22話:タンたん復活!!

 閻魔王の娘:ネックから「ロリコン判定」を受け、全俺が泣いたと評判の出来事を経て。

 俺は侵入の際に飛び散った窓ガラスを掻き集め、部屋の外で震えていた世話係に掃除の後始末を頼んだ。


 それからペンダント型『世界扉ポータル』の中央をカチッと押す。

 すると本日2度目となるモヤモヤとした紫色のゲートが目の前に出現し、ネックが「ロリコン反対!! ロリコンは出て行けーッ!!」と世界総人口の半分を敵に回す抗議活動を行っている中、無事に異世界『ヴァルハバラ』へと帰還。


 ゲートを潜って出て来た先は、『世界扉ポータル』を俺にくれた魔獣:ニャジリスクのいた丘の上だ。

 地獄へ来る前に昼寝をしていたニャジリスクの姿はなく、空は夕暮れ色に変わろうとしている時間帯。

 あとは家に戻り、リバ子様にタンたんを生き返して貰うだけ。


 ある意味、ここまではとても順調だったと言える。

 閻魔王が不在だったので、俺を阻む敵もいなくて大きく困る事も無かった。


 しかし俺は、その後に取った軽率な行動を深く反省しなければならないだろう。


「……タンたんの身体、マジで大丈夫なのか? 長らく魂が抜けてた訳だしなぁ」


 切り株ハウスに戻る前に、俺はタンたんの身体が物凄く気になっていた。

 パッと見は「ちょっと血色が悪いかな?」くらいなモノだが、よくよく見ると僅かながらも水膨れした感じがある。

 長時間ホルマリン漬けされていた為、だというのは疑う余地もない。


 試しにタンたんの頬を触ってみると、やはり生きていた時とは違うブニッとした独特の感触がある。

 お太りになられていた頃のリバ子様程ではないが、酢漬けにしていたハムみたいな感触だ。


「これ、生き返ったらちゃんと戻るのかな……あっ」


 ピリッ。

 頬の皮膚が破けた!!


 ちょっと力を入れたせいか、左目の下から顎近くまで縦一直線に破けてしまったのだ。


「や、やべぇ!! すぐに縫合しないと!!」



 ――――――――

 ――――

 ――

 ―



「タツヲちゃん。この左頬の傷跡は……?」


 場所は変わって切り株ハウスの俺の部屋。

 俺が持ち帰り、ベッドに寝かせたシーツに包まるタンたんの身体を見て、俺の頭の上に乗ったタンたん(魂の姿)が戸惑いの声を上げる。

 隠しようもないその傷跡について突っ込まれてしまうと、俺としては申し訳ない顔で申し訳ない言葉を返す他ない。


「その、スマン。ちょっと状態を確認しようと思って触ったら、破けたんだ」


「この縫合跡も、タツヲちゃんの仕業? 少年漫画の主人公にありそうな、カッコいい傷跡みたいになってるけど……」


「いや、ちょっとてんぱっててさ……咄嗟に俺の髪の毛で縫合しちまった。俺、髪の毛もめっちゃ丈夫だったし」


「全く、呆れた子だねぇ」


 最後、オーセル先生が白けた目で俺を見る。

 その視線を甘んじて受け入れるしかないのが心苦しい所存だ。

 ちなみに三途の川の主:リバ子様は、部屋の隅でむしゃむしゃと唐揚げを食べているが……またお太りになられても俺は知らねぇぞ?


「しょうがないねぇ。どれ、生き返す前にアタシが治してやろう。ちょうど魂が抜けてるから、麻酔撃たなくても手術出来るし――」


「待って、私はこのままでいい」


 タンたんの言葉に、皆が目を疑った。

 今から傷を治そうとしていたオーセル先生は特に驚いている。


「このままがいいって……お前さん。別にこのくらいなら傷跡が目立たない様に治せるんだよ? 何を遠慮する必要があるんだい?」


「別に遠慮じゃない。私はこのままでいい。ううん、むしろこのままの方が断然いいの」


「断然いいって、一体何がいいんだい? わざわざ傷を残す理由は?」


「だって、タツヲちゃんに傷物にされたっていう確かな証拠が出来るし、それに私の頬にタツヲちゃんの髪の毛が埋まってるっていうのは、これはもう私とタツヲちゃんが合体したもの同義で……はぁはぁ、想像だけで興奮して昇天しちゃいそう」



「「「………………」」」



 俺、先生、リバ子様。

 3人とも心の底からドン引きだった。



 ■



 3人がドン引きした後に、リバ子様がタンたんを生き返した訳だが、生き返りそのものは特筆する程の事もない。

 リバ子様がタンたんの魂を掴み、それをタンたんの身体――心臓辺りにグイッと押し当てる。


 それだけだ。


 それだけで、むくりとタンたんの身体が起き上がった。

 本当に呆気ない蘇生だったが、まぁ何とか目的は果たせたので結果オーライでいいだろう。

 本当に特筆しなければならない事は、タンたんが生き返った直後。



 バタンッ!!



 前触れなく、部屋の扉が勢いよく開かれる。

 扉を開けたのは白い制服に身を包む“天国の若い女神兵おんなしんぺい”で、その女神兵おんなしんぺいがハキハキとした声でこう告げたのだ。


「タン様、“御父君おちちぎみであられる大天使様”がお呼びです。至急、天国にお戻り下さい」


 正に急展開。

 青天の霹靂であるこの帰還要請を受け、生き返ったばかりのタンたんは口を開く。


「い・や!!」



 ――――――――

*あとがき

これにて【2章:魂の救済編】は完結です。

何とかメインヒロインは復活しましたが、色々と問題も残っているので次章で解決したりしなかったりしましょう。


そんなこんなで、次々話から【3章:タンたん争奪編】が始まります。

(次話は「1分で読める【2章:魂の救済編】のおさらい」を挟みます)


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