第4話 The Beginning

年に一度のピアノの発表会。去年も思ったけれど人前で演奏をするのは本当に苦手だ。

嫌な予感は的中して演奏は大失敗!何度も練習した曲なのに、頭の中が真っ白になってしまってうまく弾く事が出来なかった。帰り際、先生は「良かったよ」って言ってくれたけど悔しくて悲しくて涙が出る。

(あぁあ。もう、辞めちゃおうかな)

レッスン自体は嫌いではないけれど、今はもう全くやる気が出ない。

楽しみにしてくれていた家族にも申し訳なくて、なんだか消えてしまいたい気分だ。


この日の為に買って貰ったお気に入りの靴を見つめながらトボトボ歩いていたら、会場近くのレストランに着いた。

普段はあまり来ることのないこのお店。本当ならご褒美なんだろうけど、すっかり落ち込んでいる私を励まそうとするのが伝わってくる。

いつまでも暗い顔をするのは良くないとわかってはいるのに、気を抜くと泣いてしまいそうな弱い自分にガッカリだ。

(よし!)気合いを入れて顔を上げると、お父さんもお母さんもホッとしたように微笑んだ。

すぐ横のテーブルには隣のクラスの子がいる。小学生の部の最後にすごく素敵なピアノを弾いていた彼女は、同じピアノ教室に通っているけれど話したことはない。

「あ!」

彼女は私たちのテーブルまで走り寄り「ねえねえ、さっきの曲!」と話しかけてきた。

(失敗したの、見てたのかな……)

何を言われるのだろうとドキドキしてしまう。

「最初の方のアレンジって自分で考えたの?」

なんとも予想外の質問だ。

「思い出せるまで適当に弾いてみただけだよ」

強がってそう答えたけれど嘘は言っていない。

すると彼女は私の目を真っ直ぐに見つめて

「すっごく格好良かった!」

そう褒めてくれた。

こんな風に言ってくれる人がいるなんて正直驚いた。

「……ありがとう」

「今度、一緒に弾いてみない?きっと楽しいと思う」

私がうまく答えられないうちに、お母さんが乗り気になって話を進めていく。

なかなか戻ってこない彼女を心配して呼びに来たお母さん同士が盛り上がって、近いうちに家に遊びに来る事が決まった。

(知らない人と話すのは嫌だけど、この子となら楽しそう)

彼女と弾く事が出来るならもっと沢山練習しないと恥ずかしい。

もう少しだけ、ピアノを続ける事にした。

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