第51話 ダンジョンの神秘配信者・スタンドバイミィ(32) その弐
「みなさん今日の配信はいかがだったぇしょうか。また次回のライブ配信で会ぃましょう。ご視聴ありがとうござぃましたっ」
【コメント】
・おう、また次のライブ配信で!
・こっちこそありがとーっ
・すごい楽しかったよー!!
・最高のバトルだった!次回も期待!!
・早く会いたいよおおおおおお
・よっちゃん待たねーっ!!!
「よっちゃん、めちゃんこ、かわいくて、すこすこスコティッシュフォールド――と」
スタンドバイミィの最後のコメントが流れた3秒後、ライブ配信が終了した。
パソコンのモニターに映るのは、上に〝ご視聴ありがとうございました♪〟と丸文字で書かれた、湊本四葉の似顔絵。
似顔絵も可愛いが、やはりリアル湊本四葉には叶わない。
サイドポニーテールがワンポイントのあのプリティさ。
舌足らずなお口で一生懸命しゃべっているあの健気さ。
弱音も吐かずに、バトルをがんばっちゃうひたむきさ。
どんな時でも視聴者を忘れずに言葉を投げ返る誠実さ。
「ああああああぁぁぁぁぁぁ……よっちゃんっ!!!」
スタンドバイミィの声が部屋に響く。
そして、はっと我に返る。
僅かでも、一回り以上も年下の少女によからぬ感情を抱きそうになっていた自分。
鳳条星波という推しがいるというのに、湊本四葉の名前を声高に叫んでいた自分。
とてつもない罪悪感がスタンドバイミィに襲い掛かる。
「俺ってやつはっ、俺ってやつはあああああああっ!!」
ゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴンッ!!
部屋の柱に20回頭を打ちつけたところで、ようやく自分を赦す。
それにしても今日の湊本四葉のライブ配信は、控えめに言ってやばかった。
特級武具エンシェントシリーズを装着した湊本四葉の本格的なバトル。
しかも上位魔法が使用できない状況でいかに戦うのか。
当初、不安しかなかったスタンドバイミィ。
だがいつの間にか不安は霧散して、代わりに興奮に声を張り上げていた。
湊本四葉のバトルは、それほどまでに面白いエンタメだったのだ。
特に、ひらめきからの多彩な攻撃方法には驚かされた。
エンシェントドラゴンやケルベルスとの闘いでその片鱗は見えていたが、彼女のバトルセンスの良さはかなりのものだ。
最後の隻眼のオゥガ戦はその集大成であり、見事に撃破してくれた。
そして、だ。
忘れちゃいけないのが鳳条星波である。
終始、湊本四葉の指導役でいた彼女だが、ここぞというときの奥義である。
黒の旋風、黒の咆哮、黒の暴食――。
どれもこれもが強力であり、且つ魅せるという面にもおいても最高の技だった。
特に最後の黒の暴食は荒々しさの中に美しさがあり、スタンドバイミィは歓喜に打ち震えた。
同時にちびって、パンツを濡らしてしまったのはここだけの話だ。
湊本四葉と鳳条星波の競演。
ちょっとカッコよく言い換えれば、白と黒の共鳴ランデブーってところか。
また見たい。
そう思うのは、二人を推しているスタンドバイミィとしては当然の欲求だった。
幸いなことに二人は同じ事務所。
そのときは案外、早く訪れるかもしれない。
……いや、逆だ。
元々、鳳条星波はソロをメインとしたダンチューバー。
しかも今回、すでに湊本四葉とのコラボで台東Cを踏破している。
その二つの事実から推測されるのは、白と黒の共鳴ランデブー第2回はない。あるいはあったとしても当分先というものだった。
「いやだ! すぐにだって見たいんだ俺はっ!」
……見たいんだ俺はっ――
……んだ俺はっ――
……俺はっ――
……っ――
山でもないのに叫び声が部屋にこだまする。
いつになく、物事に対する欲求が強い自分。
こんなにも抑えきれない欲望は、小学生の頃に大好きな女の子のリコーダーをどうにかして舐めてやろうと画策していたとき以来だ。
って、そんなことはどうでもいい。
本当にどうでもいい。
「そうだ。彼――剣聖に連絡を取るか」
剣聖。
誰が付けたかは不明だが、いつからか彼は剣聖と呼ばれる存在になっていた。
なぜか。
彼が、真の最強のダンジョンシーカーだからである。
ちなみ、スタンドバイミィの推す鳳条星波は最強のダンジョンシーカーの一人だ。〝真〟が付いていないのは、なにも偽物というわけではない。
〝皆が知っている〟という意味で、彼女が最強なのは事実なのだ。
特に鳳条星波の場合はダンチューバーでもあるので、その活躍が世に知れ渡るのが早い。クラスSのダンジョンを踏破すれば、すぐにその凛とした勇猛さがネットで拡散され、彼女の知名度を底上げしてくれる。
ダンチューバーでなくても、SNSを駆使して自らの武勇を誇るダンジョンシーカーはいくらでもいる。それは、人間に承認欲求が備わっている以上なんら不思議なことではなく、むしろ当然の行いといっていい。
だが。
世の中には、当然の枠から外れた稀有な存在もいる。
まるで自己実現の欲求だけに支配されているかのように、ひたすらダンジョンに潜っては己の肉体と精神を研鑽し続けるダンジョンシーカー――そう、化け物が。
その化け物の一人が剣聖と呼ばれる彼だった。
剣聖に関する映像は一切ないが、彼がクラスSSSのダンジョンを少なくとも2回踏破しているのは、ギルドが認めている純然たる事実である。
その剣聖からダンジョンのホットな情報を仕入れているスタンドバイミィ。
それが、〝ダンジョンの神秘配信者〟として第一線を走り続けられる理由の一つでもあった。
剣聖ほどダンジョンを知っている人間はそうそういない。
ゆえに彼が持っている情報の中には、ほぼ誰も知らないお宝が眠っている可能性は非常に高い。
つまり、スタンドバイミィの考えているプランはこうだ。
1・剣聖からお宝情報を買う。
2・潜姫ネクストの社長にそのお宝情報をちらつかせ、鳳条星波と湊本四葉のコラボでのダンジョン踏破を約束させる。
3・踏破を約束してくれたら、お宝情報を提供する。
4・その際、アフロの中がどうなっているのか聞いてみる。
スタンドバイミィは4を削除すると、キーボードをたたいた。
例えお宝情報であっても、潜姫ネクストの社長が手に持て余すものでは意味がない。どうせならその情報自体が、鳳条星波と湊本四葉のコラボでのダンジョン踏破につながるものがいい。
スタンドバイミィは剣聖へメールを送信する。
あとは返信を待つのみだ。
スタンドバイミィはそのまま潜姫ネクストの公式サイトへといく。
彼女達の今後の活動についての情報を知るためだった。
湊本四葉は所属したばかりの特別枠とはいえ、潜姫ネクストのメンバーだ。
ならば彼女についての情報だって少なからずあるはずだが――
「ぬはぁっ!?」
スタンドバイミィは驚きから目を剥いた。
【オフィシャルストアにて湊本四葉のグッズ近日発売!!】
と右下のお知らせ欄に書かれていた。
スタンドバイミィが真っ先に思ったのは、等身大の抱き枕は出るのかというその一点だった。
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