第33話 番外編・魔物使いとして生まれて(イツキ視点)

 オレは魔物使いとして生まれた。

 小さい頃はまだ魔物と契約してなくて父や母、兄弟と一緒にいれた。

 生まれたこの場所は大きくはないけれど、落ち着くところだった。

 自分のスキルが魔物使いであると知ったのは九つの頃。そう、ちょうどアイツらぐらいの年だ。

 まるっこい小さな子どもオークを拾った。

 傷だらけで泣いていた。強くなりたい。強くなりたいとうるさくて、放っておけなかった。

 オレもちょうど体がデカいヤツらにイジメられていたから、負けたくない気持ちはよくわかった。


「マル、一緒に修行するぞ」

『……マル?』

「お前の名前だ!! 丸っこいからな!」


 魔物使いがどうなるか、まだオレは知らなかった。

 だから、親に言った後荷物をまとめられ渡され、すべてを聞かされた時、オレは後悔しちまった。

 ここはオレの居場所ではなくなったのだ。


『主……』

「なんだよ、あるじって……」

『すみません』

「なんで、謝るんだよ。一緒に強くなるぞって誘ったのはオレだ――。ほら、行くぞ!!」


 一緒に強くなる。そう思ってたのに、先に強くなったのはマルだった。もともと育てばかなり強くなるオークと体が小さくスキルも魔物を戦わせる魔物使い。自分が強くなるのにはスキルの恩恵はほぼない。オレは少し卑屈になっていく。

 それでもなんとか魔物使いのあれこれを学び、自身も鍛え生きてきた。


「この村で流行っている病の真相を探ってほしい」


 追跡、情報屋を仕事にしているオレに舞い込んできたのはある村で亡くなった娘の病の原因を探ってほしいという依頼。

 依頼者は亡くなった娘の父親、ジューイという男だ。


「いや、オレそういうのはわかりかねるんだが」


 オレは回復術師でも薬師でもない。原因を調べ治療方法でも考えるのか? と最初は思った。


「これはおそらく原因をばらまいたやつがいるんだ」

「へぇ、そうなのか?」

「ヒナツという男とこの男と接触のある風狼族の追跡をお願いしたい。次の犠牲者が出る前になんとかして……説得出来る材料を――」

「わかった」


 娘の治療用にかき集めた資金なのだろうか。かなりの金額を提示される。使い切る前にいなくなったのだろう。

 前金をもらい、オレは追跡を開始した。


 ◇◇◇


 この仕事が終われば聖域に行き魔素を補給する予定だった。

 オレと数日離れていた間にマルは魔素を大量に消費する何かがあったのだろうか。

 一週間以上の余裕があるはずだった。

 オレはマルの魔素量を測れないし、魔素を作ってやれない。魔素量は見えるやつにお願いし確認するかはやめに聖域に行くようにしていた。だから、人一倍同じ場所に長く留まる事が出来ない。


「魔力魔素変換!!」


 目の前でその制約をいとも簡単になくした天才がいた。

 その才能がオレにもあれば故郷から離れなくてすんだのに。

 正直言ってムカついた。絶対に誰かに情報を流して不自由さを味あわせてやるなんて大人げない考えがオレの頭を支配した。

 なのに――。


 初めて目の当たりにした、魔素不足による暴走。

 管理不足だった。もっと頻繁に魔物の聖域に足を運ぶ必要が出た。オレは殺さなくてすんだマルを見ながら痛感していた。失うには、存在が大きくなりすぎている。

 急いで魔物の聖域に連れて行こう。


「イツキさん、オークさん魔素あと半分必要なんです。だから、魔力をまた貰っても大丈夫ですか?」

「……は?」


 オレの聞き違いか?

 同業である魔物使いは数が多い。潰し潰される事だって普通にある。それなのに――。そうだった。こいつはまだ魔物使いの世界を何も知らない甘ちゃんだ。


「あとこれ、あちこち傷だらけだから回復薬です」

「は?」


 この天才少女――ハルカは訳がわからない事を言ってきた。まてまて、その回復薬、オレがもらった前金より高いんだぞ?

 魔素だって補給するためにここからだと三日かけて聖域に行かないとなんだぞ?


「あ、魔素玉、いっぱい作っておきますか? 予備の予備まであれば安心ですよね」


 魔物使いの聖域の魔素はすぐに体内にいれないと意味がなくなる。

 それを……、持ち運び出来る魔素だって?


「お前……バカか?」

「は……い? え、何か私変な事いいましたか? ごめんな――」

「ハルカは馬鹿じゃないぞッ!!」


 村の少年カナタが噛み付いてくる。そうか、そうだよな。こんなバカなら守ってやらなきゃって思っちまうよな。


「金とらないでそんなことしてると損ばかりになるぞ」

「あ……、そうですか? うーん、じゃあ、オークさんを勝手にお借りした分で相殺という事にしてもいいですか?」


 本当に、こいつはバカだ……。

 オレは頭が痛くなって右手で顔の上半分を覆う。同時に熱くなりすぎた両目も隠した。

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