第36話 理世視点
「盛りだくさんだったねー」
駅までの道を歩く彰人と理世。
すっかり外は暗くなっているが、この辺りはあらゆるビルや店からの光が溢れ、むしろこれから活気が増していくような場所だ。
「カラオケからダーツにビリヤードにボウリングに……結局もう一回あのペットカフェも行ったしほんとに詰め込んだな」
予定を主導したのは理世だった。
カラオケまでは彰人に委ねていた部分があったし、それを彰人も感じ取っていたのだが、途中でガラッと方針を変えたようだ。
そしてその勢いのままリヨンが彰人を誘う。
「ねえ。まだ帰らないでもいいよね?」
「いいのか……? もう結構遅くなってるけど」
「大丈夫! なかなか時間取れなそうだしアキくんが大丈夫ならもうちょっと一緒にいたいんだけど……」
視線を少し反らしながらリヨンが言う。
トップアイドル、ということを差し引いても、理世のこのアピールを拒める男は早々いないだろう。
彰人も拒むことは出来ず素直にうなずいた。
もっとも彰人も断る理由はないのだが、今の流れなら最初と同じようになっても、不思議ではなかった。そこに考えが行きつく前に即答させられたという自覚が彰人に生まれる前に、理世に手を引かれて、来た道を再び戻る。
「どこ行くんだ?」
「ふふ。ちょっと寄れるくらいの場所」
よく理解していないが悪いことにはならないだろう程度の気持ちで、彰人は理世について行く。
というより、彰人にとってはもう、ただ一緒に歩いているこの時間が十分に楽しいのだ。
そしてそれは理世も同じだ。
「ふふ」
「どうした?」
「いや。一緒に歩いてるだけで、私いま結構幸せかもと思って」
ストレートすぎる理世の言葉に固まりそうになる彰人。
「可愛いよね、アキくんって」
「また可愛い、か」
「でも、悪くないんだって」
「それはそうだけど……俺はよっぽどリヨンの方が可愛く見えるけど」
「なっ!?」
不意打ちにリヨンが立ち止まって振り返る。
「もうっ! もうっ! ずるいんだってばそういうのが!」
この辺りは寧々に鍛えられている彰人に一日の長があるかもしれなかった。
「むぅ……まあでも、これはこれで満足感があるかな」
理世が言う。
「私はそれ以上、望まないから」
理世が彰人から目を反らして、空を見上げて言う。その意図は鈍い彰人にも伝わった。
今の二人はもう、傍から見ればカップルと言える距離感だ。
一度はステップを踏み越えてさらに先に行こうとしたくらいの、そんな二人にとって、この辺りの線引きは難しくないっていた。
「それ以上、か」
「あ、エッチなこと考えてたでしょ? どうする? 別にホテルの方に戻ってもいいよ?」
いたずらっぽく理世が笑う。
それ以上、が指す内容がどこなのかについては、二人のすり合わせが必要だったかもしれない。
苦笑いした彰人は軽く流して目的地に誘導した。
「まあまあ。で、目的地はここでいいのか? 戻ってきた感じだけど」
「あーあ。振られちゃった」
そう言って笑う理世にも、そこまでその気があったようには思えない。
結局二人が求めている関係が今は、ただ並んで歩くラインだったということだろう。
「目的地はね、今回は上じゃなくてもう、ここなんだけど」
「ここ?」
ビルの上には、二度世話になったペットカフェ。
だが今回の目的地は……。
「ゲーセンか」
「そそ。なんだかんだ通り抜けるだけになっちゃったし、ちょっと遊ぶにはいいでしょ?」
「それはそうだな」
クレーンゲームの並ぶゲームセンター。
「目当ては?」
「んー……とりあえずレースから順番に」
理世の表情を見て彰人も思い出す。
元々ゲーマーで、負けず嫌いだったことに。
「最後のボウリングの負け、気にしてるのか?」
「全然! 全然気にしてないけど、確かアキくん、そんなにやってないよね? レース系は」
表情では隠し切れない悔しさが溢れているのがまた可愛らしく映る理世に笑いながら、彰人も言われた通りゲームに付き合うことにしたのだった。
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