第6話 獣人達の村って何?

「はっ? お前帰る家がないのか!?」

「う、うん。(ここに来る前は)なかなか治らない病気で――。(病院って言ってわかるのかな。入院ずっとしてたって、そこからいきなりここに来たっていってわかってもらえるのかな。わからないよね……)」


 返せるかどうかわからないけれど、少しずつ借りを返すから家を教えろと言われて今の会話になったんだけど……。

 今の私、家なんてないよ。だって、私のおうちはここじゃないもの。

 説明に困って、唸っているとカナタも一緒にうんうんと唸りだした。


「そうか、不治の病気で……。魔物使いのスキルはありふれてる。もしかして、追い出されて今まで自分だけで頑張ってきたのか?」


 あれ? 何だか、どんどん彼の中で私の話が出来上がっていってる?


「たった二匹の弱っちい魔物を連れて、こんなちっこいやつが」


 失礼だな。ソラもライムもすごいんだから。それにちっこさなら、カナタに負けてない。というか、私よりカナタの方が小さいよね? 身長。


「ハルカ! 俺のうちにこいっ! 薬草と回復薬のお礼には程遠いかもしれないけど、父ちゃん、母ちゃんに頼んでみる」

「え、何を?」

「住む場所だ! 俺の家にいればお礼を返すのにいちいち探さなくてすむだろ?」


 確かに、このままじゃ野宿確定だし、野宿するにしたってテントなんて持ってない。おうちに泊めてくれるならすごく助かるけど……。


「日がくれる前に行こう。夜は大人達しか倒せないような危険なやつもでるからな」

「え、え、え? さっきのも十分怖かったよね? それよりも怖いのがでるのっ!?」


 手を引かれ、走り出す。断られたらどうしよう。でもとりあえず、今日ぐらいは泊めてもらえるかな。夜の怖い魔物を想像してぶるりと震えてしまう。

 泊めてもらえますように、そう祈りながら私は彼の後ろを走った。


 ◇◇◇


「はぁっ、はぁっ、はぁっ。もう無理だよぉ」

「え、まだまだだぞ? 体力なさすぎだろ。妹に会わせろって、そっちが……」


 しゃがみこんでいると、ライムとソラが私の前に立ち、カナタを威嚇する。

 それを見て、彼ははぁとため息を吐いたあと背中をむけた。


「おぶっていくから、背中のって」

「え?」


 私とそう大きさが変わらない男の子の背中。むしろ小さいから、倒れてしまうでしょ?


「はやく。俺もはやく帰りたいんだ」

「は、はい!!」


 ドキドキしながら首に腕をまわし、体を預ける。思ってたよりすんなりと彼に背負われた。

 すごい力持ち? だけど、これではやく走れるの?


風のシルフィ速度上昇魔法スピードアップ


 もふちゃんみたいな光がくるりくるりと回転しながら集まってくる。まるでダンスしてるみたい。

 カナタはその光が足にくっついた瞬間、スタートを切った。

 さっきよりもっともっとはやい。


「すごい、カナタ魔法使えるの?」

「俺、魔法苦手だからこれぐらいしか出来ないけど。ハルカは魔法見たこと……使った事ないのか?」

「ないないっ」


 言っちゃダメなヤツ! 私は全力で否定する。


「そっか、そうだよな。魔物使いは魔法苦手だもんな。俺の方が上か」


 何だか嬉しそう。まあ、苦手なもので褒められたら嬉しいか。よし、もっと褒めておこっと。


「すごいよ。カナタ! すごくはやい」

「よーし、とばすぞ! しっかり掴まってろ」

「えっ?」


 光がもっといっぱい集まってきてカナタの足にくっついていく。同時にグンッとはやくなっ……、はやいはやいはやいぃぃぃぃ!!

 気をつけよう。カナタは褒めすぎると調子に乗る。私はこの日、心に刻んだ。


 ついた。ついた。ついた。無事……。ふらふらしながら、カナタの後ろについていく。ゲームとかで見るような昔の外国の家みたい。日本の家とは明らかに違う。玄関にあたる場所だろうか。木の扉がついてるけど隙間だらけ。虫さん入り放題では? と疑問に思ったけどその向こう側に布が垂れ下がっていた。なんだかスーッとする匂いがする。


『虫除けハーブの匂いモャ』

『この匂い苦手ラム』


 スライムって虫だったのかな。それともライムだけ?

 姿形を見ればもふちゃんが危なそうだけど、彼女は特に何も言わず、ふわりと横を飛んでいる。

 布をくぐり抜けると、そこにはカナタに似た髪や顔を持つ大きな獣人の男の人と目の感じがカナタによく似てるふわふわとした優しそうな獣人の女の人がいた。


「カナタ、おかえりなさい。遅かったじゃない。もしかしてまた薬草を?」

「あそこは危ない。行く時は父さんか母さんを呼べと言ってあっただろう」

「ごめんなさい。ミラにはやく元気になってもらいたくて……。父ちゃんも母ちゃんもミラの為に走り回ってて、大変そうだったから」


 さっきまで嬉しそうに立ち上がっていた耳がシュンとしてしまっていた。なんだか、少し可哀想に見える。


「薬草はなかったのか?」


 カナタのお父さんはカナタの手に何も握られていないことに気が付き確認してきた。

 そうだ、はやく妹、ミラに薬草をあげないと。


「カナタ……」


 もじもじしてるカナタをツンツンつっつくと、彼はこちらを見て一度頷いた。


「あら、お客さん? あら、カナタこの子は誰? 見ない顔だけど……。それに魔物まで」

「こいつら使役獣だから大丈夫。魔物使いだって。それより、ミラのとこにいかなきゃなんだ。今起きてる?」

「え、え? カナタ、何を言ってるの? ミラに?」

「ミラは今寝たところだ。起こすんじゃ――」


 カナタのお父さんが、ないと言い切る前に奥の部屋からだろうか? 激しい咳が聞こえてきた。


「何だ……。まだ薬が切れるにははやいはずだろ?」


 ゲホゴホと咳が酷くなっていく。カナタの両親の顔色がどんどん悪くなっていく。


「は、はやく薬を――」

「もう、ありません。ごめんなさい、あなた。さっき飲ませたのが最後で……。最近、ミラの咳がなかなか止まらなくて、薄めて飲ませていたけれど回数が嵩んで」


 ダンッと机に頭突きをするカナタのお父さん。それほど状態が良くないのかな。


「ミラッ!!」


 カナタが奥の部屋に向かう。私はそれを追った。


「カナタ!! あなたにまで感染ったら……」

「入るな!! カナタっ!!」


 二人の静止も虚しく、カナタは布が厳重に重ねて垂れ下がる部屋の中へと吸い込まてていった。


「ミラ」


 そこで待っていたのは、カナタの母親に感じがよく似てるか細い子どもだった。カナタの妹、ミラは骨が折れてしまうかと思うほどの咳をしているところだった。


「ミラ! ミラ!!」


 入ってきちゃだめと言いたいのか、咳をしながらミラは必死に首をふっていた。

 ずっと寝たきりだったからだろうか。足は細くて、病院にいた時の私を見てるようだった。


「薬草とってきたから、すぐにおさまるからな! ハルカお願いだ。薬草を」

「あ、うん。ライム出して」


 ライムから薬草をもらってカナタに渡す。ただ、ミラの状態で薬草を食べるなんて出来るのかな。

 病院には喘息の子もいた。咳をしてる時には気体の薬を吸い込んでいた。だから、たぶん――。

 想像した通り、飲み込むなんてできなさそうだ。

 それに薬草は回復する力は微弱だって言ってた。


『ハイ、ハルカ。このまま放っておけば、この獣人は確実に今日が最後の日になるでしょう』


 お父さん、お母さん、お兄ちゃん。思ってくれる人がいるのに、そんなの見過ごせない。

 私は駄目だったかもしれないけど、救う力があるなら救わなきゃ。


視診インスペクション


 カナタに聞こえないようにできるだけ小さな声で呟く。

 HPバーは瀕死状態。ステータス状態異常にたぶん病気の名前だろうか。文字が浮かんだ。

 肺毒症。毒? 毒ってどくだよね。肺に毒があるのかな。


(もふちゃん、これって回復薬で治る?)

『ハイ、ハルカ。回復薬かハルカの魔法で炎症及び損傷は回復することが可能です。解毒に関しては別途解毒薬か解毒魔法で解毒することが可能です』

(解毒魔法?)

『ハイ、ハルカ。ですが、まだ会得はしていません』

(なら、薬を作らないとかぁ)

『ハイ、ですが一時的に咳を止める事ができる為回復薬の使用はオススメします』

「了解だよ。ライム、回復薬だして」

「わかったラム!」

「カナタ、これ! 肺……胸の上から全部かけてっ」

「でも、これは」

「いいから、はやく」


 戸惑いながらもカナタは受け取り、ありがとうと言ってからミラの上に回復薬をかけた。

 スゥと吸い込まれるように回復薬が消えると、嘘のように咳はおさまりミラはゆっくりと寝息をたてはじめた。体が細いままなのは、回復薬の量が半分以下だったからなのかな。元々の太さに戻っている気はしなかった。


「ありがとう」


 カナタが涙をたくさん流していた。これでも全然見違えるほど元気になったように見えるのかな。

 なら、良かった。これで、あとは解毒薬を作ればいいんだよね。足りなかった回復薬も作り直せば!

 私はふんすと鼻を鳴らし気合をいれた。

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