卵焼き。

 なにがどうしてそんな話になったのか。卵焼きの話になった。

「私、いつも思うんだ。子供の頃家で食べてたアレは本当に卵焼きだったのかな、って」

「え。もしかしてダチョウをおうちで飼ってたの?」

「なんでそうなるの」

「だって、卵焼きは卵焼きでしょ。それが違うかもしれないって、それはもう材料から違うとしか」

「材料は鶏の卵よ。いくら何でもそこは同じ」

「じゃあなんでいまさら、卵焼きの過去を疑ってるわけ?」

「うーん。なんと言うかね、作り方が違う……?」

「作り方」

「だって、うちにはアレがなかった」

「どれ?」

「アレよ、あの……卵焼き器」

「あー、四角いフライパン」

「そう、それ」

「今はあるじゃん」

「そう。卵焼きを作るのには卵焼き器がいると思ったから買ったの」

「四角いフライパンで焼いたんじゃない卵焼きって、なんなんだろうね……」

「うん。自分でもわからなくなってきた。私が食べてたアレ、何なんだろう……」

「普通のフライパンで、卵を焼いて……ひっくり返して……」

「焼きあがったら、お皿に載せて、ケチャップかける……」

「え? ケチャップ? それもうオムレツでは?」

「そうなのかな……うちの朝ご飯では、フランス料理を食べていた……?」

「洋食屋さんだったんだねえ……」

「白いご飯とお味噌汁とオムレツを出す洋食屋さんのうちの子だったのか、私……」

「きっとそうだよ!ムッシュ!」

「せめてマダムって言って!」

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