ウクライナ少女戦記――私の好きな黒い大地

葉山 宗次郎

ウクライナのカチューシャ

プラウダを率いるカチューシャ

 私は生まれ故郷が好きだ青い空、一面に実る黄色い小麦、そして小麦を生やす黒い大地。

 この土地が私は好きだ。

 たとえ、この身体に、どんな血が流れていようとも。




澄み渡った青空の下で、少女が歩いていた。


「ここは大丈夫そうね」


 大地の感触を確かめて呟くが足取りは重い。

 当然だった。

 何しろ、背中に少女を負ぶっているのだから。


「一雨来たから心配したけど、この分なら他の場所も大丈夫そう」


「油断は禁物よ」


 背中の少女が注意する。


「分かっているわ。ノンナ」


 友人であるノンナに気安く答え、彼女を下ろす。

 その時無線が入る。


『B地区で敵ロシアの攻撃がはじまった。プラウダは直ちに出撃! 味方を救援せよ!』


「こちらカチューシャ了解。直ちに向かう。行こう、ノンナ」


「ええ、カチューシャ」


 返事をした少女、カチューシャはすぐに近くに止めてあったT34/85に乗り込む。

 ノンナも自分の車両であるIS3に乗り込む。


「カチューシャよりプラウダ全隊へB地区へ救援に向かう」


『ノンナ了解。大丈夫よ』


『こちらバラライカ。ヴィソトニキは全員集合。トラックに乗り込み追尾可能。下車して敵兵の掃討可能』


『イェーガー了解。こちらも移動準備完了。着いたらすぐに展開し支援する。敵のタンクが来ても駆逐してやるよ』


「カチューシャより、プラウダ全隊、了解。頼りにしている」


 せめて世界観くらいは統一して欲しいが、もしかしたらこれが最後になるかもしれない。

 彼らの好きにさせてあげたいと思い、カチューシャは口にはしない。

 それに一番、どっぷりはまり込んでいるのはカチューシャ自身だ。


「パンツァーフォー!」


 カチューシャは前進を命じた。

 部隊名をセーラームー○かプリキュ○にしようか迷ったが、戦車だし、この号令を掛けたくて部隊名をプラウダにした。

 今はやっておいて良かったと思う。

 号令と共にT34は時速三〇キロに増速し、黒い大地を疾走し、目的地へ向かう。


「カチューシャより本部へ。B地区の状況は?」


『敵歩兵の攻撃を受けている。いまデータを送る』


 本部から送られてきたデータを受け取り、日本製のタブレットで戦場の地図を素早く確認。

 疑問に思ったことを本部に尋ねる。


「味方の支援砲撃は?」


『弾薬の節約のため最小限だ。ちなみに増援も今のところ貴隊だけだ』


「了解」


 もっと砲撃して支援してやれ、とカチューシャは思うが黙る。


 大砲は戦場の女神


 ホロモドールを行った碌でなしのスターリンが言った言葉だが、戦場の真実だ。

 大砲が降り注ぐ中、前進出来る歩兵はいない。

 殺傷出来なくても、爆発の衝撃で前進出来ずその場に留まる歩兵は多い。

 それは本部も分かっている。だが、牽制砲撃を実行出来るだけの砲弾がない。

 ウクライナ軍全体で弾薬が不足しているのだ。

 いや、何もかも不足している。兵士も食料も、そして武器も。


「カチューシャよりプラウダ全隊。援軍は我々だけだ。敵歩兵を攻撃して撃退する。今のところ戦車やミサイルの報告はないけど油断しないで」


『ノンナ了解』


『バラライカ了解』


『イェーガー了解』


「よし、プラウダ全部隊、このまま前進!」


 カチューシャの号令と共にプラウダの全部隊が前進する。しばらくしてカチューシャはノンナに伝える。


「こちらカチューシャ、分離して先行偵察する。ノンナは、予定通りの位置で待機して」

『ノンナ了解。カチューシャ気をつけて』


 途中から道路を外れて原野を進む。

 この辺りは、T34でも走れることは、おんぶで歩いて確認済み。

 人間二人分の接地圧で歩ける場所はT34なら走れる。

 あちこちをノンナを背負って歩いて確認しているのでT34が走れる場所をカチューシャは分かっている。

 だから躊躇無く前進して、目的の場所に向かう。

 丘に向かうと前の方から銃撃音が聞こえる。


「停止!」


 カチューシャはT34を丘の影に止めさせた。


「偵察してくる。ここにいて」


 四人のクルーにカチューシャは命じて、自分はT34を降りて前進する。

 そして丘の前で伏せて稜線から頭だけ出して確認する。

 丘の先には味方の陣地、僅かな盛り上がりの裏側に作った蛸壺にロシア兵が突撃している。

 ロシア軍が素人のせいか、陣地の前に兵隊が倒れている。

 だが、ロシア兵の攻撃が間断なく来ており、突破されそうだ。

 さらに、後方からロシア軍が迫撃砲を撃っているし、機関砲も撃っている。


「珍しく向こうは本気ね」


 砲弾不足が深刻なのに、今日のロシア軍は気合いが入っている。増援でも受けたのだろうか。

 いや、今は味方を助ける事だけを考えなければ。

 カチューシャは、タブレットで敵の陣地を撮影し終えると立ち上がると急いでT34の元へ駆けつける。


「前進して!」


 乗り込むと同時にT34を前進させる。


「味方が迫撃砲と機関砲の支援がある突撃を受けている。今は保っているけど。このままだと突破される。私たちが支えて防ぐ」


 ロシア軍に蹂躙されるのはごめんだ。ブチャの悲劇など繰り返したくない。

 だから、ここでロシア軍を食い止める。

 カチューシャは心に決めて作戦を練る。

 タブレットの写真を地図に入れて、敵陣地の位置を計算し地図上に表示させる。

 カチューシャは、戦車の進路を描き込みながら皆に伝える。


「稜線の窪みから出たあと停止。敵の支援、迫撃砲と機関銃を攻撃して牽制。その後は移動しつつ敵歩兵の前面に砲撃を浴びせて。それで敵の突撃を防ぐ」


「了解!」


 クルー達は了解してくれた。

 予め指示した窪みに操縦士がナビを使って運転し進めてくれる。

 砲手はハンドルを操作して目標の方角へ砲塔を向ける。

 そして、予定通りの位置に到着し停止する。

 予め旋回していたお陰で、目標をすぐに捉えた。

 砲手はレーザー測距義とカメラで位置を特定。微調整する。


「準備良し!」


「撃てっ!」



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カチューシャ

 ロシアの女性の名前エカテリーナの短縮形。

 元ネタはご存じの通りガールズ&パンツァーに出てくるプラウダ高校のカチューシャ。

 本作のカチューシャは普通の身長です。

 ノンナも同じ作品が元ネタです。

 他にもアニメネタが多いので楽しんでください。


T34

 第二次大戦中のソ連軍の主力戦車。

 初期は76ミリ砲、後期は85ミリ砲を搭載。当時としては画期的な傾斜装甲を施し、アルミ製のディーゼルエンジンもあり、速力がある。

 最初にドイツ軍が登場したときは攻防走バランスの整った戦車でドイツ軍の天敵に。

 対戦車砲をはじき返したためT34パニックを起こし、T34を真似したパンターの開発を進めた。

 生産数は六万両以上と当時世界最多の生産数を誇る戦車で各国へ輸出される。

 朝鮮戦争でも活躍し、バズーカをものともせず前進、国連軍を釜山まで追い詰めた。

 今でも紛争地で活躍していることがある。


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