第1話

「ようやく届いた!」


小さな部屋に少女の声が響く。

部屋は調度こそ少女然としているものの全体的に散らかっており、汚い。

そんな部屋の真ん中で何やらパッケージを持ってはしゃいでいる黒髪を短くまとめた活発そうな印象の少女が一人。


「いや〜楽しみだな〜えへへへへへ!高校受験を終えてようやく手にした至福の時間!」


するとドアが勢いよく開きもう一人少女が入ってくる。

髪を腰までおろしたどこか大人しい印象の少女だ。


「うるさいわよ桃香とうか!欲しかったゲームが届いて嬉しくなるのはわかるけどもう少し声を落としなさいよ!私のところまで聞こえてきたわよ!あとこの部屋!いつもいつも片付けろって言ってるのに何度言ったらわかるの!春休みだからってだらしないんだから!」


「えへへ〜…ごめんごめん。ついね、ちょっと興奮しちゃって。というか梓無子しなこだって大声出してるじゃん?」


梓無子と呼ばれた少女が咎めるのに対して、桃香と呼ばれた少女が飄々とした態度で答える。


「…はぁ、もういいわ。後で片付けだけしておくように。

で、?それが例のゲーム?」


「そうなの!Next Stageの新作!β勢によるとここ数年で最高のVRMMORPGってもっぱらの噂だよ~!」


と、桃香がパッケージを掲げる。


「へえ…」


と梓無子は興味深そうにパッケージを眺める。

すると桃香が捲し立る。


「それにそれに!この作品には今までにないDramatic Pointっていう要素があるらしくて!とても面白そうだったから待ちきれないよ〜!

はっ!こうしちゃいられない!さっさとBNID※にインストールしてサービス開始を待機しないと!梓無子も一緒に!ね!ね!!」


「わかった、わかったから…って、私も?」


梓無子が首を傾げる。


「うん!2つ買ったから!…あ」


「ふた…つ?」


桃香の顔が「しまった」という表情に変わり______

刹那、梓無子の雰囲気が変わる。

先程の興味深そうな顔から般若のような、あるいは子供を叱る親のような…


「ねぇ…」


「ヒィッ!?」


「無駄遣いはしないようにっていつも言ってるでしょ!このゲームだって安くないんでしょ?!このくらいの値段なら私でも買えるのに!なんでいつも相談せずに行動しちゃうの?!」


梓無子の叱責を受けて桃香は薄っすらと目に涙を浮かべながら謝る。


「ごめんなさい…梓無子と一緒に遊びたかったから…」


「まったくもう…しょうがないわね。次からはちゃんと言いなさいよ」


「うん!」


やれやれとでも言いたげに肩を竦める梓無子に対して、眩しい笑顔を見せる桃香。


「私だって…一緒に遊びたいんだから」


「ん?梓無子、なんか言った?」


「いいえ、何も。さて!ゲームをやるなら、まずは部屋を片付けないとね?」


梓無子が笑いかけると桃香は「うっ」といった表情を浮かべ、その後渋々といった態度で片付けを始める…が、数分後。


「梓無子〜」


「なによ」


「手伝って〜」


「やっぱりか」という顔でため息をつき梓無子も片付けを始める。慣れた手付きで物を仕舞っていく梓無子に桃香は


「いつもありがとうね〜」


と朗らかに言うが、梓無子は冷ややかな目線で返す。


「このくらい、どうってことないわよ。というか桃香、あんた高校生にもなってこの程度のことも幼馴染に頼るってどうなのよ」


「だって〜仕方ないじゃ〜んできないものはできないんだから〜」


「はいはい、言い訳は結構。せめて努力をしましょうね、桃香」


「はいぃ…」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「あらかた片付いたわね」


「やった〜!」


数分後、部屋は綺麗とまでは行かなくともさっきまでに比べたらだいぶマシになった。

程よい充足感の中、


「じゃあ、これ!梓無子の分!」


と言って梓無子にパッケージを手渡す桃香。


「ありがとう。ところで、私はこういうゲームは初めてなんだけど、大丈夫なのかしら」


不安げな顔をする梓無子。


「そうだったの!?てっきり一回くらいはやったことあるかと思ってたよ。

よし!じゃあさ、まだサービス開始には時間があるから、私がルールとかマナーとかを教えてあげる!」


「そうね、よろしくお願いするわ」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「よし、大体わかったかな?」


「ええ。なかなか奥が深いものなのね…

それにしても、さっき言ってたそのDramatic Point…だっけ?それはどういったものなの?」


「説明しよう!Dramatic Pointとは!プレイヤーのRPの度合いによって秒刻みで更新されるマスクデータなのだ!この値に依存して制限がかかるスキルや防具なんかがあるのだよ!」


梓無子の疑問に桃香が芝居がかった口調で答える。


「RP、ね…自信ないわ」


と、少ししおらしい表情の梓無子に桃香が


「大丈夫!RPは楽しいから!RPで迷ったときは、自分のなりたい自分をイメージして心のままに行動すればいい感じになるよ!梓無子ならできる!」


と屈託のない笑顔を見せる。


「なるほど…意識してみるわ!さて…そろそろいい時間だし私は帰ろうかな」


「えっ、ほんとだ!もうこんな時間!そろそろサービス開始じゃん!」


「じゃあね。次合うのはゲームの中でかしら?」


「うん!ゲーム内で会おう!」


和やかに別れを告げ、梓無子が帰っていった。

桃香は一人残った部屋で


「どんなRPにしようかな〜!やっぱ尊大な感じがかっこいいよね!」


と、まだ見ぬゲームに思いを馳せていた…







※BNID:Biological Network Interface Devise

脳科学の発展により開発されたマイクロチップ。これ一枚で網膜内に映像を映してARがどこでも使えるようにしたり思考入力したりVR空間にフルダイブしたりなど色々できる優れもの。スマホはもはやアナログ。

某DUOのNLDみたいなやつ。

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