カナはどうしても溺愛展開にならない
すなさと
第1話 思いがけない告白
五月の爽やかな空が窓から見える放課後。なんの代わり映えもしない教室で、私、
私は4月1日生まれの高校一年生。つまり、一か月前に15才になったばかりの高校生だ。こんな風に言うと、「なんだ、
だって、他の人と同じように試験を受けて、ちゃんと合格した訳だから、ついこの間まで14才だったとしても、れっきとした高校生なのだ。
もたつく制服の袖口をたくしあげながら、参考書やノートを鞄に詰め込む。ちょっと大きめの制服は、まだ伸びるはずだという両親の淡い期待のもとに買ったもので、かえって私の小柄な体格を強調するはめになっていた。
今日はちょっと訳あって時間調整をしていて、のんびりゆっくり帰り支度をしている。授業が終わると同時にほとんどの人があっという間に教室から出ていってしまい、今、教室には私ともう一人の男の子が残っているだけである。
もうそろそろいい頃合いかなと、私が教室を出ようとした時、
「眞辺さん、」
残ったもう一人の男の子、
彼は、この四月から同級生になった子で、スッキリした顔立ちにスマートな笑顔がちょっと──いや、かなり格好いいなと思っていた。
「えっと、ちょっとだけいい?」
「うん?」
こちらも急いでる訳ではない。ちょっとぐらいは別にいい。
それで、私が立ち止まって「なに?」と首をかしげると、彼はぐっと口を真一文字に結んだ。それから彼は、一呼吸置いてから意を決したように口を開いた。
「眞辺さん、俺と付き合って欲しいんだけど」
「は、」
一瞬、なにを言われたのか分からない。
そして次の瞬間、これは、いや、これが「告白」だと気がついた。
「ちょっ、え? つ、つつき、あう?」
もはや、自分でなにを口走っているかも疑わしい。
教室の窓から入ってくる五月の風はまだ少し冷たさが残っている。が、いきなり緊張マックスとなった今の私にはちょうどいい心地よさである。
「ああああの、王司君。私たち、えっと、なんて言うか……、お互いのことそんなに知らないよね?」
「優樹でいいよ。知らないなら、今から知っていけばいいじゃん」
私のしどろもどろの素朴な問いかけに、自信にあふれる笑顔がすかさず返ってきた。そして彼は、ずいっと一歩進み出た。
「眞辺さん、俺の彼女になってくれる?」
夢のような強引な展開に、どきん、と私の心臓が跳ね上がった。
彼は私が断らないと確信している。すっごい自信だなと思う一方、確かに断る子なんていないよねと、納得してしまう自分もいる。
私は、「あああの、あの、」と回らない口を懸命に動かして優樹君に尋ねた。
「ど、どうして私なの?」
「四月に初めて見た時から可愛い子だなあって思ってたんだ。小さいのに一生懸命くるくると動き回るとことか、周囲にも気配りができるとことか──、」
くるくる動き回るのは、みんなのLサイズの動きについていくためにSサイズの私は多く動く必要があるからで、気を配っているのは少しでもお姉さんに見られたいからで──。でも、そんな姿をちゃんと見ていてくれたんだ。
なにより、彼も私のことを気にしてくれてたんだ!
私の頭はぶわっとなって、顔がかあっと熱くなった。
高校生になった私には大きな目標がある。それは、素敵な彼氏を見つけること。そして、どこかの小説のような糖分たっぷりな甘い恋愛をすること。
まさか、こんなに早く第一目標を達成できるとは思っておらず、私の気持ちは一気に舞い上がった。しかも、こんなイケメンって!
神様、これはなんのごほうびですか? ?
思わず天を仰ぎたくなる衝動を必死で抑え、私はごくりと生唾を飲んだ。ふわふわと足が浮き立つ。それでいて、どきどきと早鐘を打つ心臓は今にも口から飛びそうだ。
知らない者同士、これから仲良くなっていく恋なんて、ちょっとかなり素敵じゃない?
しかしその時、
「おい眞辺、何やってんの?」
聞き慣れた声が、私と優樹君の間に無遠慮に割って入った。
夢のような非現実的な空気がぱりんと割れて、私は現実に戻される。声がした教室の入口を見ると、そこに同じクラスの、そして同じ中学校出身の
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