帝国が乗っ取られそうなので極道と手を組んで奪い返す話
文月イツキ
序章 北風と太陽
0、北風と太陽と五十の首
「ようやっとお出ましか。サフィー」
目の前の騎士の首が落ちて、赤で汚れた金色が顔を覗かせる。
本来ならば建国記念の祭典で賑わっていたはずの帝都の広場に生者は二人、他は帝国を守護する騎士団の骸の山、点々と広がる血溜まり、俺の部下達だったもの。
黎明が槍の刃先を照らし出す。
「随分高い買い物やったなぁ」
眉根一つ動かさない、堂々と、飄々とした、本物の修羅。
「……ソル」
嫌になるくらい顔を合わせた彼女の顔が、今は……本当に嫌になりそうだ。
「五十はおったのに手傷の一つも負わせられん、大赤字やなぁ」
神経を逆撫でする、のんびりとした喋り口。
こんな状況で顔を合わせているというのに、ソルは顔色一つ変えない。
「最初っからお前が出とったら、こうはならんかったやろ。何しとったん?」
「関係ないだろ、アンタには」
ソルは少し訝しむように顔をしかめた。
そんな表情も出来るんじゃないか。
「柄にもなく、気が立っとるなぁ」
「お喋りしに来たわけじゃない」
俺は鞘に手を掛ける。
ソルは槍を構え直す。
「せやな、話すより。こっちの方がウチららしいわ」
少し、ソルの口角が上がった気がする。
「御用改めである! 広域指定暴力系ギルド『
「『拘束』やと……?」
一突き。
槍の刃が俺の首を紙一重で横切る。
「五十の
「だったらッ!」
俺は槍の柄を掴んでソルを眼前まで引き寄せていた。
そして、ソルの鼻柱に額を打ち付ける。
……気色の悪い音が鳴った。
「ごちゃごちゃ言ってないで、今ので仕留めろよ……!」
俺はソルが手放した槍を地面に放り捨て、丸腰の奴に向かって剣を抜き放ち、切っ先を向ける。
鼻から血を滴らせながら、平然と立ち上がるソルから目を離さない。
「そうやな……フフっ、そう来んと、釣り合いが取れんわな」
そう言い、ソルは腰に提げたボロ布と見間違うような巾着袋を漁り、一枚の小汚い硬貨を取り出し、左手で宙に弾く。
「一つ払い、一つ得る。五十の首とお前の首で、ウチの首一つ。ちっとばかし、そっちの方に
どちらの視線も弧を描く硬貨を追わないが、小さな音でそれが彼女の手中に収まったことを告げる。
「――
言葉が言い切られると同時に、ソルの手には先程と同じ……いや、
ソルは再び構える。
空気が色を変える。
これが大捕り物なんかじゃないことは、端から分かってる。
「帝国騎士団、一番隊 隊長、サフィール・アルフェルグ……令状にお前の首の有無は記されていない」
「『
そう、これはただの、純粋で非尋常な――殺し合いだ。
どうしてこんなことになったのか、話を昨日に戻そう。
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