第2話 


旧東京湾海上、新東京区南町豊海学園。

新東京区は東京湾を埋め立て作られた防衛都市。

元々は海上都市として建設されていたものだが、AIロボットが進行してきた際に防御壁などを作り設計を変更。

要塞都市と化した。

日本自体が四方八方海に面している島国のために暴走したAiロボットの進行が他国より遅く、完成させることが出来た町である。

その後各国から逃げてきた技術者や企業等が暮らすようになり、現在では世界で一番進んだ都市となった。

その要塞都市の一角に建てられたこの学園は、学園と名ばかりのアームズの操縦、整備や実戦などを学ぶ軍学校のようなものだ。

基本的にはここで基礎を学び、3年間の訓練の後卒業した者は基本的には軍の実戦部隊に配属されるという、嫌な方のエスカレーター式の学園である。

…まぁ死亡率は高いが金もたくさん入るため、それを目当てに入学し軍隊に行くものも多いとか。


「…以上が、今回の作戦結果の報告となります。」

無機質な壁に囲まれ、真ん中に大きなデスクを置き仕切られた会議室に我が部隊隊長殿の凛とした声が響く。

毎度号令の報告会の時間である。

オペレーターを含めた部隊全員で集まって報告をするのが義務となっている。


「確認した。よくやったな、しかし…」

机を挟んだ向かい側から、白髪で渋い顔をした小柄な男性が自分の方をキッと睨む。

またかよ…


「また機体を壊したのか?白銀雅人君?」

「仕方なかったんです、クライン先生」

中々の圧をかけながらコチラを睨みつける先生。

どういったわけか、この部隊に配属になった時からクライン先生に目を付けられ、事あるごとに暴言を吐かれたり、結果に文句を言われたりしている。

やめてくれよ。

ちびっちゃうじゃないか。


「何が仕方ないと言うんだ?たかが人型一機相手に機体をボロボロにしおって!油断していたのではないか!!」

おぉ、先生がプリプリ怒り出してしまった…

これは長引くな…


「申し訳ございません。ただ、現れた敵は改良タイプ『D型』だと思われ、ハンドガンでの近距離攻撃も聞かず…」

「そんなはずなかろう!あの区域には改良型なんて出現せんわ!!これだから平民は…!」

うーん言いたい放題言ってくれるな。

見てないくせに…


「失礼、クライン先生。白銀のいう事は間違っておりません。解析したところ彼が交戦したのは間違いなくD型です」

黒いショートの髪をふわっと揺らしながら先生に向けて話す隊長。

おお、隊長が庇ってくれている。

ありがてぇ。


「そ、そうか…」

隊長の意見に何故かすぐ引き下がる先生。

なんでですかねぇ…?


「し、しかし!レーダー等で周りを把握することは可能だったであろう!」

あーそうきたかー


「…そうですね。そこは私「す、すいません!私が各機の周囲の確認しなかったのがいけなかったんです!」シャルル?」

横に束ねた桃色の髪を揺らしながら、何故か今度はオペレーターのシャルルが一歩前に出て自分を庇ってくる。

いやなんでさ、君何も悪くないよね?


「い、いや、まぁ確かにオペレーターも周囲の警戒はせねばならぬが…」

ほらー、先生も急に出てきて戸惑っちゃってるじゃんー


「だから私がいけないんです!!雅人先輩は悪くないんです!!」

そう言いながらぐいぐいと迫るオペ子ちゃん。

何が君をそんなに駆り立てているんだい?


「…いや、シャルルは悪くない。先生の言う通り、自分が悪いんです。自機の周辺の警戒は基本中の基本ですから」

「雅人先輩!?」

シャルルが信じられないという顔でこちらを見てくる。

なんでだよ。


「…う、うむ。そうだな」

お前もなんでびっくりしてんだよ。


「なので先生、この件に関して罰則があるなら喜んで受けましょう。もちろん一人で」

出来れば別部隊に移動で頼むで。

この部隊は正直きついんや。色々と。


「そうだな、ではお前を別「待ってください、それならば私も一緒に罰を受けます。隊員の責任は隊長である自分の責任でもあるので」は?」

「は?」

いや、え?

なんでだよ。


「なら、アタシも一緒に行きますね〜。隊長に独り占めさせたくないし~」

「ちょっと、なによそれ!それならワタシも参加するわ!!」

「わ、私も参加します!今度はしっかりサポートします!!」

いやいや、どうして?

一人でって言ったじゃん。

どうしてそうなるの?


「そ、そうか…わかった、罰則は考えておく。今日は解散でいい」

わかるな。

おい。


「かしこまりました。では失礼します」

その言葉と共に隊長が出口の方に進む。

隊長に続き自分も会議室を出ていく。


「フン、平民風情が…」

クライン先生の吐き捨てるような言葉を聞きながら…





―――――――――――――――――――――――――――――



この学園では基本的に入学時に組んだ部隊の仲間と行動する事が義務付けられている。

理由はチームワーク向上とか卒業後の軍隊に入った時スムーズに行動するためとか色々あるそうで。

時折部隊の組み換えを学園側から通告がくる事がある。

チームは基本的に5人体制となり、主戦力となるアームズ操縦者4人とオペレーター1人という構成となる。

隊長の星川 誠と、近距離戦担当のエリス・クロノードと甘城 結衣。

遠距離補助担当の自分とオペレーターのシャルル・ミーベック。

この五人のチームだ。

機体の整備などは学園の整備科の生徒による仕事となるため、関りはするが同じ班だったり同じ人に当たることは余りない。

また、機体の微調整等は基本的にはパイロットの仕事となるため整備してもらって終わり!とはいかない。

割とやる事はあったりするのだ。


「あ~終わったっすね~」

「そうだなぁ」

校舎内の一角。

ジュースやアイスなどの自販機が並ぶ小さなレストルームで、他の仲間と解散した後結衣と二人でレストルームでジュースを飲んでいた。


「いやー、今日も目ぇ付けられてましたね~せ~んぱいっ」

制服姿でベンチに座り足をパタパタさせ、ウェーブのかかったセミロングの金髪を揺らしながらニヤニヤとコチラを見てくる。


「せやなぁ」

「あれ、また凹んでるかと思ったらそんな事なかったんㇲね」

「いやまぁ、慣れたから」

毎回言われてますからね。

そら慣れますわな。


「確かにアタシが来てからずっとですもんね」

「だな。正確には来る前からだけど」

甘城 結衣とは先輩後輩の仲だ。

先輩が卒業した時に新入生として入ってきて、そのまま配属された子である。

背は平均より少し低く、身体も鍛えている感じもなくフツーの女子高生という感じで一見オペレーターかと思ってしまうが、アームズの適性値が高く操縦テクニックも上手い。

特に近~中距離射撃が得意で、近接攻撃を繰り出す周りの仲間のサポートをしてくれる頼もしいやつだ。

そんな後輩と一緒のチームとなり、最初はなんだかよそよそしい態度であまり話すこともなかったが、何時からか打ち解けて気楽に話せるようになっていった。

ただ、よく自分と一緒に居るのだが他の子と一緒に居る所をあまり見たことが無いので、個人的には自分はほっといて他の友達と一緒に居る時間を増やしてほしいところだ。

因みに自分を可愛がってくれた先輩たちは軍に配属後、程なくして戦死したそうだ。

辛い世の中だぜ...


「でもまぁ、大分操縦も上手くなったよな」

「そうですか?なんか照れますね~」

「そうそう、これなら俺が居なくなっても大jy…」

「どうしてそんな事言うんですか?」

結衣がかぶせるように言葉を発する。

驚いてそちらを見ると、無表情な結衣がそこに。


「先輩、どうしてそういう事を言うんですか?」

「え?いや…」

結衣の発する謎の圧をうけ、思わず距離を取る。


「答えてください。なんでですか?せんぱい」

距離を取った分、更に近づいてくる結衣。

コチラはベンチの端に来てしまいもう距離を取れない。

「ねぇ?せんぱい…」

結衣がぎゅっと体に手を回し、抱きしめてくる。

気付けば結衣との距離はゼロ距離に。

女の子らしい甘い香りが鼻をくすぐる。

あかん、可愛いらしい顔が前に!目の前に!!


「えぇとあの…あれだよ!自分が卒業しても皆をしっかり引っ張っていってくれるかなって思ってね?」

「………」

若干オドオドしつつ、それっぽい事を話す。

まぁ理由としては大丈夫だろう...多分。


「……わかりました。今回は信じますよ、先輩」

「あ、うん、ありがとう」

「…ただし、二度とそんな事言わないでくださいね」

暗い表情で、結衣は話す。

あまり良くない話題だったのだろうか。


「わかった、気を付けるさ」

「わかればいいんです、わかれば!」

いつもの明るい顔に戻った。

よかった。


「あ、そいえばやる事あるの思い出したわ。」

「えー?逃げるんですか?せーんぱーい」

「逃げるわけじゃないんだけどね、ごめんな」

「もー、今度何か奢ってくださいね!」

「はいはい」

いつもの調子に戻ったところで椅子から立ち上がり、結衣と別れようとする。

あまり長く一緒に居てはいけない、何故かそんな気がして。


「じゃ、お疲れ」

「せんぱいお疲れーっす」

手を振られたので振り返しながら歩きだす。

やる事なんてないのだが。

とりあえず帰ったら予備機の手配だなぁ…とぼんやり考えながら部屋へ向かう。

あぁ~めんどくさいなァ...

部屋に戻ったらとりあえず寝よう。

そう心に決めて。


―――――――――――――――――――――――――――――


こっちを一切見ない先輩に手を振りながら見送る。

あ~あ、逃げられチャッた。

もう少し一緒に居たかったな。

まぁ可愛い顔が見れたからいっかな?


可愛い可愛い先輩。

ずっと独占したい。

一緒に居たい。

目障りな女どもに見られたくない。

私だけの先輩にしたい。


欲望があふれ出てくる。

今からでも追っかけようかな?

追っかけて、抱き着いて、甘えて。

いっぱいイチャイチャして。

…でも、疲れてそうだったしなぁ。

行ったら相手してくれるだろうけど、無茶させたくないし、辞めておこう。

優しすぎなんです、先輩は。


…でも、先輩が言った言葉は許せない。

俺が居なくても大丈夫?

そんな事、あるわけない。

先輩が居るからアタシが居るのに。

先輩が居なくなったら、もう、ここにいる意味は、ない。


…あんな事があったのに、センパイは忘れてしまったのか

あの出来事のおかげで今のアタシが居るのに。


まぁ、いい。

忘れてしまったなら、思い出させてあげればいい。

センパイはずっと私と一緒にいるんだから。

これからも、いつまでも、ずっと。

だから、ね




「絶対逃がしせんからね、せんぱい」




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