たべもの。

椎出啓

納豆。

納豆


 何がどうしてそんな話になったのか。納豆の話になった。

「なんかもう、朝は納豆だけでいい」

「自炊生活もいよいよ行き詰まってきたねえ。いや、どちらかというと極まってきたのかな?」

「ちゃんと白いご飯が炊けていればいい」

「あ、お米は食べるのか。てっきり納豆だけをストレートにモーニングコーヒーのように飲むのかと」

「どんなモーニング納豆なの、それ」

「『昨日の夜は、素敵だったよ』とか言いながら」

「納豆片手にイケボで言うな。どんなセックスしてたのさ」

「そりゃアソコとアソコが糸引くような」

「言い方」

「えー、でもだいたいそんな感じじゃ」

「感じじゃない」

「そっかー」

「別にセックスしたあとのご飯の話じゃないから」

「じゃあ、普通の朝ご飯かー」

「うん。寝坊したわけでも、早く起きすぎたわけでもない、普通の朝」

「そうだよねー。セックスしたあとにお米といで炊飯器にセットするの、めんどいしー」

「いや、セックスから離れて」

「炊飯器のタイマーセットしてから『さあ、ヤるぞ』って言った方がいい?」

「だからセックスから離れろ」

「そっかー。じゃあさ、納豆には、なにかける?」

「なに、って……お醤油とか、パックに付いてるタレとか?」

「うん。でもさ、もうひと味欲しいでしょ」

「もうひと味」

「だってさだってさ、付いてるタレだと、タレの味しかしないでしょ!」

「そりゃタレなんだからタレの味でしょ」

「そんな倦怠期のセックスみたいな納豆でいいの!?」

「別に納豆と所帯持ってるわけじゃないやい」

「違う味との出会いがあってもいいと思うの!」

「たとえばどんな?」

「バニラエッセンス」

「いきなり交通事故だよ」

「そんなことないよ!きっと刺激的な味だよ!」

「朝からそんな出会いしたくない」

「保守的だなあ……」

「だからって出会い頭にダンプカーは嫌なのよ。もっと安らぐ味にして欲しい」

「うーん……じゃあウズラの卵とか?」

「あー。なんか良さそう」

「ねぎ刻んでさ、鰹節かけてさ」

「うんうん。良さそう」

「でしょでしょ。オクラも刻んでー。熱いお茶入れてー」

「でもそこまでやるんなら普通にお味噌汁作るわ」

「なんでさ!納豆ご飯って言ってるじゃん!」

「もっと手軽に食べたいって話だったでしょ……」

「じゃあさじゃあさ、色々試してみようよ、シンプルそうなやつ!」

「え、買い物行きたいの?」

「うん。てきとーにレシピ検索してさ。よさそうなやつたくさん買ってこよ?」

「いやたくさんはいらないわよ……」

「じゃあいくつか!」

「仕方ないなあ……あ」

「ん?」

「買ってあるパン、賞味期限今日までだった」

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