時を翔けるブッコロー
きなこ
ブッコローとタイムリープ
「今回はこちら!書店で買える、うまいドライフルーツの世界〜〜」
ブッコローはいつも通り、本日のタイトルをカメラに向けて発表した。
――文房具ならまだしも、ドライフルーツって……
本屋に関係ないものを紹介することは多々あったが、食べ物の紹介もシリーズ化するようになったかと思いつつ、進行を進める。
「書店の一角を食品物産展にした女、有隣堂ルミネ横浜店、内野さんですー」
スタジオにいる有隣堂スタッフから拍手が起こる。
ミミズクである自身が、Youtuberになる日が来るとは思ってもみなかった。
人間の友人であるプロデューサーに「ブッコローはほんとおしゃべり上手だから、MCとして好きに喋ってよー」と誘われて、ノリで出演したら、初出演からなんと1年以上も経過。現在も頑張っている。
「マンゴーのドライフルーツ、お値段はいくらですか?」
商品を紹介する以上、金額を聞くのは当然と言えるだろう。トップバッターで紹介された、マンゴーのドライフルーツの価格を聞いた。
「1,620円です!」
内野さんはブッコローの問いに対して、はっきりとした笑顔で回答する。
「強気すぎない……?マンゴーのドライフルーツで1,000円以上越すって――162円でも驚かないよ?」
忖度のない反応を返すと、スタジオにいるスタッフが声を出して笑う。
思ったことをそのまま伝えるブッコローの毒舌がこのチャンネル「有隣堂しか知らない世界」が受けている理由の一つだった。
次は、マンゴーの後に出てきたキウイのドライフルーツを実食する――これは美味しいな。
「コレコレコレーこういうのだよ!」
と感情のこもったリアクションをする。
商品を紹介したあとは、メーカーの担当者に電話し、直接コミュニケーションをとる場面も見どころだ。
今回も同様に電話をして、前回送ってもらったドライ漬物たくあんの話をしたり、マンゴーの打ち出し方について指摘したり場を盛り上げた。
さて今日も動画の収録がそろそろ終わりだろうなと思っていた矢先、有隣堂の広報担当である郁さんがカンペが向けていることに気づく。
カンペには「ドライ漬物たくあんを用意したので、いま実食してください!今回も宣伝を!」と書かれている。
――また冷蔵庫の下から出てきたようなたくあんを食べなきゃいけないのか……
仕事だからしょうがないと割り切った考えをしていると、ドライ漬物たくあんが目の前に用意された。
「えー、いまスタジオにいる郁さんが『ドライ漬物たくあん』を最後にぜひ!と用意してくださいました。前回も食べたとき消しゴムのような味とお伝えしたんですけどねぇ」
と、郁さんをチラッとみていう。
「今食べたらまた違うかもしれないので、最後に実食します〜」
ぱくり。ああ、やっぱり
「はい、やっぱり消しゴムの味でしたー。いやぁ濡れおかき好きな人には合うかもしれないですが、僕は好きじゃありません!」
と正直に話すと、収録終了の合図が出た。
「はい、お疲れ様でしたー」
カメラマンが声をあげると、スタジオにいるスタッフは撤収の準備に取り掛かった。
「ありがとうございましたー」
ブッコローも羽を伸ばしながら、スタッフに向かって礼を言う。
「あ、すみません。僕、片付けの前に飲み物飲んできていいっすか?もー喉からっからで。水分、ドライフルーツにもってかれました〜」
誰かが「どうぞーいってらっしゃーい」と言ったため、飲み物のある控え室に戻ろうと、スタジオから出る。
「ブッコローお疲れ様〜」
間仁田さんがブッコローの方に手を置き声をかけてきた。自身の仕事が終わりちょうど帰ろうとしていたらしい。
先ほど収録した動画について話しながら歩いていると、あっという間に控え室へもどってきた。間仁田さんに別れの言葉を言い、控え室に入室する。
「あー、喉乾いた」
ペットボトルの蓋をあけて、一気にコーラを飲み干す。
喉は潤い、疲れた脳に糖分が染みわたるような感覚に陥る。
「さて、片付けに戻りますか」
と、スタジオに戻ろうとしたとき、自身の体に違和感を覚えた。
「あれ、立てない……」
足に力が入らない。もう一度立ちあがろうとする。今度は頭が揺れ、視界に靄がかかった。
――だめだ、倒れる
無理に立とうとした反動で体が前に倒れ、そのままブッコローは意識を放してしまった。
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