プレスレットフラワー
パ・ラー・アブラハティ
第1話 再会
桜が咲いた四月に二人は再会した。春の陽気がカラダ全体を包んで、ざわついていた心を穏やかにほぐしていく。久しぶりに会った二人の間には、温かさと冷たさを含んだ空気が流れていた。
腕に抱えていた花束を彼女―
「……久しぶり。元気だった?」
「はい、元気でしたよ。少し身長伸びました?」
「ここ来るまでにさ、随分と時間がかかったよ。色々なところ回った俺が悪いんだけどさ」
「もう来てくれないんじゃないかと思いましたよ」
少しだけ、ほんの少しだけぎこちなさが残る会話だけど、あの時と何も変わってない佐倉の面影がそこにはあるような気がした。
太陽の光が佐倉の体温を補完してくれて、感じれないはずのものを感じたような気になる。
「あの時からさ、俺の時間はパタリと止まちゃってさ、自暴自棄になったりもしたんだよ。情けない話でさ、ほんと」
「あらら、らしくないですね。いつも冷静で客観的に物事を見ているタイプだと自他ともに認めるほどでしたのに、自暴自棄になったんですか?」
「でもさ、それじゃあダメだって気付いたんだよ。だからさ、過去に区切りをつけようと思ってさ。かっこよく言うならピリオドを打つかな?」
「何もかっこよくないですよ。でも、やっと前を向いてくれるんですね。嬉しいような悲しいような変な気分です」
「あっ、そういえば佐倉さ最後まで先輩呼びだったよな。一回ぐらいはさ、下の名前で呼んでくれても良かったじゃん。彼女だったんだしさ」
「気恥ずかしかったんですよ。中学二年生の頃から先輩って呼んでたのに突然下の名前で呼ぶなんて。なんですか、そんなに下の名前で呼んでほしかったんですか?」
「とか言うと、お前はいつもニヤけて俺をおちょくってくるんだよな」
「バレてますなあ」
佐倉は雪乃下を下の名前で呼ぶことを躊躇っていた。中学からの付き合いで、その延長線上で先輩と呼んでいたせいかすっかり板についてしまい、下の名前で呼ぶことは恥ずかしくないはずなのに、とても恥ずかしいことに思えて呼ぶことが出来なかった。
何度か雪乃下は下の名前で呼んで欲しいと直談判をしていたが、のらくらりと掴めない物体のようにかわされてしまって、夢が叶うことはなかった。
「佐倉がいなくなったあとの俺の恥ずかしい話でも聞いていってよ。長くなるかもだけどさ」
「はい、聞きます。ぜひ聞かせてください、透がどんな生活をしていたか、とても気になりますから」
雪乃下は水平線の彼方まで澄み渡る青空に作り出されたひこうき雲を見上げて、頬を少しだけ緩めてニカッと太陽に微笑んでから、佐倉がいなくなってしまった後の話を始めた。
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