気付いたらリアルロボット世界に居てパイロットになっていたんだけど、死にたくないから死んだふりして逃げようと思うんだ

タルロ

第1話

灰色の空。

薄汚れた大地。

周辺に廃墟の建造物や機械の残骸が転がる見るからに最悪なその土地で、自分は廃墟ビルから敵を狙っていた。

…敵は6機。

一つ目を思わせるセンサーユニットを頭部に付けた巨大なごつめの人型の機械が3機と、蜘蛛のような6本足の脚部に一つ目のような巨大センサーユニットと小柄なボディ、そこから伸びるアームからはマシンガンを装備した機械の3機。

見るからに気持ち悪い悪趣味な機械を狙う一体の人型ロボット。

スラリとした細身の流線形シルエットに頭部にツインアイセンサーと、なんだか主人公が乗ってそうな機体で装備しているスナイパーライフルの照準を合わせる。

距離は十分。障害物もなし。

「各機、こちら4号機。目標を捕捉。10カウント後に先制射撃を行う」

『一号機了解よ。雅人まさと、外したら承知しないんだから』

「ほいほい。気を付けますよっと」

そう話しながらも、敵を複数機ロックオンしていく。

「先頭の人型を第一、左右に展開する人型2機を左から第二、第三目標とする」

『り、了解しました!各機準備は大丈夫ですか?』

『一号機はOKよ』

『二号機も大丈夫だよ』

『三号機もへーきでーっす』

『了解です!ではカウントします。カウント、10、9…」

カウントが始まり、機体内に備え付けられたスコープを覗き、拡大されたロックオンサイトを眺める。

上手く当たればいいけど…


『4…3…2…』

カウントを聞きながら

『1…』

1の言葉が聞こえた瞬間、引き金を引く。

ズガァンッッ!!と大きな音を立てて実弾が発射される。

命中したかを確認することなく直ぐに次の目標に照準を合わせ、2発、3発目を発射。

…これで当たってくれていればいいんだが。


『初弾命中!一機撃墜確認!2発、3発目はHITしましたが大破ならず!損傷軽微な模様!!』

オペレーターからの残念なお知らせが届く。

あー、やっぱ外したか…

「狙撃下手くそだなー、俺…」

『ちょっと!何やってるのよ!!』

オペレーターからの通信を聞いた仲間が切れ気味にコチラを見てくる。

「ごめん、外したわ」

『ごめんじゃないわよ!相手に見つかったじゃない!!』

『エリス、そんなに怒らなくても…』

そう言われ敵側の方を見ると、こちらに気付いた敵機が武器を持ち近づいてきている。

「ごめんごめん、援護すっからあと頼むわ」

『この…!基地に戻ったら覚えておきなさいよ!』

そんなセリフを吐きながら別の場所に待機していたカラーリング違いの自機と同じ形をした人型兵器が3機とも敵機に近づいていく。

…あの三人なら自分の援護無しでも5機程度直ぐに片づけてしまうだろう。

そう思いながらもスナイパーライフルをリロードし、邪魔にならない程度に援護するためスコープを覗きこんだ。


―――――――――――――――――――――――――――――


自分が今いる世界は、AIロボットと人間が争っている世界だ。

15年前、ある日突然Aiが暴走し無差別に人を襲い街を破壊して各地で甚大な被害が出た。

人間はそれを食い止めるために戦っていく…というもの。

ファンタジーとしてはありきたりな話だが、実際巻き込まれるとたまったもんじゃないなぁ…と思ったものだ。

事実、戦況は一時人類側が壊滅寸前にまで追い込まれたものの、人型兵器〔アームズ〕が完成。

各地に配備されたことにより徐々に押し返し、現在では2/3以上の土地を奪還するまでに至る。

ただし、パイロットが不足しているために一気に戦況を覆すことが出来ないのが政府の悩みの様だ。


…一気にブーストを吹かして敵機に迫る味方機達を見ながら思い出す。

自分自身は気が付いたらこの世界に来ていた。

白銀しろがね 雅人まさとという人として。

前の世界で死んだ記憶はなく、神様的な人物に会ったわけでもなく。

気が付いたらここにいたのだ。

前世での記憶はしっかり残っており、今の世界の記憶は途中からぼんやりしていて覚えていない。

気付いたらいた。ホントに。


『よし、全目標撃破よ!』

援護しようと思い構えていたが、結局援護する前に全部終わってしまった。

やはり、あの3人にかかればすぐだった。

「お疲れ様」

『あんたねぇ…帰ったら覚えてなさいよ…』

『まあまあ、そんな怒らなくてもいいいじゃないかエリス』

『そーっすよ、まさにぃに何かされたんですか?セクハラとか』

「してねーわ」

軽い冗談を言われながらも仲間の元に合流するため移動する。

武器を持ち、ゆっくりと。


『シャルル、周りに敵はもういないかい?』

『えーっと…そうですね、もう大丈…っ!雅人先輩!後ろに!!』

「え?」

急にオペレーターが慌てだした。

後ろって、まさか…


「…!敵一機確認!人型タイ…ぐあっ!」

回避するよりも早く敵機に攻撃され、被弾してしまった。

マズい。

完全に油断して周囲の確認を怠っていた…!


『大丈夫か!?すぐに向かう!』

隊長機からの無線が入る。

援護するためコチラに向かってくれているようだ。

だが、遠距離から狙撃していたため距離が離れてしまっている。

直ぐには来れないだろう。

なのでこの状況なら自分で何とかするしかないのだが。


《右腕部破損 機体ダメージが増大しています 回避してください》

「くそ…!」

コンピューターからの警告とアラーム音を聞きながら必死に回避運動を行う。

敵機は無慈悲にもこちらを狙い攻撃してくる。

被弾箇所は右腕パーツ。

見事に肘から下を破壊され失っていた。

相手機体は人型タイプの改良型。まるで人間の骨のような細い四肢ながら高強度金属を使うことで強靭なボディを持ち、近~遠距離までバランスのいい能力を持つ。

では通常居ないはずの機体だ。


「それがなんでこんな所に…!」

的確にコックピット部を狙った攻撃をギリギリでかわしながら呟く。

回りからからアラート音が鳴り響くが気にしていられない。

(しかも相手はライフル持ちとは…運が悪い…!)

相手の持つライフルは近~中距離用で威力を発揮するタイプ。

威力もそこそこ有り、数発食らっただけで撃破されてしまうだろう。

しかも自機の武器は長距離スナイパーライフル。

近距離戦での相性は最悪だ。


(まぁ、そもそも片腕だとまともに撃てないだろうけどな...!)

長距離ライフルをパージし、予備武装のハンドガンを装備する。

ハンドガンは小型携行武器で、装弾数が少なく射程も短いが近距離であれば威力は高く補助武装としては使える代物だ。


《被弾率上昇 回避してください》

「この状況で...無茶言うな!」

機内で叫びながら回避運動を行いつつ、相手の方へ機体を反転させハンドガンを撃つ。

ダメージにより機体が悲鳴を上げているが、ここでやめると撃墜されるため、気にしていられない。

死ぬわけにはいかないのだ。

弾は何発か命中するものの、敵機の装甲が想定より固く中々ダメージが通らない。


(どうすれば...)

どうにかして敵を動きを止めなければ.....

敵機を確認しながら考える。

回避行動を行いながら敵機を観察する。

無力化を狙いコクピット付近を攻撃してくるので、あまりのんびりとはしていられない。

装甲の比較的薄いところと言えば...

頭部センサーユニット。

あそこなら。

頭部に狙いを定めて、撃つ。

残り弾は少ないが、やらねばコチラがやられる。


「当たれよ…!」

祈りを込めて撃った一撃が、相手の頭部に直撃した。


「おし!」

確認すると、上手い事相手の頭部を破壊することが出来たようだ。

だが喜んだのも束の間、敵機は視界を失い闇雲にライフルを乱射し始めた。


「くそ、面倒な」

毒を吐きながらも腰部からビームサーベルを取り出し一気に敵機の懐に飛び込む。

近付けば被弾して死ぬかもしれない。

死ぬのは怖いが、放っておいても流れ弾で死ぬかもしれない。

だったら行くしかない。

何発か弾丸が機体を掠めるも、そのままサーベルを胸元に突き刺す。

若干暴れまわったのち、敵機は沈黙。

...どうやら無事に倒せたようだ。

ビームを収縮させ、現状を確認。

センサー類の反応はなく、敵機は完全に機能停止しているようだ。


『無事か!?雅人!』

黒色のアームズが一機近くに寄ってくる。

ちょうど隊長機もこちらに到着したようだ。

「ああ、右腕をやられたが平気だよ」

『そうか…あまり無茶をしないでくれ』

隊長の優しい声がスピーカー越しに響き渡る。

同性なのだが、何故か落ち着く声だ。


『せんパーい、大丈夫っすかー?』

「ごめん、大丈夫だ。心配かけた」

『雅人、まったく何してるのよ!』

「ほいほい、すいませんねっと」

正直死ぬかと思ったが、周りに心配をかけないように平静を装って話す。

『隊長、他の方も到着しましたし、ミッションも終わりこれ以上敵機が来ると負傷した機体が居る状態での交戦は危険だと思います。帰投しませんか?』

『そうだな、全機、帰投する』

オペレーターのシャルルの提案を聞き、隊長が撤収命令を出す。

その命令を聞き味方機と合流し回収ポイントに向けてボロボロの機体を進める。




…何故自分はこんなことをしてるのだろう。






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