第18話 アメリカの農村ではよくある光景

「私は密室で拳銃自殺を図っている人のテーブルの上にタイプライターで書かれた遺書を発見したかったんだぁ~~~」


「おい。ダイアーの奴どうしたんだ?」


「そっとしておいてやってくれリーファ。教授は自分の寿命があと二十二年しかないと知ってショックを受けているんだよ」


 ウィンゲート達は鑑定太郎を警察に無事引き渡した後、自動車に乗って出発した。目的は当初の予定通りのキャンプである。

 駐車場を出たフォードAはチャーチストリートをミスカトニック河に沿って西側に進んで行く。まもなく河沿いの道とは分かれ、農場方面の道をウィンゲートの運転する車は直進していった。


「どうして河沿いの道を行かないんだウィンゲート?」


 リーファが車の進行方向について質問した。


「河沿いを進むとビリントンの森に突っ込んじまうんだ。あそこは自動車が進めるようなないからな。森に行くのは獣を狩る狩人か、木こりか、薬草採取に行く人だけさ」


「森に行くんだウィンゲート!薬草を取るんだ!!」


「いや。地主の許可のない採取は違法だよ。勝手に取ったら賞金首になるよ」


「くそっ!クエストボードで依頼表を取ってきておくんだった!」


 大学の野球場はアーカム郊外にある。以前は大学の敷地内で練習していたがホームランを打って民家の窓ガラスを壊し、ショットガンを持った住人が大学まで抗議しに来たため現在は農地の一部を買い取って運動場にしている。

 ガラスを割る心配がないので、朝早くから大学の野球部が練習に励んでいた。

 アーカムから離れて十キロも経たないうちに左手に巨大なクレーターが見えて来た。

 ダンブルウィードが地面を転がっている他は植物らしきものは何もない。


「な!なんだあの奇妙な生物はっ!!!」


「あーあれ?ただのダンブルウィードだよ。中国にはないかなぁ。別に噛みついてこないから安心していいよ」


「もしもしもしもしマイルズ様!!!!この世界にはダンブルウィードという恐ろしい怪物がおります!!!我々の世界にはいないおぞましい姿の奇妙な生き物で地面を高速で這いずっているのです!!」


 ああ!ああ!なんという事だろう!偉大なるマイルズ様は!!

 植物学の知識が全くなかったために!ダンブルウィードがなんであるか!皆目見当がつかなかったのだっ!!

 ゲームの知識は豊富であったというのにっ!!

 せめてアメリカ西部劇の映画を見ていれば!悔やんでも悔やんでも悔やみきれない!!後の祭りだっ!!

 いったいこの事が後々どのような惨劇を引き起こすのか。今はまだ誰も想像できはしないのだっ!!

 クレーターを過ぎて暫く進むと小さな村が見えてきた。クラークス・コナーズである。百五十年前からあるこの村には地元の農民などが頻繁に利用する雑貨店などが存在する。


「あのう。ウィンゲートさん。そろそろ休憩にしませんか?」


 後部座席でダイアー教授と共に座る卑弥呼・エリザベスが話し掛けてきた。


「え?まだ一時間くらいしか運転してないよ?」


「そうでなくて。ほら。私とリーファさんは女性じゃないですか。お外でトイレをするのはちょっと」


 曖昧な表現では伝わらないだろう。そう判断して卑弥呼は具体的な理由を告げる。


「あーそう言うことか。じゃあこの村のどこかでトイレを借りるか」


「何故そんな事をする必要がある?ウンコならそこいらの木の茂みですればいいじゃないか。私は故郷で旅の途中いつもそうしていた」


 リーファは人間の冒険者達と行動を共にしている最中トイレを理由に別行動取り、木陰にいるマイルズ様と直接連絡を取った時の事を思い出していた。


「ねえリーファ。君は一応中国の代表としてこの合衆国に来ているんだ。トイレに行くのはいいけど故郷で森の木陰に頻繁に行った話はしない方が良い」


「わかった。そうする」


 とはいえリーファは人間ではないので食事の消化吸収効率が恐ろしく良い。結局トイレを借りたのは卑弥呼・エリザベスだけである。


「私は犯人の名前を自分の血で書き残した死体を発見したかったんだぁ~~~~」


 ダイアー教授は未だに一時的な狂喜に包まれている。暫く放っておけば復活しそうだが今はまだ無理だろう。


「あんた達。どこから来なすった?」


 村人が気さくに話しかけてきた。


「そりゃあアーカムからですよ」


 ウィンゲートは答えた。


「そうか。そうか。ところでここいらに土地とか持ってるかねお前さん?」


「え?父さんの遺産の別荘がありましたよ」


「そらゃあ結構な事で」


 ニコニコ笑いながら村人は語りかける。


「でもかなりオンボロだったから市役所の人に売ることになっているです」


「何だとおっ!!」


「おい!皆!集まれええ!!」


 登りはしごを伝って鐘をハンマーで鳴らし始める村人まで現れた。


「村を護れ!村を護れ!!」


「敵襲!敵襲ー!」


「皆の者!武器を持て!村を護れ!」


 ピッチホーク。ハルバード。ジャベリン。思い思いの武器を手にする村人達。


「な、なんだぁ!?いったい!!」


「寝言ぬかしてんじゃえぜ!!」


 まだ若い娘が颯爽と姿を表すウィンゲートより若い。見た目はリーファと同じ位である。


「ミオンネの姉御!!」


 ミオンネと呼ばれた銀髪ポニーテールの娘は村人達に質問を開始する。


「てめえら。この戦争をおっ始めやがったのは何処のドイツだい?」


『格好アーカムの役人どもだっ!!』


 その質問に村人は威勢よく返事を返していく。


「この戦争に負けたらどうなるっ?」


『男は子供に至る迄皆殺し!女は老婆も含めて性奴隷!!』


「だったらアタシらの取るべき道は一つ!」


『勝って生きるか!負けてハラワタ奪われるか!』


「進む道は?!」


『役人殺して俺達が生き残るッ!!』


「よく言ったなお前達っ!!それこそクラークスの民だあ!!黒人もインディアンもねえ!!アタシらの敵はただ一つ!!」


『アーカムの役人どもだあーー!!』


 ミオンネは麻布を被せられた物を取り払う。荷車に被われた何かがあらわになった。

 それは。

 回転式機銃(ガトリングガン)!!


「なんだ。マスケット銃が六本ついてるだけではないか。たいしたことはない」


「馬鹿ー!姿を隠せ!」


 リーファの服を掴んで強引に物陰に引きづり込むウィンゲート。


「私は銃弾くらい見てかわせ」


 ミオンネはハンドルを廻してガトリンガンを撃ち始めた。道の反対側にあった木樽に銃弾が貫通し、内部の水が零れ出す。


「くそ!やっぱりこっちのドラム缶に隠れて正解だったな!」


「なんだ今のは?」


「ガトリングガンだよ!!まあ中国にはないかもしれないな、あんな物騒なもん!」


「む。攻撃がやんだな。よし近づいて斧で切りつけ」


「近づくな馬鹿!」


「弾帯の交換終りましたミオンネの姉さん!」


「よくやった!リッチパンブー!!」


 給弾した執事の黒人、帽子をかぶり眼鏡をした男を一言誉めると掃射を再開するミオンネ。


「アタシが援護射撃してやる!お前達慎重かつ大胆な動きで奴らに近づいて、そのはらわたをシボリダシテやんなっ!!」


「へい!姉さんが見ていると思うと勇気がでてきまさあっ!!」


 カドリングの合間ににじりよる村人達。


「もしもしマイルズ様ですかぁ!!私は今この世界の村人達に襲われていますう!!村の連中はっ!」


 ガトカドガトガトガトガトガト!!!!


「なるものを使用して非常に手強くう!!聴こえてますかマイルズ様?!」


「くそ!このままだと本当にバラバラにされてしまうぞ!」


 そこに土ボコりを巻き上げながらフォードAが走り込んできた。

 ダンブルウィードが転がるのだから土ボコりが舞っても当然である。


「乗ってください!」


 運転していたのは卑弥呼である。


「そういやエリザベス教授は車の運転ができたな、助かった!」


 ウィンゲートはイマジナリーマイルズ様と(と、ウィンゲートは思っている)お話途中のリーファを掴むと自動車に飛び込んだ。


「姉さん!奴ら逃げますぜ!!」


「アーカムに繋がる道路を封鎖するんだ!早くしな!赤ん坊抱いた女以外は爺に至るまで車と銃を持って。車の運転ができねえ子供は馬に乗せて追いかけさせるんだよ!」


「それが出来ない子供はどうしやす?」


「銃と馬の練習!他に質問は?」


「ありません!」


「よし!役人狩のはじまりだよ!」


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