第26話 裁判って何?
「ライム! ソラ!」
ライムから出られたのはだいぶ時間がたってからだった。途中どうしても眠くなって、ミラと交代しながら待っていると外はすっかり明るくなっていた。
「ライム、今どうなってるの? なんでお家じゃないの? カナタはどこ?」
『すまんラム。カナタ連れていかれたラム』
「え、連れていかれた? 何で?」
『あそこにいるモャ』
「あそこ?」
ソラが顔を向ける先に大きな棒が立っていた。そこに誰かがくっついている。あれは、ウルズさん、スクさん、カナタ?
ここからじゃよく見えない。無事だけでも確認したくて
三人は無事だけど、ウルズさんとカナタのHPバーがすごく減ってる。もしかして、怪我してる?
「助けに行かないと」
「ダメだよ、ハルカ! どう見たってあそこに行くのは危ないよ! ほら、あそこ。見張りみたいなのも立ってるし、下手にあそこに近寄ると殴られるみたいだよ。あの人、見張りの持ってる武器で殴られたあとに見える」
どの人だろう。私の目では判らない。
「ボクの家族だから、ボクが行く」
「ミラ、でもいま危ないってミラが――」
「そうだけど……」
「私より小さなミラに任せてしらんぷりなんて出来ない。考えよう。どうすればいいか」
「……うん」
状況をまずは確認しなきゃ。ここは村を見下ろす場所に立っていた家よりさらに上の場所。下から見た時はこの上に家はなかったから他の人はこないのかな。ここからカナタ達のところまで解毒草の丘から下におりた時より高くて遠いかもしれない。
「ハルカちゃん、人が近寄っていってる」
「え!?」
「ヒナツさんだ……」
ヒナツ? 確か風狼族と雷狼族の子で村長候補の人だったよね。
「ヒナツさんの後ろの人が持ってるの、アルラちゃんだよね」
ミラの目、どれくらい見えてるんだろう。私にはなんとか赤色の物を持っているなーくらいにしか見えない。
「どうしてアルラまでここに連れてこられたの?」
「どうしてかな。アルラちゃん人の体部分は、隠してるみたいだけど……。動き出したらアルラウネだってバレちゃうかな。毒の花なんだよね。確か」
「え、そうなの!?」
「え、知らなかったの? 種類によって多少の差異はあるかもだけど毒を持ってるはずだよ。アルラウネは生える場所によって特性を変えたりするからあの小さな壺だったらそんなに毒も強くないと思って言わなかったけど」
「えぇぇぇ、もしかして危なかった? せっかく治ったのにミラにまた……」
「大丈夫だよ。よっぽど強い個体じゃないとアルラウネの毒は広がらない。薬のように調合して始めて効果が出るから。調合出来る人が悪さに使うと危険……だけど……」
「ミラ?」
「ううん、それよりこれからどうするかだよね。ヒナツさん、いったい何を始めるつもり……」
ウォォォォォォン
ここまではっきりと届く鳴き声があがる。これって狼の遠吠え?
「さて、そろそろ始めましょうか」
突然、ヒナツの声がした。
あまりに近く聞こえたから、あたりを見回して探してしまう。
「ハルカちゃん、これは遠吠え、狼獣人が使う連絡方法。最初の遠吠えの声を聞くとあとの話した言葉は、遠くにいる狼獣人にまで伝える事が出来るの。だから本人はここにいないよ」
それでも、ミラは警戒してキョロキョロしている。私も何があってもいいように気持ちだけは準備した。
狼獣人のスキルなのに、私にも聞こえるのが不思議だった。もしかして、これも言語学のおかげかな。
「毒を広めた犯人。ウルズの裁判を!!」
「なっ!? 毒を広めた? ウルズさんが!?」
「そんなわけないっ!!」
ミラが飛び出して行こうとするのを必死に押さえる。
「ライム、ソラ、手伝って!」
『わかったモャ』
『ラム!』
「ハルカちゃん、放して! 違うよ! 絶対に父ちゃんはそんな事しないっ!!」
「わかってる。でも、一人じゃ危ない!!」
バタバタと押さえている間にもヒナツの言葉は続く。
「この男は、自分が村長になるために毒をばら撒き、必死で治療を手伝う真似事をした。金を集め、己の懐にしまいこみ、我が子も同じ目にあわせることで皆の目を欺いた」
「違う! ちがうちがうちがうっ!」
ミラはちっちゃな女の子とは思えないほどの力で私達の拘束から逃げ飛び出そうとする。
その度にライムがぐるぐると巻き付き、ソラがライムの体を引っ張る。
「ミラ、落ち着いて。これはもしかしたらミラをおびき出すためかもしれないよっ」
悪い事をしたウルズさんを裁判するだけならカナタやスクさんを捕まえる必要はないはずだ。ヒナツは家族全員を捕まえるつもりかもしれない。
「ハルカちゃん、でもっ」
「一人で行って、ミラまで捕まったら私一人じゃ助ける方法が考えつかないよ」
グッと奥歯を噛み締め、ミラが止まった。
必死に何か出来ないかと、あたりを見回している。
「僕が必死に買ってきた薬を入れ替え売り飛ばしていたんだ。この前見た少女。あれは別種族の商人だったんだろう。風狼族や雷狼族では足がつくからな」
これは私のことを言っているのだろうか。ヒナツはまるで見てきたようにスラスラと話し続ける。
「これが毒の正体だ。この男の家にあった。これはただの大きな花に見えるがその実態はアルラウネ! 毒の花だ!! これで皆に毒をまいていたんだ!!」
私も限界がきそうだった。流石にこれ以上あの人の話を聞き続けるのは――無理だ!!
「ライム、ソラ!! ミラを放して」
『え、いいラム?』
『いいモャ?』
「皆で、あそこに乗り込もう!!!!」
回りくどいことしてないで正面突破だ!!
「あ、あのハルカちゃん?」
「行くよ!! ミラ!!」
「うん!!」
「ミラ、縄をなんとか出来る?」
「出来る!」
「ライム、縄が切れたら三人を回収」
『了解ラム』
「ソラ、あそこまで皆を連れていける!?」
ソラが大きくなる。あれ、なんだか大きくなった?
角がますます立派になって、全員乗せてもまだ乗りそう。
『了解モャ!』
むこうは武器を持っている。何か盾になるような物がつくれないかなと医療道具作成を発動させる。
ライムとソラの頭に看護帽がちょこんとのる。
私とミラは可愛い装飾がある白衣みたいな衣装になっていた。まるで私が好きだったアニメのキャラクターみたい。でも、防御力をあげたかったけど、逆に防御が薄くなってない?
うーん、お医者さんや看護師って言ったら確かにこういう格好だ。しかし、防御力――。
『ハイ、ハルカ。その帽子と服は魔法コーティングにより通常の服の防御力をはるかに凌ぐ防御力があります。追加効果として自動回復機能もついています』
「なにそれ!! 強そうっ!! よーし、ならこれで大丈夫だよね!! もふもふハルカチーム出発だー!!」
『モャ!!』
ソラはガラガラと石と一緒に崖をかけおりていく。
もしこれからも使うならチームのちゃんとした名前は助けたあとゆっくり考えよう。
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