勝手についていく弟
「…………」
「…………」
「…………」
ども、ルークだ。
今、俺、兄上のアッシュと兄上の専属メイドが馬車に乗って、件の適性検査所の教会に赴いている。
そして、空気が物凄く重い!
全く!誰のせいだ!?
そう、俺だ!
まぁ、兄上が出発する前に俺がハリウッドスター並みの名演技をしたからだろう。
アレには全米……いや、全世界が涙を流す演技だった。
我ながら良いパフォーマンスだったな。
オスカーを渡すなら、今のうちだぞ?
そして、この重い空気を最初に切り開いたのは……
「…………おい。」
……兄上のアッシュだ。メイドは喋らない。
「なんだ?兄上?」
「なんだとは聞きたいのはこちらだ!!なんだ?!先ほどの貴様は!!」
「なんだとは言われても、アレは愛しき兄上と引きはなされまいと渾身の叫びでだな…………」
「気持ちの悪いことを言うな!!アレはただ、駄々こねただけであろうが!何が『行゛き゛た゛い゛!゛!゛俺゛も゛連゛れ゛て゛っ゛て゛ぇ゛ー゛』だ!」
なんと、俺のあの名演技は兄上には不評だったようだ。
そして、メイドは喋らない。
「大体貴様は、今までそんなこと言ったことなどなかったであろうが。何故、今になってそんなことをした?」
「なに、そう大したことじゃないよ。ただ適性検査所がどんなものなのか気になってな。ほら、俺らは貴族の子だからさ。めったに外に出れる機会がないし、付いて来たまでだ。」
「それならば貴様の誕生日でも待てば良かろう!!今すぐこの馬車を降りて帰れ!!」
「そんなこと今言われても、もう着いたみたいだぞ?」
「坊ちゃま方、教会に着いたですぜ。」
……と、外の馬車御者の声が響いた。メイドは喋らない。
「……チッ」
それで馬車内の愛ある兄弟の対話が終わり、俺らは馬車から降りて出てった。
メイドは喋らなかった。
あと、馬車の揺れで尻が痛い。
◇ ◇ ◇
セナフ教
この世界最大の宗教だ。
セナフ教の基本の教えは地球の宗教と違って自由。
セナフ教の教えは女神ルセと女神リアを崇めるもの。
曰わく、女神ルセは大地に命を与え、女神リアは海に命を与えた。
その仕事を終えた2柱の女神達は一晩泉にその身体に付いた汚れ落とし、身体を重ねて、その落ちた汚れが泉の泥と混ざり合い、夜が明けた朝日と共に7組の人という生命が生まれた。
後にその7組の人はこう呼ばれた
汚れと泥だけの人族【ヒュマ】
汚れと泥に落ち葉が混ざった森人族【エルフ】
汚れと泥に鉱石が混ざった鉱石人族【ドワーフ】
汚れと泥に塩が混ざった水人族【マーマン】
汚れと泥に獣の毛が混ざった獣人族【ビーストマン】
汚れと泥に竜の鱗が混ざった竜人族【ドラグナ】
そして、最期に
汚れと泥に女神逹の愛液が混ざった魔族【カセル】
人々はこれを始まりの7組と呼ぶになった。
うーん、どの世界でも神話というのはちょっとエロいのだな。しかも百合とは……中々ハイレベルだ。
女神達は生まれた新たな生命達と共に70日間の春で学び、70日間の夏で遊び、70日間の秋で狩り、70日間の冬に眠った。
これがこの世界の一年の基準になった。
そして、冬が明ける最後の日に生命達を呼び集め、女神達は別れを告げる。
女神達は彼らにこの大地の名を決めさせた。
始まりの7組はこの大地の名は母逹ルセとリアの名こそ相応しいと彼らは告げた。
【ルセリア】
それがこの大地の名だと。
その名に女神ルセは涙を流し、女神リアは笑う。
女神達は感動の褒美として、何が良いかと問う。
魔族は魔法がある故に褒美を貰わぬと告げる。
竜人は力がある故に褒美を貰わぬと告げる。
獣人は野を駆ける早さがある故に褒美を貰わぬと告げる。
水人は海がある故に褒美を貰わぬと告げる。
鉱石人は山がある故に褒美を貰わぬと告げる。
森人は森がある故に褒美を貰わぬと告げる。
故に彼らは告げる。
何も持たぬ人族にこそ褒美をと。
人族も告げる。兄弟達の愛がある故に褒美を貰わぬと。
女神逹も告げる。
ならば、その愛に応えられるよう祝福をすると。
女神ルセからは繁栄の祝福を。
女神リアからは恋の祝福を。
この祝福により人族は数が増えやすくなって、多種族との繁殖も出来るようになったとされている。
そして、女神達は最後に告ぐ。
懸命に学び、楽しく遊び、良く食べ、疲れたときに寝よ。と。
そして、その生を全うし、世界を見定めた後に我らが迎えると。
女神達はその言葉を残して、光の柱となり、この大地を去った。
これがセナフ。
セナフとはこの世界の言葉では【神々の軌跡】という意味だ。
そう。
これが原作タイトルの【ルセリアの軌跡】の意味だったのだ。
胸に熱い想いを込めて、俺はこの古い教会見つめていた。
「………………………………おい、邪魔だ!そこで立たないで、さっさと歩かんか!!!」
「おっと、すまん。」
俺、邪魔だった。
あと、メイドは最後まで喋らないままだった。
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