第3話

 時間というものは無慈悲に過ぎていく。

 食器洗いをしたあと、例のラインのことを聞こうとしたけど、うまく避けられて、その日はやり過ごされた。


 次の日、朝起きたらお姉ちゃんはもう大学にいっていた。

 夜は姉のバイトがあるから、その後問い詰めようと思ったけど、家に電話がかかってきて今日遅くなりそうだから、先に寝てていいよと言われた。

 0時まで粘って起きていたけど、睡魔にやられて眠ってしまった……


 そして金曜日の深夜。さかなから貰ったエナジードリンクのおかげで睡魔は襲ってこない。現在時刻1時30分。ガチャガチャと玄関ドアが開く音がこだまする。

 「ただいま」とささやくような小声が聞こえた。

 僕が寝ていると思い、気遣っているようだ。


 リビングまで達した、お姉ちゃんは僕の姿を見つけると数秒間の沈黙のあと、 「え?」と驚愕した。

「どうしたの?」

 心配顔になるお姉ちゃん。

 いつもは早く眠ってしまうから、どこか体が悪いのではないかと思ったのだろう。

「悪いの?」

「いいや……」

 一拍置いて、真剣な表情でお姉ちゃんを見つめた。

「もう誤魔化すのやめてよ!」

 胸のなかに詰まっていたものがさらけ出していく。

「どうして僕のこと避けるの?彼氏がいたって……寂しくなるかもしれないけど、応援するし、お姉ちゃんが幸せになってくれるなら嬉しい。だから、もう隠し事やめてよっ!!お願い……。それとも僕のことを嫌いになったの?信じられない?」

「え?えっと……」

 お姉ちゃんはあわあわと困惑していた。

 僕がこんなにも感情的になったのが珍しいからだろう。

 普段は自分を律し、あまり感情を表に出さない。

 でも、今日だけは違った。

 大切な人だから、伝えなければといけないと思った。

 その結果、暴走してしまったのだ。


 胸の詰まっていたものがなくなり、開放的になったからだろう。

 急に頭の中が冷静になり、無意識のうちにいろいろ恥ずかしいことを言ってしまったことに気付く。

「あ、ごめん……」

 謎の謝罪。

 もうおかしくなっていた。

 違う、違う。えっとえっと。本当に伝えたいことは……

「お姉ちゃんのこと大好きだからっ!!」

 二の句の言葉がこれだった。

 あぁ、もうダメかもしれない。


 そして、お姉ちゃんは僕の方に近づいてきて……

 ふわっと柔らかい感触が体全体に感じる。

 包み込むような包容力。

 いつもの軽いハグではなくて、ギュっと優しさや愛情を感じられる強いハグ。

 お姉ちゃんの顔がもう目先に。

 一挙動で顔と顔が触れ合う至近距離。

 柑橘系のいい匂いが鼻孔をくすぐる。


「う、ううん……」

 スリスリと頬を摺りよせられた。

 きめ細やかな肌がふわふわと弾力性に溢れ、僕の繊細な部分を撫で上げ安心感と幸福感をもたらす。すごく気持ちよくて、どうにかなってしまいそうだった。

「お、お姉ちゃん……もう」

「あ、ごめんね」

 お姉ちゃんも歯止めが効かず、自分の世界に入っていたようだ。


 そして、お姉ちゃんはすべて話してくれた。どうして僕のことを避けているのか、例のメッセージは何なのか、それと最近何をしているのか。

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