第26話 その時、誰が入っていたのか?
「そうですか、分かりました。
瑠璃さん、どうもありがとうございます。
それでは、次に颯斗さんにお伺いします。
休憩前にお伺いしていた颯斗さんのお話の確認になりますが、巌さんと悠馬さんの揉める声を聞いてから転寝を始めたのでしたね。
ちなみに転寝と言ったのは、ちょっとした短い時間という感覚からだったのでしょうか?」
姫子がたずねた。
「えっ、短い時間?
・・・どうかな?
そんなに短くはなかったと思うな。
そうそう、・・・十五分位眠ると、頭はスッキリするって言うだろ。
でも昨夜は起きた時に、確かだるくなる位に頭が重たかったんだよ・・・
・・・そうだな、だから小一時間は寝ていたんじゃないかな。」
颯斗が考えながら答えていた。
「そうですか、よくわかりました。
颯斗さん、どうもありがとうございます。」
ここまで話を聞いたところで、姫子は大野の方へチラリと視線を向け、大野の様子を確認した。
その姫子の様子に気が付いた大野は、目立たないように小さく一つ頷いた。
「それでは、今から皆さんから聞いた話を、私なりに整理をしながら考えていきたいと思います。
これから話を整理していく作業は、皆さんにもご協力いただきながら進めていきますので、よろしくお願いいたします。
まず、一時頃に悠馬さんが確認をしたと話していた、お風呂の扉の鍵が掛かっていたという話についてです。
休憩前には、その時お風呂に入っていたのは、瑠璃さんか颯斗さんであったというお話でした。
それがどちらであったのかを考えていきたいと思います。
まず、瑠璃さんであった場合です。
瑠璃さんは、薫さんがお風呂に入る時に飲み物を取りに台所に行きましたね。
そして、悠馬さんが打ち合わせを終えて飲み物を取りに行ったであろう足音が聞こえた少し後に、お風呂に入ったという話でした。
ちなみに、先程話していた花を摘みに庭へ出たのは、この足音が聞こえた前と後のどちらだったのでしょうか?」
姫子は不意に瑠璃の方に向き直り、話の内容を確認してきた。
「あっ、はい。
それは足音が聞こえた後でした。」
瑠璃が少し驚きながら、慌てて答えた。
「そうですか。どうもありがとうございます。
では、瑠璃さんの昨夜の行動は、まず薫さんがお風呂に入る時に飲み物を取りに台所に行き、次に悠馬さんの足音を聞いてから花を摘みに行って、その後にお風呂に入ったという事になりますね。」
「そういう事になると思います。」
瑠璃が答えた。
「ありがとうございます。
では次に、お風呂に入っていたのが颯斗さんであった場合について考えていきたいと思います。
颯斗さんは、巌さんの声を聞いた後に眠った。その時間は一時間程というお話でしたね。
ここで必要になるのが、悠馬さんが飲み物を取りに行ってから部屋で眠ってしまった時間です。
悠馬さん、あなたは考え事をしながら寝たというお話でしたが、その時間はどれ位だったのでしょうか。」
姫子は、今度は悠馬に話を振った。
「眠っていた時間ですか?
ええっと、最初に寝た時は、どの位だったのでしょう?
そんなに長い時間では無かったと自分では思っていたのですが、具体的な時間はどれ位だったかと聞かれてしまうとなんとも・・・。」
急に聞かれた悠馬は少し慌てていた。
「では、眠っていた様子を見たという薫さんにも話を伺います。
悠馬さんは、どのような姿勢で眠っていましたか?」
姫子は、すぐに答えられなかった悠馬ではなく、薫に続けて質問をした。
「兄さんの眠っていた姿勢ですか?
確か片ひじを机について、その手のひらの上に顎が乗った状態で寝ていました。
その姿を見た時に、随分不安定な姿勢で寝ているなぁと思ったんです。」
薫が悠馬の寝ていた姿勢を思い出しながら、すぐに答えていた。
「そうですか。
薫さん、どうもありがとうございました。
では悠馬さん。
ちなみに起きた時に手は痺れていましたか?」
姫子は、薫から聞いた話を受けて、悠馬に続けて質問をした。
「いいえ。
手は、全く痺れてはいませんでした。」
悠馬が、今度はすぐに答えた。
「そうですか。
では、今のお二人の話から推測させて頂きますと、悠馬さんの眠りは、不安定な姿勢で眠っていたので、ちょっとした拍子に顎がその手から落ちてしまい、目が覚めたという状況だったと思われます。
そうしますと、悠馬さんが最初に寝ていたのは、どうやらかなり短い時間のようですね。
薫さん、悠馬さん、ご協力どうもありがとうございました。
そうなると、起きた直後に悠馬さんがお風呂に入ろうと慌てて行った時のお風呂に、颯斗さんが入っていたとなると・・・
考え事をしていた時間を考慮に入れたとしても、颯斗さんの転寝は、先程一時間位とおっしゃっていましたよね。
でもそうだとすると、悠馬さんがお風呂に見に行った時間に颯斗さんはまだ眠っているはずだと考えられませんか?」
姫子が颯斗にたずねた。
「言われてみれば、確かにそうかもしれないな。
じゃあ結局お風呂には、俺が寝ていた間に、瑠璃と悠馬が入って、最後に俺が入ったってことになるのか・・・。
でもさ、そもそも別にお風呂に入った順番なんて、どうでもいい話なんじゃないのか?
さっきは、悠馬の話を聞いた時に、自分も風呂に入った時に鍵を掛けていたから、俺の事かなって思って言ってみた。
そう、ただそれだけの話だよ。
それが、ちょっと間違っていたからって、そんな風に怖い顔をして俺の方を見るのは止めてくれないかな。
眠い時間の事を思い出しながら話しているんだから、誰にだって思い違いをする事だってあるだろう。」
颯斗が少し考えてから姫子にそう答えた。
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