6、襲撃と崩壊

 城内殿下撮影大会に参加していたので、討ち入りの集合時間ギリギリになってしまった。


「とっとと、終わらせて。生誕祭に顔を出したいな」


 俺はあらかじめ団長より伝え聞いていた襲撃地点近くの教会へ向かっている。

 全員斬っていいなら楽なんだけど。


「一番隊隊長、サフィール現着しました」


 遅いぞ、何やってたんだ。と団長が呆れ顔で言っている姿を想像していた。



 だが、扉を開けてもその声が返ってくることはなかった。



「え……」


 そんな間抜けな声が俺の口から漏れていた。

 団長が背中を斬られて倒れている。

 言葉にすれば、酷くあっさりとした出来事。


「団長ッ!!」


 背後からの一太刀……相当深い。

 だが、団長がこうもあっさりと後ろを取られることなどあり得ない。

 近くではワイスも同様に斬られている。こちらは向こう傷。


「ワイスまで……」

「さ、サフィー、ル……」

「ッ!? 団長!」


 まだ息があった団長が俺の存在に気づいた。

「しっかりしてください、今手当てを……」

 俺が羽織を引き裂いて止血を施そうとすると、団長は力ない腕でそれを制止する。

「聞け、サフィール……」

「喋んないでください、血が……」

「サフィー!!」


 もう喋る体力も乏しいはずなのに、団長は残りの力で俺に喝をいれる。

 息は荒く、目はもう見えていないようだ。

 俺は団長の手を握り締めていた。


「動揺するな……冷静になれ……」

「はい!」

「情報は……嘘だった……俺たちは嵌められた……」


 血が喉に詰まりながらも、俺に最期の言葉を伝えようと団長は懸命に声を出す。


「シンが……裏切った…………」

「……はい」

「他にも敵と通じているものが……いる」


 もう、ほとんど呼吸のような声で振り絞る。


「騎士団を、帝都を……頼む……」


 自らの短剣を俺に押し付けたあと、握り返していた団長の指の力が抜ける。


「承知しました。団長」


 俺は、短剣を受け取り。教会を後にする。


「わかってますよ団長。ワイスも、心配しなくていい。……俺が粛清する」


 騎士団法度。


 一つ、『騎士道ニ背キ間敷事騎士道に反するべからず

 一つ、『団ヲ脱スルヲ不許団を抜けることを許さず


 副長が定めた騎士団が正しくあるための法度。

 団長が遵守を推奨し気高くあろうとした法度。

 法度に違反せし騎士道不覚悟の者には切腹を申し渡し、従わないものは……俺が粛清する。

 そうして、築き上げた鉄の掟。

 承知の上だろう。覚悟をしてるのだろう。大義があるのだろう。


「知ったことか」


 そんなことは、どうでもいい。


「撫で斬りだ」


 誰が呼んだか『千刃』。

 一体、何を千も斬ったと思っている。


 俺は千の騎士裏切り者の屍の上に立っている。

 今更、一人増えようが十人増えようが、誤差に過ぎない。

 それが兄弟子であろうとも。


 教会の門を越えたその時だった、城下の町に火の手が上がったのは。

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