執事服の弟

「あの……クール様!わ、私のグラスに飲み物を注いでくれないかしら?」


「クール様、わたくしともお喋りしてくださいませ!プルサ子爵の子ばかりでズルいですわ!」


「あら、それでしたら先客のあたくしが宜しいのではなくて?どうでしょうか?クール様、このあとのダンスで一曲でも?」


 ども、ルークだ。

 俺は今、執事の恰好をして貴族の令嬢達に囲まれている。

 兄上の婚約者の顔を少し拝めて、ついでに飯も少し食べてさっさと退散する予定だったんだが……上手く行かなかった。


 ま、イケメンに生まれてしまったから仕方ない。

 一目俺を見れば誰もがお近づきになりたがるだろうよ。

 全く、俺ってば罪深い男だ。ふふ……

 因みにクールとは俺のことだ。

 

 兎に角、この子達を捌かないと。


「ははは……アキッラ様、貴方と一曲踊れるのならば、それは天に輝くどの星よりも誉れになるでしょう。しかし、私はただの使用人見習いで御座います。地に立つただの使用人の私には天に輝く星の貴方様には手を伸ばしても届かないのです。」


 キラキラ


「まあ……星だなんて……」


「セルペンス様、貴方と会話が出来るのならば。それは至上なお時間になりましょう。ですが、使用人の私がそれを頂くのは心苦しい……」


 キララーン


「気になさらなくても良いのに……」


「プルサ様、お飲み物でしたらこちらのクィラプ(葡萄)のジュースなど如何でしょう?この暗い色合いの飲み物ならば、貴方様の美しい小紫色の瞳に相応しいでしょう。」


 キラッキラー


「でしたらわたくしにも飲み物をお見繕って下さいませ!」

「ええ!あたくしにもお願いしますわ!」


 ……それとなく断ったのに余計積極的になった。


 どうしようか?

 と、そう思っていたら思わぬ助け舟が来た。


「そこな見習い、そこで何をしている?我らに給仕をせよ。」


 兄上タイミングないすぅ!!!


「主がお呼びですので、これにて失礼しますね。」


 キラキラキラー


 と、俺はそう言って即退散した。

 令嬢逹は「残念ですわ……」と後ろで名残惜しそう言っているが、申し訳ないが今はもう関わりたくない。

 俺が危ない。


 急いで我が兄の下へっと来たが、当の本人の眉が凄く歪んでいる。


 うお!?急に早足でこっち寄ってきた!!!

 壁際まで連れてこられた。

 あと、壁ドンしないでくれ……惚れちゃうぞ。


(何をやっているのだ貴様は!)


 と、小声で言っているが声に籠もった怒りの気持ちヒシヒシと伝わる。


(なにって……脱走?ところでこの服どう?似合う?)


(何故、脱走した!?)


(そらぁ、兄の嫁になる子が気になってな。で?この服似合う?)


(トリーシャ嬢なら婚約が決まればこれから会うこともあるであろう!何故ワザワザ今出てきた!)


 何故って......深く考えて見たが…… 

 

(………………ノリ?)


「ノリだ!?…………っ!こほん……」


 急に耳元で叫ばないで欲しい。



 片耳が何も聞こえなくなってる俺はゲームで見知った顔の女の子が近づくのを見た。


トリーシャだ。


 おおー!!!ゲームキャラがそのままリアルになった感じだ!ちょっと感動!


「アッシュ様?急に早足で歩き出しましたが、どうかしましたか?」


「トリーシャ嬢!?こ、これはその……!」


 兄上がまるで浮気現場を抑えられた男みたいな挙動不審だ。仕方ない、さっき助けて貰ったからな!


 俺が一肌脱ごう!


「これは、オルビット家のご令嬢とお見受けします。私はこの屋敷の執事見習いの『クール』と申します。以後お見知りおきを。」


「……あら?その髪色は……それにそのお顔は……」


「おい、何が『クール』だ貴様。貴様の名はルークであろう!」


「ルーク?」


「…………兄上……せっかく、助けたのに流れに乗ってくれよ……」


「余計なことを気にせんでいいわ!馬鹿者!」

 

「兄上???」


「はぁ………………弟だ。トリーシャ嬢よ。」


「……え!?」


 そらぁ、驚くよな。8歳以下の子供は社交会に出れないはずなんだから。誕生日会だけど。


「では、改めて……お初目に掛かるよ。アストラ家の次男、ルーク・ヴィ・アストラだ。宜しく!イエーイ!ピース!ピース!」


「はい?ピ、ピース???」


「変なこと教え込もうとするな!大体なんだ?その格好は!」


「お?やっと気になったか?見ての通り執事服だ。似合ってるだろ?」


「そう言う問題ではない!それをどうやって手に入れた!誰かに貰ったのか?」


「セッテ。」


 執事服の提供者を言ったら、兄上が更なる溜め息を吐いて天井を仰いだ。


 因みにセッテはこの場にはいない。

 さっきまで兄上と一緒だっただろうが、いつの間にか居なくなっただろう。


 セッテは今頃オルビット侯爵との密談に聞き耳立ててるんじゃない?まぁ……薬に関して大した情報は得られないだろうが。オルビット家は薬には関係ないし。


「はぁ……それで?もう目的を果たしたのであろう?そろそろ部屋に戻れ。父上に貴様のことが知られたら、何が起こるか分からぬ。」


「飯食べたら帰るよ。で、どう?この服似合ってるだろ?」


「だからそういう問題では……」


「似合ってない?」


「はぁ……」


「似合ってないのか……」


「ふふふ……ルーク様、心配しなくても似合っていますよ?」


 似合ってないことに落ち込んでいたらトリーシャ嬢が誉めてくれた


「本当か、トリーシャ嬢!?君はいい人なんだな!ヨシ!俺のことを呼び捨てにしてくれていいから、君のことをトリーシャと呼ばせてくれ!」


「…………お姉ちゃん……!」


「おい、何故トリーシャ嬢の呼び方がそれなんだ?俺と同じような姉上でも良かろう?」


「兄上はなにを言っているんだ?姉上じゃあ味気ないだろう?それとも何だ?お兄ちゃんとでも呼ばれたいのか?」


「やめろ、気持ち悪い。」


「っぷ、ふふふ……」


「トリーシャ嬢?」


 お姉ちゃんがプルプルと……なんだ?腹が痛いのか?


「あははははは!ふふっ!ははは」


「ど、どうしたというのだ?トリーシャ嬢……」


「あはは……いえっ……ごめんなさい。笑うつもりは……はあはは!」


 おもっきりわろうてるやんけ 


「あはは……ただ……お二人はとても仲がよろしいのですね。わたしは一人っ子なので羨ましいです。」


 そう言われて、俺と兄上は目が合ってしまった。


 それが気恥ずかしくなって俺らはそれぞれ別々の方向に向いてしまった。


(あっ、お二人がそっぽを向いてしまいました!)


 うるさいぞ、お姉ちゃん。聞こえてるぞ…………


 


 

 ================


 230☆、727❤️、598作品フォロー


 と24000PV本当にありがとうございます!


 


 




 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る