第31話

「えと……つまりは、英単語なら何でも現実にすることができるってことですか?」

「まあ、そういうことだな」

「ズルッ!?」

「いや、ズルとか言われてもだな……」

「だってだってぇ! そんなの何でもありじゃないですかぁ! 卑怯です! 羨ましいです! わたしにもそれ欲しいですよぉ!」


 んなこと言われても、俺にはどうしようもない。何せ他人には使用できない代物なのだから。


「諦めなさい、雲理さん。それにあなたのスキルだって私は素晴らしいと思うわよ?」

「そ、そうですかぁ?」

「ええ。とても将来性があるし、何よりも可愛いわ」

「え、えへへ~、センパイもそう思いますかぁ?」

「ま、まあな。狐は好きだし」

「!? ちょ、今の告白ですか! い、いきなりは反則なので、もう一度ちゃんと言葉にしてください! 録音もしますから!」


 そう言いながらスマホを取り出す井ノ海。


「あのな、俺は狐が好きって言っただけだ」

「狐イコールわたし! つまりセンパイはわたしのことが愛しくてたまらない! はい論破ぁ!」

「どこが論破なのよ……はぁ。そんなことよりも大枝くん、気になったことがあるのだけれど?」

「あん? 何だよ?」


 井ノ海が「そんなことって何ですかぁ!」と不満げに声を上げるが、雨流にキッと睨まれ押し黙ってしまった。


「カードの扱い方や合成、それに復元の仕方などは理解したわ。それに私たちと違って、ミステリースキルと呼ばれていることも。けれどまだカードに関して説明していない部分があるわ。その左上に書かれた数字は何?」

「ああ、そういやしてなかったか? 実はこの数字な、つい最近俺もようやく分かったんだよな」


 そう、実はずっと分からなかった数字の意味がやっと判明したのである。 

 俺はファイルから二枚のカードを取り出し、それぞれ一枚ずつ両手で持つ。


「右手のカードには〝1〟。左手のカードには〝2〟って書かれてるな?」


 しかも同じBのカードである。

 実際俺もこの数字に変動が起きた時は戸惑った。


 まあ〝1〟が刻まれているということは、他の数字もあることは予想していたが、今までずっと〝1〟だったのに、つい最近それが〝2〟になったカードが誕生したのだ。

 どうやらランダムの上、〝2〟のカードは生成率が低い。それもちゃんとした理由があった。


「お前らにはこのアルファベットカードで英単語を作ることは説明した。例えば井ノ海」

「はい?」

「マンションの前で俺がモンスターを倒した時のこと覚えてるよな?」

「あ、はい。センパイがモンスターの口にカードを投げ入れたんでしたっけ。それでしばらくしたらモンスターが爆発しちゃいました」

「爆発? ……もしかして『BOMB』カードを使ったのかしら?」

「おお、さすがは雨流だな。察しが良い。その通りだ。今から実演をしてやるよ」


 俺はB、M、Oの三枚のカードを右手に持つ。ただし〝1〟と書かれたBは《フォルダー》に戻した。


「? 大枝くん、それでは一文字分足りないのではなくて?」

「そうですよぉ。Bがもう一枚必要じゃ……」

「まあ、見てなって。――『ボム』」


 すると三枚のカードが一つになり、『BOMB』と書かれたカードが誕生した。


「!? どうして? 三枚では数が……! そう……そういうことね」


 本当に頭の回転が速い奴だ。それに比べて井ノ海は、いまだ分かっていない様子だ。


「ど、どういうことですかぁ? Bが足りなくても作れるってことですかぁ?」

「いいや、Bは二枚分必要だぞ」

「でも一枚しか……」

「井ノ海、俺が合成したBのカードには、何の数字が刻まれていた?」

「何のって…………あ、もしかして数字ってそういう意味だったんですか!?」


 ようやくこの後輩も気づいてくれたようだ。


「そうだ。この数字は文字のストック数を意味してたんだよ」


 つまり〝1〟と書かれたカードは一文字分で、〝2〟なら二文字分として活用することができるというわけだ。

 一枚で二枚分の効力を発揮するというお得感。

 だからこそ生成率が低いのだろう。レア度が高いカードということで。


「〝2〟の数字が現れ始めたのは俺がレベルⅢに上がってからだ。多分もっとレベルを上げていけば、〝3〟とか〝4〟のカードも出てくるかもな」


 そうすればより効率の良い合成カードを生み出すことが可能になる。


「はぁ……何か不思議なスキルですよねぇ。説明がなくて、自分で使い方を見つけていかないといけないなんて」


 確かに。こんな状況で説明がないのは不利だが、その分、見つける楽しみもあったりする。

 俺は『BOMB』カードを《フォルダー》に収納しておく。


「でもセンパイのその力があったからネコ先輩は救うことができたんですよねぇ」

「……ええ、そうね。大枝くん、遅くなったけれど。あなたのお蔭で命が助かったわ。本当にありがとう」


 丁寧に頭を下げる雨流に対し、俺は手をサササッと振る。


「よせよせ、お前にこう畏まった態度取られたら背中がむず痒くなっちまう」

「あら、人が真剣に感謝しているのだから受け取りなさいな。それよりも身体で支払えとでもいうの?」

「へ? か、身体って……?」

「あ、あなたがそう望むのなら……非常に不愉快ではあるけれど、命の恩人としてこの身体を捧げるのも吝かでは――」

「はいはーい、そこまででーす! ほらセンパイ! そろそろ部室に戻らなくていいんですかぁ? 愛しのひまるちゃんが首をなが~くして待ってますよぉ」

「おお! そうだった! ひまる、兄ちゃんが今すぐ帰るからな! 待ってろよぉ!」


 俺だってそろそろひまる成分と阿川成分が足りなくなっていたところだ。早く帰って補給せねば。


「……やはりあなたは私にとっての障害になるようね」

「ふふん、それはこっちのセリフですよぉ、ネコ先輩?」


 何やら二人して顔を見合わせ、また視線をバチバチぶつけているが、俺はそんなことよりも急いで戻りたいので、さっそく二人にここから出る準備をしてもらうように頼んだ。



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