第7話 つぶされるのは何?
ゆっくりと呼吸を繰り返すミラの姿を見て、カナタのお父さんお母さんも涙を流していた。
カナタのお母さんは、ミラの手を握っていた。眠ってるミラの手足、なんだか血色が良くなった気がする。
「ありがとう、えっと」
「父ちゃん、ハルカだ。この回復薬の持ち主」
「そうか、ハルカさん。ありがとう」
「あの、私、そんなお礼を言われるような事は」
「何を言うんだ。あんな高価な回復薬を」
えっと、それ初めての調合で出来ただけだから。材料だってライムからもらったものだし。言いたいけど、話してもいいものかわからなくて口ごもる。
「父ちゃん、俺も怪我してハルカに助けてもらったんだ。ハルカ、帰る場所がないんだ。うちに住んでもらっていいか? 面倒は俺がみるから!」
なんだか、拾われた犬の気持ちになりそうな台詞がカナタの口から飛び出す。
「え、そうなのか。ちょっと待てよ。オレだけじゃ決められねぇ。おい、スク」
「聞いてます。ウルズ。ミラにカナタまで救ってもらったのに追い出すなんて真似は絶対にしないですよね」
「……おう、決まりだな。部屋はカナタと同じでいいか?」
「ウルズ、その子女の子ですよ?」
「何? 髪が短いから男だと思ったが、ってあれ? お前さん耳と尻尾は……」
ないと変に思われるのかな。耳は見せられるので髪をかきあげて見せる。
「ハルカさん、辛かったろう!!」
途端、カナタのお父さん、ウルズさんが号泣を始めた。
えっと、何?
「ハルカ、耳も尻尾も千切られちまったのか……。もしかしてそれを治したくて薬を……。それなのに俺達に」
いやいやいや、これ、これで大丈夫なんだけど?
あまりの号泣っぽりに若干引きつつ私は笑顔で顔を振る。すると、二人が余計に号泣した。
「ハルカさん、オレの息子でよけりゃいくらでも番いになってやってくれ」
「つがい?」
「父ちゃん、何言ってるんだよっ! ハルカ。俺絶対にお前を治してやるから。だから……、ずっとここにいろ」
何だろう。すごい誤解が生まれてる気がするけど、一応今日はお家に泊まっても大丈夫なんだよね?
「お世話になります」
ぺこりとお辞儀すると、カナタのお母さん、スクさんがミラの手をおいて、こちらに歩みよってきた。
優しい顔がどこかお母さんを思い起こす。
「よろしくね、ハルカちゃん」
ぎゅっと大きくて柔らかな体に包まれる。お日様みたいにぽかぽかした温かさとお母さんに似た匂いがして……。
「おか……ぁ……さん」
お母さんの事を思い出したせいか、ホッとしたからか私までぼろぼろと涙をこぼし、大号泣隊の一員に加わってしまった。
足下でライムとソラが慰めるように寄り添ってくれて、余計に涙が溢れてしまった。
「ごめんなさい、服が……」
大号泣のせいで、濡れてしまったスクさんの服は着替えが済んでおり、新しくなっている。
洗われた服は屋根近くに引っ掛けられ干されていた。
大号泣組の服も全部並んでいる。
私も着替えさせられていた。お尻のとこが開いていてスースーする。ここから尻尾がでているんだろうけれど……。
「ハルカちゃん用にお洋服用意しないとね」
「材料は任せとけ! オレが一式用意してくる」
「俺も!」
「あの、すみません。私もできるかぎり手伝いますので」
少しでもはやく一人で生活出来るようにならないと。覚える事は多そうだ。
本当の子どもじゃない私は、いつここから追い出されるかわからないもの。
だから、それまでにいっぱいここの常識を覚えて、生活力をあげて、ミラ用の解毒薬を作れるようにならないとだ。
「恩人はそんな事気にせず――」
ウルズさんの言葉を遮るようにスクさんが声を上げた。
「そうね、手伝ってもらえる事はお願いしましょう。よろしくね」
「はい!!」
どうやら、スクさんの方が一枚上手のようだ。ウルズさんは「お、おぅ」と言って苦笑いを浮かべていた。仲良し夫婦の姿を見ると少しちくっとする。
私が病気になってから、お父さんとお母さんは別々にお見舞いにくるようになった。
二人揃っての笑顔を見る事がなくなってしまった。
お家では仲良く出来てたのかな……。
二人とも泣いてないといいなぁ。
「そうだ!! 部屋を用意したぞ!!」
ウルズさんが布をめくり、見せてくれた。
干し草の上に布をかけたたぶんベッドが二つ並んでいる。
スパーンッとスクさんがウルズさんに一撃をいれた。
「だから、ハルカちゃんは女の子だって!」
「いやいや、今日は流石にもう遅い。部屋を増築したり掃除して空けたりするにしても眠たくなる時間だろ! なら、ここしかいい場所がないだろ!」
「ふぅ、そうね。ハルカちゃん、ここでも大丈夫?」
「はい、寝られる場所があるだけ助かります!」
この台詞がウルズさんの涙腺を刺激してしまったのかまた号泣を始める。
「カナタ、あなたはそれでいい? ハルカちゃんの事守ってあげられる?」
「わかってる! ハルカは恩人だ。絶対に裏切らない」
「よし。もしハルカちゃんの嫌がる事をしたら、噛みつぶすからね?」
スクさんがそれまで見せなかった歯を思いっきりむいた。
こ、怖い。やっぱり親子だ。
何を噛み潰されるんだろう。ウルズさんとカナタの二人は青い顔してぷるぷると首をふっていた。
仲良しそうな家族。きっとミラもはやくこの中に戻ってきたいよね。私みたいに――。
「待っててね」
自分では叶えられなかった、病気からの回復。でも、ミラは私が叶えてあげられるんだ。
『ハルカ、ライムも見張るから大丈夫』
『ソラもついてるモャ』
「うん、一緒に寝ようね」
二人を抱き上げ、私は草のベッドに腰をおろし、ゆっくりと仰向けに倒れ込んだ。
草と太陽の匂いがする。病院の薬と消毒薬の匂いがするベッドよりずっとずっといい匂いのそれは色々あってパンクしそうだった私の頭に心地よい眠気を運んでくれた。
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