可能性の分岐
ミンイチ
第1話
娘が事故に巻き込まれてから約10年が経ち、その事故自体がほとんどの人の頭の中から消えているが、私は一度も忘れたことはない。
そしてそのことが原動力となり時間の研究を終わらせることができた。
ここで言う時間の研究とは、簡単に言えば過去と未来に移動することができるようにすること、つまりタイムマシンの本体、あるいはその理論を組み立てることだ。
この研究はさまざまなところからの援助と私の執念で想定よりもかなり早く実用化できるところまできた。
その最終実験として、私自身が過去へ飛ぶことにした。
もちろん、周りの人間からは反対されたが、この機会を逃せば娘を助けるという過去の改変ができなくなるだろう。
それらしい理由をつけて自分自身で実験を行うことになった。
実験の内容は、過去にものを持ち込み、それを誰にも見つからないであろうところにものを置くと、置いたものは元の時間にも反映するのかというものだ。
今回はこの研究の成果を決めていた場所に、そして誰にも言っていないことだが過去の自分への手紙を家のポストに入れる予定だ。
諸々の用意を済ませたので装置に乗り込み、電源をつける。
いきたい時間──娘が死んだ日の前日をセットし、少しの浮遊感を感じた後に体に衝撃が与えられる。
周りを見ると、そこは予定していた山の中だった。
実験の第一段階は成功だ。
まずは、近くの広場の中心に行き、研究資料を埋める。
次に、変装用の服に着替えて街に降りる。
10年前の景色を楽しみながら自分だけが目標としていた家の前に到着する。
家の庭は10年後とは比べ用がないほどに整っており、まだ妻がこの家にいることがわかる。
手紙をポストに入れて装置に戻る道中、一度だけ警察に職務質問をされた。
自分は研究者であり、持ち物など全てを研究所に置いて散歩をしていたと説明し、当時在籍していた研究所の名前を出すと解放してもらえた。
装置に帰ってきてすぐにでも帰ることはできるが、娘が助かるのを見てから帰りたい。
ある時代から他の時代に行くには一度元の時代に戻らなければいけないようなので、娘が助かるのを見るためにはこのまま止まるか一度帰るしかない。
しかし、誰にも知られずにもう一度過去に飛ぶのはほぼ不可能なのでここで止まることにする。
未来の金は規格が違うので使えないが、持ってきたエネルギーバーでどうにかなるだろう。
時間が過ぎて、事故が起きた時刻の1分前になった。
遠くから望遠鏡で見てみると、娘の隣には娘の友達と自分が並んでいた。
今は交差点を渡りきり、家へ向かっているところだった。
そこに暴走したトラックが迫ってきた。
トラックは自分がいた場所の反対側に突っ込み、怪我人も死人もトラックに乗っていた人以外にはいなそうだ。
それを見届けたので、すぐに装置を起動してもとの時間に戻った。
戻ってくると出発した瞬間の職員たちがいた。
ちゃんと埋めたのを言ってから自分の家を見に車を走らせた。
家に着くと、10年前のような綺麗さはなく、木々は鬱蒼と生い茂り家は外から見てもわかるほどに汚れていた。
家には誰もいない。
次は墓場の向かって車を走らせる。
元の時間に戻れば無くなっていると思っていた物は、いつものようにそこに佇んでいた。
過去は確かに変えた。
しかし、それがこの世界に影響を与えることはなかった。
※続きます(上手くいったら明日くらいに出します)
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