第5話 結 婚
「ところで、お父さん。
突然話題は変わってしまいますが、よろしいですよね。
以前から私がお願いしていた、出来るだけ早く結婚式をあげたいって話は、どうなっているのでしょうか?」
瑠璃が真剣な顔つきで、突然結婚の話を巌に聞いてきた。
「瑠璃、それはお食事中にする話題では無いわね。
また日を改めて、今度になさい。」
美和が諌め、すぐに話題を変えようとした。
「その話か。
…うん、そうだな…、瑠璃ちゃんは大学生でまだ若いから…。
もう少し大きくなってから、そういう事をゆっくりと考えた方がいいと思うのだがな…。」
巌がやんわりと結婚をすることが難しいことを匂わせるように話し始めた。
「お母さんもお父さんも、どうしていつもそうやって、私の言う事を反対ばかりするの?
私が大学生って事なんて、全然問題ないと思うよ。そもそもそれは、もう成人しているって事でしょ。
それに前も話したんだから、ちゃんと覚えているでしょ。
私の独りよがりな話じゃないんだよ。彼も『今すぐ結婚しよう。』って言ってくれているんだよ。
きっと結婚したら、私達の関係も今よりもっと落ち着いて、二人がいつもしている喧嘩の数も減ると思うんだよね。
それにさ、彼が言っていたようにお父さんだってもう若くないでしょ。
そうしたら、孫の顔を早く見てみたいって思う年齢なんでしょ?
でもそんな風に孫が見たいって思っても、実際に今すぐ結婚が出来そうなのって、唯一彼氏がいる、私だけじゃない。
だったら、私達の結婚を早くした方が良いと思わない?」
瑠璃が矢継ぎ早に話を続けた。
「結婚を早くして、父さんに孫の顔を見せてあげたいって言うのは、確かに結婚を認める理由としては一理あるのかもしれない。
ただしそれは、付き合っている人にも依るんじゃないのかな。
瑠璃さんが剣持の人間だと知った途端に、急に結婚をしたがるような男は、僕はどうかと思うよ。それに…」
「悠馬、やめなさい。」
巌がピシッと強い言葉を放った。
悠馬は、ビクッとその鋭い声に反応して、言いかけていた話を止めた。
巌の強い調子の言葉の後には、沈黙の時間が流れていた。
全員が萎縮をしてしまい、誰もが口を開くきっかけをなかなか見つけることが出来なかったのだった。
その静寂を破って話しかけてきたのは、瑠璃だった。
「みんなも食べ終わっているようだし、そろそろご馳走様をして先にお部屋の方にに戻ってもいいかな。」
彼女は、小さな声で話し掛けて来たが、その声は少し不機嫌そうだった。
どうやら、自分の話の結論が思うような結果にならなかったのが不満なようだった。
「おお、そうだな。
…すまなかったね、瑠璃ちゃん、ご馳走様。
そうだ、悠馬。この後、ちょっと部屋に来てくれないかな。今日の会議の話を、もう少し進めておきたいんだ。」
巌が瑠璃に優しく言葉を掛けた後に、悠馬の方を向いて言った。
「分りました。
自分の部屋に戻って準備をしたら、すぐに父さんの部屋に伺います。」
悠馬が姿勢を正してすぐに答えた。
「ご馳走様でした。」
全員で挨拶をした後、各自で夕食の食器をキッチンに下げてから、全員がほぼ同時にダイニングを後にした。
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