軍の陣地を吹き飛ばした。


「ありがとう。他の陣地を潰して」


『了解』


 ノンナはデータに入力された陣地を次々と砲撃していく。

 だが、分離式砲弾のため発射速度は遅く、敵の反撃があった。

 しかし、ノンナの真横からミサイルが一条の煙を残して敵陣地に伸びる。


『こちらイェーガー、目的地に到着。聖ジャベリン様で敵陣地を攻撃中』


 対戦車班のイェーガーが攻撃を行ってくれている。

 対戦者用だが陣地攻撃にも使える。誘導式だから、命中率は高い。


『こちらバラライカ、味方陣地に到着。ヴィソトニキを展開し、掃討する』


 歩兵指揮官のバラライカが、歩兵――彼女はヴィソトニキと読んでいる部下達を前に出してロシア兵を駆逐している。

 支援火器、機関銃と狙撃銃制圧して敵を抑えつつ、AK自動小銃を持った歩兵が前進、ロシア兵を包囲していく。


「皆、上手くやっているわね」


 稜線の裏からタブレットで見つつ、私は満足する。


「カチューシャ、砲弾の補給終わったよ」


 車体の外に置いておいた砲弾を砲塔内にいれた砲手と装填手が報告する。


「よし、あと一息よ。私たちも支援攻撃する。パンツァーフォー!」


「おーっ」


 私たちは再びT34に乗り込み、攻撃に加わる。

 やがて、支援を失い、囲まれたロシア兵はヘルメットを外して頭上に掲げて降伏の意を表した。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 IS3

 第二次大戦中、ソ連が配備した重戦車。

 122ミリの主砲を装備しています。

 ISとはヨセフ・スターリンのイニシャルです。


 AK

 カラシニコフ自動小銃のことです。

 使いやすく反動も少ないため紛争地で活躍。構造も簡単で各地でライセンス生産されたり密造されたりしています。

 小さな核兵器。


 RPG

 ソ連製の対戦車ロケット擲弾発射器の事でゲームではありません。

 安価に生産出来る上、使いやすいため、今も紛争地で使われています。


*初稿で対戦車ロケット擲弾発射器ではなく『個人携帯対戦車ミサイル』と書いてしまいました。RPGは無反動砲で打ち出した後、ロケット推進で飛んでいくロケット弾です。

 ちなみにロシアでは無誘導タイプをロケット、誘導タイプをミサイルと呼びます。

 


 バラライカ

 ソ連軍の機関銃の名前。

 本人は某漫画の女性キャラクターから名前を取っています。

 ヴィソトニキもロシア語で遊撃隊という意味ですが、某漫画の組織名でもあります


 イェーガー

 猟兵という意味ですが、本人は某漫画の主人公の名前から取っています。


 降伏

 白旗を揚げるのは勿論、武器を捨てヘルメットを外す事も条件の一つです。

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