第6話 事件発生

 別荘の朝は、都会の喧騒けんそうから離れた静寂に包まれていた。


 美和は、朝食の支度をする為に、いつものように一番早く起きて、一人で手際よく準備を進めていた。


 (昨晩の食事がかなりしっかりとしたメニューだったから、今朝は美味しいパンの力を借りて、後は簡単にオムレツやサラダを作るだけでいいわね。

 ふふふ、小さな声で話す独り言も、静かな別荘だと何だかいつもより大きな声に聞えて、まるで誰かに話し掛けているみたいだわ。)

そんなことを考えながら、美和は、一人で笑っていた。


 そして最後にコーヒーや紅茶を入れる為のお湯を沸かして朝食の支度を終えてから、まだ寝ている家族を順番に起こし始めた。






 突然、静寂を打ち破る美和の絹を裂くような叫び声が聞こえてきた。



 その声の場所は、最初に起こしに行った巌の部屋の中からだった。

 「早く、早く誰かここに来て。



  巌さんが、巌さんが…」

 美和は、震える声で何とか絞り出しながら、家族を必死に呼んでいた。





 その異常な声を聞きつけた子供達が、慌てて巌の部屋に駆け付けた。


 巌の部屋には、瑠璃、悠馬、薫、颯斗の順に集まった。






 「巌さんが・・・床に倒れていたの。


 お願い。すぐに、警察に連絡をして。」


 子供達が集まって来たのを見た美和が、懇願するように言った。



 部屋の中では、巌が仰向けに倒れていた。

 なんとその体には、ナイフが刺さっている。



 その巌の近くで美和は立ちすくみ、両手を口に当てながら、なんとかそう告げることが出来ていた。




 「お父さん!これは、一体!?」


 悠馬、颯斗が驚きの声を上げていた。




 (そんな・・・。


  お父さんが、誰かに殺されたって言うの?


  なぜ?どうして・・・? 信じられないわ。


  ナイフが・・・、ナイフがお父さんの胸に・・・。)


  薫は、その変わり果てた父の姿を前に、言葉を失ってしまっていた。

 そして、その姿を見つけた場所で立ちつくしてしまっていた。




 「警察。そうね、早く警察に連絡しなくちゃ…」


 瑠璃は、動揺しながらも、母に言われた通りに連絡をしようと、慌てて自分の部屋にかけ戻り、スマホで震えながら、なんとか警察に連絡をしたのであった。








 警察が来るまでの間、家族の誰もが、言葉を発する事が出来なくなっていた。


 美和の涙は、途切れることなく溢れ、その顔は、すっかり濡れてしまっていた。




 スマホを片手に持ったまま、瑠璃も再び巌の部屋に戻って来ていた。


 そして全員が、父の周りで彼を囲むように立ちつくしていた。






 やがて瑠璃から連絡を受けた警察が、剣持家の別荘に到着した。


 インターホンが鳴ると、悠馬がそれに反応した。




 「長野県警の大野です。


  先程通報をされた剣持さんで間違いないですね。」




 「はい・・・。」


 インターホンでそう短く答えると、悠馬は警察を玄関まで出迎え、家族の、そして父の待つ部屋へと警察を案内していった。

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