30 両手持ち用の杖は薬品の覇者と戦う 前編

― 残り五時間半 ―


「あら、もう来たのね」


 扉を開いた先では優雅に紅茶を飲むラーダさんがいた。


「マスター……何故です?」

「何故って?」

「ミンジャー町支配計画の事です!」


 …………今これ思っちゃダメなんだろうけどやっぱ名前安直すぎね?


「全く……あの部屋に入ったのね、感心しないわ」

「マスター! はぐらかさないで下さい!」


 マーダがここまでラーダさんに反抗した事は多分無いんだろうな。


 ……それでも普通に紅茶を飲んでいるラーダさんに少し腹が立ってきたぞ……。


「それで、ここに来たって事は……そういう事よね?」


 そうラーダさんが言った途端半端ない圧が伝わってきた。


 ひっ、冷や汗が止まらん。


 取り敢えず【見る者】で見てみるか。


「【見る者】」


 そう小声で言う。


 あっ! そうだそうだラーダさんには効かないんだった分かる訳ないんだからやる意味な――


《名前:シルファー・ラーダ


 HP:100 /3000(上限突破中)


 MP:2400/3800(上限突破中)


 AP:600/3400(上限突破中)


 DP:50/2800(上限突破中)


 SP:80/2600(上限突破中)


 スキル・魔法:【調合コンパーディング】【生成ジャナレーション】【錬金術師アルケミスト】【消去アウレイス】【重複ディプリケーション】【真理ヴェリチー】【活性化アクティベーション】【洗脳ブレインウォッシング】【超回復スーパーヒール】【強健な者】


 称号:『薬品の覇者』 『人の観察者』 『耐える者』》


 えぇ!? 何で見れるんだ!?


 というか知りたくない情報がめっちゃ来ちゃったよ!


 全ステータス上限超えてるってマジ!?


 しかもそれ私を余裕で越してるっているね。


 それに……『薬品の覇者』とか持ってるし。


 ラーダさんも覇者なのかよ!


 ……あのさ、勝てなくねこれ?


 グーで殴られたら私ぶっ飛ぶと思うよ?


 いや、確実にぶっ飛ぶな。


 スマ◯ラのキィーン鳴って飛んでくやつくらいぶっ飛ぶな。


「私は、私はその計画をやめてほしいだけです!

「やめない……と言ったら貴方はどうするの?」

「……止めます」

「貴方に出来ると?」

「やってみせます」


 おいおいマーダ、ラーダさんのステータス知らないからそんな事言えるんだろうけど死ぬぞ?


 ラーダさんは立ち上がり、あからさまにヤバい薬品を構える。


「ではやってみなさい」


 そう言って戦いが始まった。


 ――瞬間マーダは私の後ろに来た。


「うぇ!?」


 ちょいちょいちょい! あんな啖呵たんか切っといて私の後ろに来るってどういうこっちゃねん!


「す、すまないメルア、一緒に戦ってくれー!」


 ……はぁー、まあその気で来てたからやるけども。


 勝てるか? いや無理くね?


 さっきも言ったけどステータスの差相当だぞ?


「はぁ……マーダ、貴方の方から来ないのなら行かせてもらいますよ!」


 そう言ってラーダさんは薬品を投げて来た。


「【重力無効サイレントグラビティ】!」


 飛んできた薬品をラーダさんに跳ね返す。


「!?」


 驚いた顔をしてラーダさんは避ける。


 流石にSPが2600もあると避けられるか。


「そんな事も出来るのね……加えられた力を好きな方向に曲げられる能力かしら?」


 いや、単純に重力をひん曲げてるだけです。


「ならば……これはどうかしら!」


 そう言ってラーダさんはまた薬品を投げてくる。


「【重力無効サイレントグラビティ】!」

「【消去アウレイス】!」

「なっ!?」


 まずい! 魔法をかき消された!


 もう一度唱える時間は……無い!


「うおぉぉ!」


 横からマーダが飛び出し、持って来た剣で薬品を斬る。


 中に入った液体も斬ったので、私達の左右に向かって落ちた。


「やっと戦う気になったの? マーダ」

「戦いたくなんか……ありません! ただあの計画を止めようとしているだけです!」


 そう言って剣をラーダさんに向ける。


「絶対に〝貴方〟を、止めてみせます!」


 おーい、さっき私の後ろに来たの忘れてないからなー?


 マーダはラーダさんに向かって走り出した。


 仕方ない、援護しますか。


「【完全防御パーフェクトウォール】! 【重力無効サイレントグラビティ】!」


 マーダを傷がつかない状態にして全ての攻撃を私が跳ね返す。


「【消去アウレイス】!」


 ラーダさんがそう言った瞬間に……


「【完全防御パーフェクトウォール】! 【重力無効サイレントグラビティ】!」


 と魔法をかけ直す。


 マーダがラーダさんの所に着くまで残り5秒。


 その間ずっと魔法を言い合う。


 そしてその言い合い勝負に勝ったのは――


「【完全防御パーフェクトウォール】! 【重力無効サイレントグラビティ】!」


 私だった。


「はあぁぁぁ!!」


 マーダがそう叫んでラーダさんを斬りつける……が。


「なっ!?」


 弾かれた。


 ラーダさんは特に何かした素振りはない。


 つまりこれは……


「どうやら、貴方のAPと私のDPには天地の差があるようですね」


 そう、相手のDPが高過ぎるという事だ。


 まあ確かに今ラーダさん2800もあるしな。


 マーダがラーダさんの攻撃によってこちらに吹き飛ばされてきた。


 いやぁー……これどーしよ。


 私のAPは1250あるけれど、DPが150だからぶん殴りに行くのはリスクが高すぎる。


 でも魔法を放っても【消去アウレイス】でかき消される……。


 ……マーダに頼るしかないかぁー。


「マーダ」


完全回復パーフェクトヒール】をかけて話しかける。


「な、何だ?」

「私が援護するからマーダがラーダさんをやっつけてくれない?」

「お、お前……言っている意味が分かっているのか!?」


 …………あ。


 た、確かに自分の師を殺させるのはあまりにも酷すぎる……。


「ごめん、別の方法考えとく」


 それに今私が言ったのはそれだけの意味じゃなくて、人を殺せと言ったのと同じ……。


 いやまあルルドは人だろとか言われるかもしれないがあれはもう……人じゃなかったからまだセーフとするが、今のラーダさんは完全に人。


 人殺しをする勇気は……ない。


「ならマーダ」

「何だ?」

「気絶させる……とか出来ない?」

「気絶か……」


 気絶させて縄でグルグル巻きとかにしてしかるべき場所に行かせればまあ……良いでしょ。


「じゃあこうしよう――」


 そう言って作戦を話す。


「おや、相談が終わりましたか?」


 うーわめっちゃ余裕そー。


 でも……私達が今からやるのは殺す事よりも難しいだろう。


「さあ続きをやりましょう」


 もうそれ悪役の言葉でっせラーダさん。


「行くよ! マーダ」

「どんと来い!」


 そして私はマーダに向かって『自爆杖』を放った。

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