第4話 里へ

光が晴れる。

あたりを見渡してみる。すると足元には魔法陣のようなものが描かれていて、その傍にはこちらを見ながら驚いている様子の女性っぽい鬼。

ザクロはとりあえず話しかける。


「なあお主、ちと問いたいことが有るのじゃが良いかの?」


「し…」


「し?」


「失礼しますううううぅぅぅぅぅぅ!」


そう言うと、鬼は一目散に走っていった。

一瞬呆気にとられるものの、すぐに気を取り直しさらに周りを観察する。ここは森の中にある社のようだ。遠くには煙も上がっている。どうやら鬼族の里で間違いないようだ。


すると先程の鬼がもう一人の鬼に引っ張られながら戻ってくる。


「召喚者様で間違いないでしょうか」


鬼を引っ張っている方の鬼が誰何すいかする。


「うむ、は召喚者で間違いないぞ」


「先程は我が愚妹がご迷惑をおかけしましたこと、謝罪いたします」


そう言うと姉らしき鬼は頭を下げる。妹の方はようやく解放されたようだ。


「ほら、お前も謝りなさい!」


「あう…す、すみませんでしたぁ…」


おずおずと頭を下げる鬼。


「突然人が現れたら驚くのは仕方ないと思うがのぅ…まあ、謝罪を受け取るのじゃ」


「ありがとうございます。自己紹介がまだでしたね。私はうつつ。こっちのなよなよしてるのはまどいです」


そう言って睥睨する現に幻が噛みつく。


「ちょっと!その言いぐさは何よ現姉!」


「なによさっきまで私の後ろに隠れていた癖に。ちょっと黙ってなさい」


「まあ急に現れた吾も悪かったとは思うし、ここは吾の顔を立てて許してやってくれないかの?」


「召喚者様がそう仰るなら…」


と渋々引き下がる現。


「吾の名はザクロという。それで、お主等がこの里を案内してくれるのかのう?」


「ええ、ですがその前に里長にあなたを紹介させてもらいます」


「里長に?」


「はい。鬼族の者が召喚されたのは今までで初めてのことなので」


初めてのことと聞きザクロは驚く。

と同時に納得もする。


(おそらくレア種族だからβテスト含めて出なかったんだろうな。それならあの驚き具合にも納得がいく)


「わかった。では案内してくれるかの?」


「では、どうぞこちらへ…」

____________________


里の中は日本風の景色が広がり、一瞬自分が旅行にでも来たかのような錯覚を覚えるが、住人の額にある角がここがゲームの世界であることを主張している。


しばらく案内に沿って進んでいくと、比較的大きな館が見える。おそらくあれが里長の屋敷なのだろう。


「ここが里長の屋敷です。どうぞ中へお入りください」


「お邪魔するのじゃ」


中は意外とこじんまりしており、奥のふすまの間から光が見える。


「お連れしました」


そう現が声をかけると奥から返事が返ってくる。


「おっ?来たか。まあこっち入んな」


その一言はえらく覇気のある、それでいて心地よい感じの声だった。


ふすまを開け、中に入る。


囲炉裏が赤々と燃え、部屋を照らしている。

鍋で調理をしていたらしい筋骨隆々の鬼がこちらを向く。


「よお、お前さんが鬼族の召喚者だってな」


「その通りなのじゃ。で、里長はお主かの?」


ザクロが誰何する。


「おうともよ。お前さん、名は?」


「吾の名はザクロなのじゃ。そっちは?」


「俺か?俺の名は弓張ゆみはり あきらだ。『かがみ』と書いてあきらと読むんで、よく間違われるんだ」


そう言って豪快に笑う鏡。


「にしてもお前さんは珍しいな。これまでにも何度か召喚者は見たが、最初ハナっから鬼族なんてのは初めてだぜ」


最高神フォスは適性がどうとか言うとったのう」


「適性…適性か。あながち間違っちゃいねえかもな。お前さんは…」


少し顔が曇る鏡。


「のじゃ?」


「先に言っておくと、俺は対峙した相手の感情がなんとなくわかる。その上で聞くが…お前さんは苦しくないのかい?」


「はん、吾の心を覗き見たか。ならわかるじゃろう?」


「ああ、わかるからこそ聞いている。このまま行くとお前さん…いつか暴発するぜ」


「忠告には感謝するがこれは吾が乗り越えるべきことだ。お主等は関係ない」


「…そうかい。だが、お前さんが鬼族である限りお前さんは俺達の家族だ。遠慮なく相談しろよ」


そう言うと鏡は立ち上がって続ける。


「さて、と。お前さんをここの住民として認めよう。ついては家を用意するが…現!」


襖が開く。


「すでに用意してあります。これから幻に案内させますよ」


「よし。後はこれを持っておきな。路銀と、鬼族の一員になった証だ」


鏡が鈴飾りを差し出す。



“鬼の鈴飾り”

鬼族の一員であることを示す証。

str +1



ザクロはそれを受け取って装備する。


「この世界に来るときも思ったが、随分と待遇が良いんじゃな」


「お前さんは召喚者の中でも鬼族っちゅう特別な種族を引いたんだ。それ相応の強さと成長が見込めるからな」


「なるほどのう」


「それに…あの人フォイガウィスフォの加護持ちを邪険になんてできねえよ」


それはとても優しい、望郷の念を感じさせる声だった。


「湿っぽくなっちまったな。とにかく、お前さんの舞台が良いものであることを願っているよ」


鏡が言い終わると同時に、幻が入ってくる。


「それではザクロ様、この里の基本的な設備と貴方様の家を案内いたします」


「うむ。ではまたの、鏡」


「ああ、またな」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「ふ〜む…」


「里長?ため息なんかついて珍しいですね。それに召喚者様に随分と親切ではないですか」


あの人フォスの召喚者が鬼族にも来たって聞いてみたからどんなもんかと思えば…驚いたな」


に同居してるやつは初めて観た」

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