大人達の思惑
無事アッシュの誕生日会が終えて、2日が経過した夜。
アストラ家当主ノエル・ヴィ・アストラが機嫌良く酒を飲んでいた
(くくく、オルビット家も我がアストラ家の元に下った。
これで海の物流を我が家が握ることが出来たのだ。
ロバートめ、最低でも
ワシから強引に婚約を進めば、他の貴族逹に注目されてしまう。そうなれば、帝国との
だが、結果はどうだ?
息子がヤツの娘と婚約が決まった!
それもこれもに
婚約が成立すれば、あとは定期的に圧をかければ、あやつの舵を上手く握れる。
これでこのテレスト王国の金の流れが全て我が手中になる。くはは!笑いが止まらぬとはこのことだ!
戦争も、政治も、力も全ては金があってこそ。
あとは、例のモノの商談が決まればこの国はワシのものだ!
…………しかし、それは最近この屋敷を嗅ぎ回っているネズミの駆除をしてからせねばならぬ。
クール……だったか?そのような見習いを雇った覚えはない。それを我が家の執事マイケルに確認したがクールなどという名の見習いは知らぬと申していた。
恐らく、すでにいる使用人の中の偽名であろう。
…………あやつらを使うか。)
「マイケルよ。」
「何でしょうか旦那様。」
「
名無しとは我が父の代から存在している、我が家の暗部。あやつらならば、ネズミ駆除くらい容易く出来よう。
「彼らをですか?畏まりました。」
そう言ってマイケルはこの執務室から出て行った。
扉が閉まってしばらくした後、扉からトントントンとノックが鳴った。
事前に呼んでいたアッシュか?
「誰だ。」
「父上、アッシュです。」
やはりか。
「入れ。」
「失礼します……お呼びに応えたく、参上致しました。」
「よい、お前とワシしかおらぬ。」
「では、用とは?」
「お前の婚約が決まった。来年辺りで正式に発表されるだろう。」
「そうですか。では、相手はやはり……」
「うむ、オルビット家の娘、トリーシャ嬢だ。」
息子も分かっていたようだ。ならば……
「良いか?トリーシャ嬢を丁重に扱え。呉々も逃げられるようなことはあってはならぬ。これは当主としての命令である。」
「はい……」
「お前があの娘と仲が深まれば、この家はより繁栄するであろう。期待をしているぞ?アッシュよ。」
「…………はい」
ついでに例のネズミも聞いて見るか。
「ところでアッシュよ、クールという名に覚えはあるか?」
「え?いえ、ありませぬ。」
「そうか。では、出て行ってよいぞ。」
「……失礼します。」
息子が出て、扉が閉まった瞬間、冷たい風が窓から入ってきた。
ワシはその風に告げる。
「我が家にネズミが入った。名はクール、そやつを探し出し、排除せよ。」
風はなにも答えず、そのまま窓から出て行った。
………………
その窓、開けたのだから閉めろ。
――――――――――――――――――――
私の名はロバート。
ロバート・ヴィ・オルビット。
このテレスト王国の侯爵の一人で、一人の親だ。
私は今、自分の無力さに悔やんでいる。
それは娘の婚約が決まったからだ。
本来ならば、それは親としても、そして貴族としても喜ばしいこと。
だが、それは相手の家のことで喜べないでいる。
アストラ公爵家……
それはノエル・ヴィ・アストラが当主として君臨している家。
黒い噂が絶えない、探ろうと思っても即座に消される。
なのに、証拠が全く出ない。
王家にそのこと訴えても重い腰を動かさず、何もしない。
いや、分かってる。
王家は、かの家に手を出せないことは。
あの家を切れ捨てられないのは陸の物流に組み込み過ぎている、尚且つその甘い利益は王家も啜っているのだ。
アストラ家当主はこと金の流れに置いての手腕は本物だ。
だから、オルビット家を守るために……
何よりも娘のトリーシャの幸福を守るために、
無理難題な条件を世に広めた。
この条件ならば参加している派閥を変えるまでの時間稼ぎになれると思っていた。
なのに――
「お父様、またお一人で悩んでいるのですか?」
「……トリーシャ…………」
いつの間にかこの執務室に来ていたらしい。
「当ててみましょうか?私の婚約が決まったのですね?」
「ああ、だがこれは私があまりに遅過ぎたせいだ。」
「貴族派から王家派に移りたかったのですよね。」
そうだ、今の私たちは貴族派だ。
そして、貴族派の頂点に立っているのはアストラ家だ。
「王家派に着けば、ネブラス家が私達をアストラ家から守ってくれるのですからね。」
「ああ、だから私は――」
「もういいではないですか?」
何を……言っているんだ?
「お父様はもう十分頑張ったではありませんか。」
「何も実らなければ、努力したことにはならないよ。」
「もう!相変わらず、ことが上手く行かなかった時に自分を自分に鞭で叩くのやめてください!」
………………
「私を大事に想っているのは嬉しいです!ですが、それでお父様ご自身を犠牲にするなら私は幸福になることなどありませんよ!?」
すまない……
「そして、何より……何よりも女神様達の元に赴いたお母様が今のお父様を見たら哀しみますよ!?」
「いや、それはないんじゃないかな…………」
もうこの世にいない私の最愛の妻……パトリーシャ。
もし、今の私を見てしまったら……
彼女は哀しむのではなく拳を握って私をぶん殴るだろう。
「大丈夫ですよ、お父様。」
「なにを……」
「大丈夫です、きっと。」
娘の瞳が真っ直ぐ私を見つめている。
彼女と同じく力強く、美しい蒼色の瞳。
「何故、そんな風に笑えるんだい?」
そう問いたら、娘はあのパトリーシャを見送った時に無くなったはずの笑顔で応えた。
「ふふふ、あの方なら……あの方達なら……きっと、大丈夫です。だからお父様?私を信じて下さい。」
「本当に大丈夫かい?トリーシャ。」
私は不安だ。家がどうなってもいい。国もだ。
だが、娘だけは……トリーシャだけは……
「はい!大丈夫です!お父様はご存知ですか?
………………パトリーシャ。
娘と共に幸福になる君との約束。
私は果たせているのだろうか?
私は……少なくともトリーシャのこの笑顔を信じたい。
信じたいが……
お姉ちゃんなどという言葉を言う一人っ子の我が娘に若干不安を感じるが……
私は信じたいんだ。
――――――――――――――――――――
テレスト王国・ガラクシア城にて、
この国の王、ヴィンセント・ガラクシアナ・テレスト3世は衝撃な報告を受けた
「真かそれは!?」
「はい……動くことが出来るくらいにご回復なられましたが……」
「そうか……それでエリックの様子は?」
「その……此度の遠征を中止にするつもりはないと仰れて……」
「なっ!?何を馬鹿なこと申しておるのだ!あやつは毒を盛られたのだぞ!?」
「此度の戦が成功すれば、魔族達との戦争が終結すると。そのためには第一王子殿下自ら赴かなければならぬと。そう仰れて……」
「そういうことを聞いているのではない!あやつを止めよ!休ませるのだ!」
「そう仰ると思って、第一王子殿下は先遣隊を率いて出撃に出られました。」
「何故、それを先に報告をしなかったのだ!?王命だ!あやつをつれ――――」
「なりませぬ!陛下!」
「何故だ!?」
「毒を盛った犯人が未だに判明しておりません!無闇に王命を使って無理やり王子を連れ戻せば、今度こそエリック殿下の命が危険で御座います!」
「ならばどうすれば良いというのだ!」
「…………今は本軍を作り、急いで追いかけて貰いましょう。何人かの近衛を見繕って、密命し、ネブラス家と連携を取りましょう。あとは我々が賊を探し出し、取り除けば良いのです。」
「……それしかないのか?」
「わかりませぬ。が、出来ることをやるべきかと。」
「………………分かった。」
「では、急いで準備して参ります。」
大臣がそう言って、今に部屋から出ようとした瞬間、国王に呼び止められた。
「――カニスよ。」
「なんでしょう?」
「王子王女達は…エリック含め、皆等しく私の愛する子だ。……頼む。」
「御心のままに、必ずや。」
その次の日、軍隊が編成され、ネブラス領に向かう。
そして2ヶ月後、その軍隊が壊滅したというニュースが国中に衝撃が走った。
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NAISEIは書けぬ
281☆、873❤️、733作品フォロー
と31700PV本当にありがとうございます!
@evohachiさんもレビューありがとうございます!!
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