第40話
「はあ……どうしたらよかったんだろ」
「でも、これ以上踏み込んでたら、そこで止まれなかったと思うし……」
「うぅ……また失敗した。全然集中できてない。いつになったら元に戻れるんだろ」
淡々と沙羅の口から裏垢の投稿内容が告げられていく。
ほとんどはどうしようもない愚痴やとりとめのない悩みだが……。
「次のお仕事、コラボ相手決まってないみたい」
読み上げた沙羅が顔をあげて言う。
「お兄ちゃんなら、いけるんじゃないの?」
「いや……」
「前に勧誘受けてた事務所、ステラの所属先と一緒っすよね?」
「……」
そう。
大吾の容姿は都市部を歩いていて放置されるようなレベルではなかった。
過去何度も受け、断ってきたスカウトの中には、ステラが所属する芸能事務所も含まれている。
名刺は残っているし、そこからアイドル、前川理世に接触することは出来なくはない。
ただ……。
「俺がコラボしたところで、相手はアイドルの前川理世で、リヨンじゃない」
そもそもいくら名刺を持っているからと言っても、都合よく接触できるとも思っていないところもあった。
「この際コラボになるかどうかはどうでもいいっすよ。ただ会えれば」
「会えれば……」
「自分が場所の特定まではするっす。他のアカもあるかもしれないっすし、別にSNSじゃなくても情報は集められるんで」
「助かってるんだけど怖いんだよな……」
妹ながら、いや妹だからこそ空恐ろしい気分に襲われながら、大吾は考える。
「会ったところで、何が出来る?」
「リヨンさんって人が、別にそんな薄情だとは思わないっす。お兄ちゃんがつながって、場をセッティングして、あとは先輩次第じゃないっすか?」
「俺が二人を引き合わせるってことか」
考え込む大吾。
別に居場所の特定が出来る沙羅がいるのであれば、大吾がひと手間を加える必要すらない可能性はある。
それでも沙羅がこの回りくどい方法を取らせようする意図も、大吾には理解できる。
現状では全く、リヨンの様子が、思惑が、何もかも見えないから。
無暗に引き合わせるまでに、一度リヨンの真意を確認する必要がある。
前川理世ではなく、リヨンを引き出す必要があるのだ。
そのために……。
「はぁ……高く付くでござるよ、アキ殿」
なんとなくそんなことを言いながら、つい最近スカウトを受けた名刺に連絡を取る大吾。
その作業をしながらも、大吾は沙羅に問いかける。
「俺と沙羅はいいとして……アキは大丈夫か」
「それは大丈夫。ちゃんとフォローする人がいてくれてるっすからね」
「そうか」
大吾が優しく微笑む。
「アキは愛されてるな」
「いい人っすからね」
大吾はずっと芸能界のスカウトを拒み続けてきた。
理由は興味の無さでしかないのだが、それでも何度もスカウトを受けるうちに本気で考えたこともあった。
それでも選択しなかったのには、大吾なりのしっかりとした想いがあったからではあるが……。
「アキのためなら俺も、やってやろうって思えるよ」
オンラインでしかなかった繋がりだと思えば、過剰とも言えるほどの信頼感。
そうさせる何かが、彰人には備わっているようだった。
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