第36話 神様の聖域って何?
「ハルカちゃん、晩ごはんの時間だよー。起きてー!!」
「え、そんな時間!?」
パッと起き上がると、確かにあれだけいっぱい食べたのに少しお腹が空いてる。
ただ入るかと聞かれるとわからない。
「あの、スクさん。まだお腹空いてなくて」
スクさんがくすくすと笑う。
「そうよね。あれだけ食べた後動いてないもの。そうだ。カナタとミラを連れて村の中をおさんぽしてきたら? ただ、あまり遠くには行かないでね。わたしが駆けつけられる位のとこ。いい?」
「はい」
「おさんぽか! いいな」
「ハルカちゃん、村の中案内してあげる!」
二人に手を引っ張られて家の外に出る。
生ぬるい風が頬を撫でていく。夕方と夜のはざま。きれいだけど、どこかこの空の色は不安になる。
「こっちがお花育てる名人のナーユさんのお家。こっちが川魚いっぱい育ててるとこ。こっちはー」
ミラのおしゃべりを聞きながら村の中を歩きまわる。途中、肺毒症から回復した子どもが外で遊んでる姿もあった。私達に気が付き手を振ってくれる。
カナタやミラが手を振り返していた。
村の説明をする姿や手を振り合う姿を見て改めて実感する。村の皆仲良しなんだ。追い出されなくて良かった。
誰が言った意見だったんだろう。あれは――。
ヒナツの姿が脳裏に浮かぶ。
あの人が全部やったのかな。最初見た時は、村の人達に信頼されてる様に見えたんだけどな。
「ハルカ、考え事か?」
「えっ? あ、うん。ヒナツさんってどうしてあんな事したのかなって。村長になれるような人だったんでしょ? なのにって」
「俺もわかんない。ただ――」
「ただ?」
「最近かな。アイツが変になったの」
「イーシャちゃんが病気になってからかな。どんどん感じが悪くなっていったよね。ヒナツさん」
「イーシャちゃん?」
治療した子にいたのかな? そういう名前の子。どこかで聞いたような。
「イーシャはハルカがくる前、神様のところに行った女の子だ。誰にでもすごい優しいねーちゃんで、もしかしたら回復魔法を覚えるかもしれなかったんだ。スキルが神の写し身ってすげー珍しいスキルでさ。神ってついてたからさぁ、すっげぇ期待されてたけど、病気で一番最初に――」
そうだ。カナタがヒナツに叫んでた時に聞いた名前だ。確かあのあとミラを抱えたウルズさんが出てきた。
「ヒナツさん、イーシャちゃんが好きだったんじゃないかなぁ。だって、神様のとこに行った日、ヒナツさんの目の下は真っ黒で目は真っ赤になってたんでしょ? カナ兄」
こくりとカナタが頷く。
「かなりショックは受けてそうだった。父ちゃんも心配してたからなぁ。なのに、どうして……」
やっぱり、本人じゃないからわからないよね。あの人ここにまた戻ってくるのかな。
『ハルカ』
もふちゃんが飛び出してきて、崖の上を指差す。
どうしたんだろう。崖の上に何かあるのかな。
『はやく、きて下さい。急いで』
慌てる様子のもふちゃんを見て、ミラが頷く。
もふちゃんはミラにしか見えてない。
「カナ兄、崖の上まで行こうよ。あそこなら村を全部見れるよ」
「そうだけど、でも母ちゃんがあまり遠くには行くなって」
「カナタ、あそこまで行ってみたい」
「ハルカもか。なら、俺が運ぼうか? それならそんなに時間がかからないだろう?」
もふちゃんは急いでと言っていた。私はお願いとカナタに大きく頷いた。
久しぶりに彼におぶわれる。石鹸であらったせいかカナタの匂い、オレンジとお日様の匂いになってる。背中にぎゅっと抱きついて準備が完了したのを伝える。
一気に崖の上まで駆け上がる。こんなこと人間の私には出来ない。だから、こういう時すごく助かる。
ミラも病み上がりとは思えない軽やかな足取りで崖を駆け上がっていく。
「ほい、到着」
地面に下ろされ、さっそくもふちゃんに聞く。
「ここ?」
『イイエ、ハルカ。もっとこちらです』
もふちゃんが飛んでいく。追いかけるとカナタもついてきた。
「ハルカ? ミラ? どうした? 村はこっち」
「カナタ、もふちゃんがこっちにきて欲しいみたいなの」
「ん? ハルカのスキルがか?」
「なんだか、急いできて欲しいみたい」
「こっちには……、神様への道しか」
「え?」
崖の上のその先に大きく口をあける洞窟があった。
もふちゃんはそこで姿を消す。
「あれ、もふちゃん? もふちゃん?」
「ハルカちゃん、ここでいいのかな」
「えっと、たぶん――」
洞窟の中からキラキラした光が外に溢れてきてる。いったいどうなってるんだろう。近寄ろうとして、カナタに止められる。
「あの先は神様の聖域。行ったら戻ってこれない」
「え?」
「イーシャがそこから中に入っていったんだ。その先は神様のいるところに繋がってるって」
神様のいるところ。漫画とかで聞いたことがある。神様に生贄を捧げて、村の豊作を祈願したり、厄災から守ってもらったりするんだ。
つまり、ここは死への扉って事?
「イーシャ、イーシャ、イーシャ、今から皆をそっちに送るからね。これで寂しくないよ――」
男の人の声がする。この声は、誰にむけるでもなく虚空に消えていく。
「何でここにいる……」
「ハルカちゃん、こっち!」
「え、え、え?」
私の目には捉えられない誰かを二人は見つめていた。
それはだんだんとこちらに向かってくる。薄暗くなっていく空をバックに現れたのは村から消えたはずのヒナツ、その人だった。
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