第26話 本選準決勝②
コロッセオ。武舞台上。
スポットライトに当たるのは小柄な二人。
「対戦よろしくです」
長い灰色髪に、赤い村娘服を完璧に着こなすジルダ。
スカートの裾を掴み、女々しく、麗しく、礼儀正しくお辞儀する。
「…………ミザミザ?」
対するは、長い白髪に、白いワンピース姿のミザリー。
首を横に傾け、黄金色の瞳でその行いを不思議そうに見つめていた。
『神の気まぐれか、悪魔のいたずらか。勝負のカードは最弱対最弱の戦い。本大会の個人成績ワースト1対ワースト2。最弱の汚名を晴らし、初の白星を上げるのは果たしてどちらだ! 準決勝、第一試合、先鋒戦。試合開始ィィィィィ!!!』
そこに響くのは、熱のこもった実況解説。
ここまで場を繋いだ、陰の立役者の魂の叫び。
そうして、先鋒戦は何の滞りもないように始まった。
観裏で起きていたトラブルを、観客に微塵も気取られることなく。
◇◇◇
名前:【ジルダ・マランツァーノ】
体力:【1000/1000】
勝率:【0勝3敗0%】
階級:【石】
実力:【1333】
意思:【未測定】
名前:【ミザリー】
体力:【1000/1000】
勝率:【0勝0敗0%】
階級:【銅】
実力:【1500】
意思:【未測定】
試合が始まり、ゴーグルの端には、そう表示されてました。
相手は自分を除けば間違いなく最弱。ここまで0を貫く最強の弱者。
(――相手にとって不足なしです)
ジルダは意気揚々と構え、右手の拳を軽く握り、相手の様子をうかがう。
「……ミーザ」
一方、ミザリーは『いつでも来い』と言わんばかりでした。
それも、腕をだらんとさせた状態で、拳を構えてすらいません。
まるで、隙だらけでした。下には下が、いるのかもしれないですね。
でも、勝つわけにはいきません。本気で負けたい理由があるのですから。
「――」
そう思いながら向けた視線の先には、ある人物。
灰色髪をオールバックにしたバーテン服を着た男性。
褐色の肌に、左頬には刃物傷、目は刃物のように鋭い人。
(お父様。ボクは……ボクは……)
これ以上、拳に力を入れないようにしないといけません。
けど、不思議と手はたぎるように熱く、青い光が見えました。
(いいえ。この思いは抑えないといけません。きっと、これが意思の力……)
未知の力の正体を、感覚で掴みながらも必死で抑えました。
使えば難なく勝ててしまう。なんとなくそんな気がしたからです。
すると、体から生じた青い光は、線香花火のように儚く消えていきました。
(思った通りです。後は善戦したように負けるだけ、ですが……)
そこで、頭にちらつくのは、仲間のお二人のことでした。
本気で大会を優勝しにいく姿勢を、ずっと後ろから眺めてました。
もし、ここで負けてしまえば、お二人に迷惑をかけるのは間違いありません。
(自分のためだけに負け続けるのは、こんなにも辛いこと、なのですね……)
だからこそ、心がずきんと痛みました。
出会った頃は、なんとも思わなかったです。
でも、今は申し訳ない気持ちでいっぱいでした。
(もし、この気持ちが目的を上回ったとしたら……)
考えるのは、もしものこと。あるかもしれない未来の話。
心にはもやっとしたものが、ぐわっと広がっていくような気がしました。
「……準備は万端といったところですね。では、遠慮なく行くですよ!」
そんなもやを振り払うように頭を振って、ジルダは言い放った。
わざと負けた先にある、勝つ以上に価値があるものを追い求めるために。
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