第6話 皇太子、目論む
イザベルを嫁に貰うことを誓ったルイスではあったが、一つだけ厄介なことがあった。
(イザベルがあんなだったから、変わりに王妃にしようとしてた令嬢をどうしようか……。もう用済みだから宰相か騎士団長の息子あたりに渡したいのだが、面倒なことになりそうだ)
そう、イザベルと婚約破棄する布石としてルイスは子爵令嬢との恋物語を演じていたのだ。もちろん、相手の令嬢はそんなことなど全くもって気が付いてはいない。
(どうせ、「イザベル様から私を守るために無理しないで!!」とか「愛のない結婚なんて寂しすぎるわ!!」とかくだらないことを言うんだろうな。
見た目も悪くないし、イザベルよりまともそうだからリリアンヌを選んだだけで正直彼女じゃなくても良かったわけだし)
自分の目的のためなら手段を選ばないルイスの本質を見抜いているのは幼い頃は教育係として、今は補佐として遣えてくれているレントンくらいだろう。
(とりあえず、さっさとリリアンヌを処分するか)
以前のイザベルならともかく、今のイザベルが聞いたら泣いて怯えそうなことを考えながらルイスは城へと戻った。
「おかえりなさいませ、ルイス殿下。……その顔は何か良いことでもありましたか?」
流石と言うべきか、レントンは他の人には分からないルイスの表情を完璧に読み取った。
周囲からすれば、いつもとどこが違うの? という感じだろう。
「聞いてくれて、レントン。私はイザベルとこのまま婚姻を結ぶことに決めた。一日でも早くイザベルを私のものにしたい」
「はいっ? この短時間で何があったのですか?」
その問いにルイスは嬉しそうにイザベルとの出来事を話した。
「なるほど。ルイス殿下のお気持ちは分かりました。ですが、仮にイザベル様が以前のようにお戻りになられたらいかがされるのですか?」
「王妃にしてしまったら仕方がないから、
「程ほどになさってくださいね」
そう答えたものの、主人の発言に心の中で「どうにでもなるわけないだろ!? 薬漬けとか絶対にやるなよ!!」と盛大に叫んだレントンであった。
さて、皇太子でありヒーローポジションにあるルイスだが、見た目もだが性格も王子だと周囲からは思われている。
実際、ルイスは乙女ゲーム『キミ☆コイ』のメイン攻略キャラクターであり、キラキラ王道王子様キャラとして登場している。
だがそれはヒロイン視点からみたルイスの姿が描かれているだけに過ぎない。
ルイスからしてみればヒロインであるリリアンヌに接近した理由は単にイザベルと婚約破棄をするためには他の令嬢が必要だったから。
その条件にリリアンヌは身分が低いこと以外は丁度良く、身分くらいならば世論を味方につければ問題ないとルイスは判断した。
だから、運命的な出会いを演出し、イザベルに虐められることなんて分かりきっていたから自分の手の者にイザベルとリリアンヌの周辺を探らせておいてタイミングを見て助けもした。
そんな偶然ばかりが起きて、運命的な出会いをし、ピンチには必ず駆けつけ、二人で困難を乗り越えていくなんて現実にはそうは起こらない。
ならば作り出せばいい。そうすれば、誰もが憧れる身分差の恋物語が完成である。
そうやって用意周到に作り上げた関係は、今やルイスにとってはゴミ同然。後腐れなく捨て去らなくてはならない。
何なら、リリアンヌを嵌めてイザベルへの世間の風当たりを弱めたいところなのだ。
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