2—6 昔話と、これからの話

 ちょっと早めの夕ご飯がはじまった食堂は、とても賑やかだった。

 鎧を脱いだ騎士たちは、ただ普通の若者たちとして、ワイワイ騒ぎながら料理にがっついている。


「うまい! こんなうまい飯、はじめて食った!」

「これもイーシアさんが作ってくれたらしい」

「そうなのか!? やっぱりイーシアさんは俺たちの女神様だな!」


 ふむふむ、どうやらイーシアさん、騎士団の女神様になっちゃったらしい。

 屈強な騎士たちにあっという間に慕われるなんて、さすが伝説の空中戦艦だよ。


 さて、この賑やかな食堂で、僕とイーシアさんはシェノとメイティ、ミードンと並んで料理を楽しんでいた。

 美味しそうに料理を食べるシェノは、ふと僕に尋ねる。


「レンってさ、故郷どこ?」


 いきなりの質問に、僕は正直に答えた。


「ベルティアから遠く離れた盆地にある、畑くらいしかない小さな村だよ。そこで村のみんなに育てられたんだ」

「ふ~ん。きっとレンのパパとママも、すっごく優しいんでしょ」

「ええと……実は僕、両親が誰なのか知らないんだ」


 話の流れで自然に口から漏れ出した、僕の抱える秘密。

 そこからは、気を晴らすみたいに言葉を続けた。


「僕は自分が生まれた場所も両親も知らない。赤ん坊の僕は、ベルティアの川辺で拾われたらしいからね。ただ、僕がこうして生まれた限り、両親はいるはずだし、生まれた場所だってあるはず。だから僕はそれを探して――ああ、ごめん! こんな話、興味ないよね」


 一人で勝手に喋り出しちゃって、なんだか申し訳ない。


 僕の話を聞いて、イーシアさんは不思議と何も言おうとはしなかった。

 代わりに、頬杖をしたシェノが口を開く。


「レンは自分の生まれた場所と両親を探してるんだ?」

「うん」

「じゃあ、わたしも手伝う! 一人で探すより、貴族パワーを使った方が確実でしょ!」

「シェノ……!」


 まぶしいくらいの笑みを浮かべたシェノに、僕は感謝以外の気持ちが見つからない。

 一方、ミードンを膝に乗せたメイティは、冷たい視線で言い放った。


「待つのです。シェノ様に手伝ってほしいなら、それなりの見返りを寄越すのです」


 無表情、クール、事務的。そんなメイティを前に、僕は思わず構えちゃう。

 シェノは「ああ……メイティの軍師モードがはじまった……」とつぶやき、頭を抱えた。

 気にせずメイティは僕を見据える。


「私たち騎士団は、王女殿下の勅令を受けて都市遺跡サンラッドと『虚無』へ探し物をしに向かっている最中なのです」

「え!? 『虚無』に!? あんな危ない場所に!?」

「そうなのです。あの非常に危ない場所で探し物をしなくちゃいけないのです。今回のように、またマゾクと遭遇する可能性もあるのです。私たちは、危険な任務の最中なのです」


 ひとしきりの状況説明を終えて、メイティはペコリと頭を下げた。


「お前が望みを叶えたいなら、この任務、空中戦艦に手伝ってほしいのです」


 真っ直ぐな言葉。たぶんだけど、メイティはシェノのために頭を下げているんだろう。


 僕の答えは決まりきっている。

 ただ、空中戦艦――イーシアさんの意見はどうなんだろう?

 そんな僕の気持ちはお見通しなのか、イーシアさんは優しい笑みを浮かべた。


「フフフ、レンくんの好きなようにしていいのよ。レンくんのやりたいことなら、私はなんでも協力するわ」


 じゃあ決まりだね。


「分かったよメイティ。できる限りのことはする」


 僕がそう答えると、やっぱりメイティは無表情のまま、けれどもミードンをムニっと抱きしめた。

 その隣で、シェノは申し訳なそうな顔をしている。


「ホントにいいの? 任務を手伝ってくれるのはありがたいけど、別に危険な任務を手伝ってくれなくても、生まれた場所と両親を探す手伝いはするよ?」

「問題ないよ。少しでも多くの人を助ける。それも僕の夢みたいなものだから」


 迷いなんてなかった。

 事実、シェノたちはマゾクと対峙し、危険な目に遭っていた。

 もし空中戦艦がいなければ、シェノもメイティも、騎士たちも、こうしてイーシアさんの美味しいご飯を楽しめなかったかもしれないんだ。


 だから、空中戦艦を操れる僕が、シェノたちの手伝いをしないなんて選択肢はないんだ。

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