第25話 細かな確認作業

姫子と大野がリビングに二人で戻ってきた。

大野が家族の座っているソファに近づいて行った。


「それでは、そろそろ休憩時間を終わりにして、また皆さんから話を聞いていきたいと思います。


 お疲れの所に申し訳ありませんが、捜査協力どうぞよろしくお願いします。」


 大野が家族に向かって静かに言った。

 


「皆さんに話を聞くのは、引き続き姫子さんです。


 姫子さん。それではよろしくお願いします。」


 大野は姫子の隣に戻ってきて一歩脇によけると、姫子に話を再開するように促した。




「はい。大野刑事ありがとうございます。

 それではまたお伺いしていきます。




 申し訳ありません。


 少々話が重複してしまいますが、先程伺っていたお話を詳しく聞いていく所から再開したいと思います。」


 姫子が言った。




「では最初に薫さん。

 細かい事ですがどうかちゃんと確認させて下さい。




 先程あなたは、お風呂から上がった時に『誰にも声は掛けなかった』と話していました。



 もしかしてそれは、『部屋まで行ってみたのだけれど、結果的に声を掛けることが出来なかった』という意味だったのではありませんか?」


 姫子は、薫の目をジッと見つめながら慎重にたずねていた。






「・・・はい、すみませんでした。



・・・そうです。姫子さんのおっしゃる通りです。」


 薫は申し訳なさそうに、少しうつむき加減になって答えていた。





「お風呂から戻ってきた時、まず最初に瑠璃さんの部屋をノックしました。

でもどうやらお部屋には居なかったようで、返事がありませんでした。


 ですから、瑠璃さんに声を掛けるのは諦めて、次に悠馬兄さんの部屋へと向かいました。


 もしかしたら、私がお風呂に入っている間にお父様との話が終わっていて、もう部屋に戻ってきているかもしれないと思ったからです。

 戻って来ているなら、きっと兄なら次にお風呂に入るだろうなと思ったんです。


 でも部屋をノックしたらやっぱり返事が無くて・・・。



 一応部屋を覗いてみたら、私の思った通り、悠馬兄さんは部屋には戻って来ていました。


 ただ戻って来てはいたのですが、先程兄が申しておりました通り、椅子の所で兄は寝てしまっていたのです。


 疲れて寝入っているのにわざわざ起こすのは、悪いような気がしました。


 だって母は、私に声を掛けた時『お風呂を作ったから入らないかい?』と言っていました。


 ですから私は、家族でお風呂には、まだ私と母の二人しか入っていないのだろうと思っていました。


 まだ入っていない人の方が多い状況でしたし、ここで兄を無理に起こしてすぐに入るように言わなくても、目が覚めて少し落ち着いてからゆっくりと入った方がいいのかなと思ったんです。




 だから結局、私は誰にも声を掛けられずに自分の部屋に戻ってきたのです。




 先程姫子さんに質問された時には、『自分の事だけを話す方がいいのではないかと思っていました。家族の事は、私が勝手に話さない方がいいのではないかしら?』とも。そんな風に考えていたので、結局このお話は言えませんでした。 


 本当にすみませんでした・・・。」


 薫はか細い声で弱々しく話してくれた。






「うん?私が部屋に居なかったって・・・。





 ・・・そう、そうよ。



 ・・・多分、花を摘んでいた時の事だと思うな。


 これ、この花のことよ。」


 瑠璃がリビングの花瓶に飾ってある花を指差しながら答えた。






「今ここに飾ってある花は、昨夜のうちに摘んだ物なんだよ。




 だってさ、夕食会の最後がなんだか雰囲気が悪くなって終わっちゃったじゃない。


 正直言うとさ、しばらくの間ずっと気分が悪くってさ・・・。




 でもせっかくの旅行中に、家族の雰囲気をそんな状況にした自分も嫌だったから、お詫びのつもりで庭に咲いている花を摘みに行ったのよ。


 だって花が部屋に飾ってあると、それだけで自然と気分も落ち着いてくるしさ。」


 瑠璃が答えた。






「そうでしたか。

 確かに、花は心を和ませる美しいものですよね。



 そうですか。瑠璃さんは昨夜夕食後にお花を摘んでいたのですね。




 薫さんがお風呂から上がった時刻には、瑠璃さんは部屋にいなかったと。


 そして悠馬さんは、巌さんとの打ち合わせを終えて部屋に戻って来てはいたが、寝入っていたと。


 少しずつですが、昨夜の皆さんの状況が鮮明になってきましたね。




 では瑠璃さんに続けて確認いたします。


 お花を摘まれたのは、先程の瑠璃さんのお話で伺っていた飲み物を取って部屋に戻って来てから、どの位後の話だったのか覚えていますでしょうか?」


 姫子が聞いた。




「どうだろう。


 そんなに経っていなかったと思うよ。まあ私もいちいち時計なんて見ていなかったから、はっきりとした時間なんて言えないけれどね。」


 瑠璃がすぐに答えた。


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