第32話 弟子


「はぁはぁはぁ――。くそぉ、勝ちきれなかった!!」


 仰向けに倒れ、息を切らしながら私は言った。


「神降ろしまで使わされたんだ。わたしとて簡単には負けられないさ」


 ゴールデンウィーク2日目。

 謙信さんとの模擬戦から始まった。


 流石はマンダラ全体が私が苦戦するレベルに強化されている普遍的無意識における認知上のだけはある。

 通常状態の謙信さんなら問題はなかったんだけど、神降ろしで毘沙門天を躰に宿してからは、今までとは桁外れの強さを発揮された。

 ま、まあ、それでも五分五分。引き分けではあったよ。


“いやー、上杉謙信、流石の強さだな”

“この謙信と引き分けで、決着がつかないレベルなんだよな、信玄って”

“謙信と信玄の闘い、見てみたいような……”


“ああ、羨ましいですね。LANさまとあんなに楽しそうに一緒にバトルされるなんて――”

“↑落ち着いてください。グラスが割れました”


“なんかLANちゃん。五分五分の引き分けみたいな顔をしているけど、謙信の勝ちじゃね”

“仰向けに倒れているLANと、立っている謙信”

“うーん、確かに引き分けというには厳しいなぁ”

“LANは素手で相手してるんだから、その点は考慮にいれてやれよ”

“『終焉』を使えたら、結果は逆だったかもしれないな”


 コメント欄は盛り上がっている。

 やっぱりバトル関係の映像は、人気が高い。

 謙信さんとのバトルの最高潮の場面では、視聴者数は15,000人を超えていた。


「……ご飯できたわよ。謙信、それと弟子」


「ありがとう」


「ありがとうございます、道満さん」


「師匠」


「え?」


「アンタはあたしの弟子なんだから、師匠と呼びなさい」


「……はい。師匠」


 この人と出会って半日ほどしか経ってないけど、性格が面倒くさいのはわかっている。

 だから、下手に反論せずに頷き、言われた通りに師匠と呼んだ。

 満足したのか、道満さんは肯くと用意したご飯の所へと向かった。


 道満さんが用意していたのは普通に和食だった。

 白米に焼き魚に漬物。

 私には麦茶。謙信さんには酒を出している。


「――謙信さんはお酒を飲むんですか?」


「ああ。酒は疲れたからだ染み渡っていいんだよ。特に道満が用意するご飯と朝酒との相性は実に良い。」


「呑むのは、その酒瓶に入っているのだけにしなさい。最近、また飲酒量が増えているわよ」


「大丈夫。酒は飲むとも飲まれたことはないのは知ってるだろ

それに我々は所詮は泡沫な存在。人々の認知によって存在しているだけの徒花

酒を幾ら呑んでも、死にはしないさ」


「……」


 謙信さんの言葉に、道満さんは何も言わずに、自分が作ったご飯を食べ始める。

 マンダラに存在している人たちの事だ。

 私が簡単に踏み込むべき事じゃあないだろ。

 なんか妙な空気となったこともあって、昨日の事を思い出す。



 八卦緊縛陣により一秒にも満たない時間、私は封じられた。

 その一秒に満たない時間を利用して、道満さんは私の躰を奪おうとしたようだ。

 ただ、その企みは私の知らないナニかにより阻まれる。

 私が八卦緊縛陣を破壊して、道満さんを攻撃しようしたのだが、攻撃よりも早く、掴まれていた手を離されて、地面に座ると子供顔負けで泣き始めた。


『――やるね。道満は一流の陰陽師だ。

それをこんな短時間で撃退するとは……』


『私は何もしてないですよ』


『しかし道満の企みを阻止したことは事実だ。

後はわたしが説得してみるから、キミはマンダラ探索を続け給えよ』


『は、はあ。分かりまし、――!』


 謙信さんに促されたので、ここの居ても仕方ないので去ろうとすると、足元を掴まれる。

 もしかして、まだ諦めていないのかと思い、警戒したけれど違った。


『……ぐす。でしにしてあげる』


『は?』


『あんた、おんみょーじなんでしょ。このおんみよーじ、あしやどうまんが、でしにしてあげるっていってるのよ!!』


 思いっきり泣いている影響か、微妙に呂律が回ってないというか……。

 ただ、私の答えは決まっている


『あ、間に合ってます』


 当然断る。

 いきなり人の躰を奪おうとした人の弟子とか、一般常識に当て嵌めてもありえないでしょう。

 断れるとは微塵も思ってなかったのか、再び道満さんは泣き始める。


『うわぁぁあああああ。どうせ、どうせ、あたしはせいめいにかてないしょうがいまけいぬのおんみょーじよ!

あああああ!!

にんげんどもがせいめいにまけるおんみょーじってにんちしてるからわるいんだああああ

いっぱいいっぱいどりょくもして、さいのうもあるのにぃぃぃい

あぁぁあああん』


“あーあ、LANちゃん、泣かしちゃったね?”

“いや、これはLANは悪くないと思い”

“と、いうか、認知により覆せない結果が決まっているというなら、遠因で俺たちも原因ってことに”

“なあ、LANちゃん、弟子になってあげてもいいんじゃあないかな”

“そうそう。一応は有名な陰陽師なんだから、きっと為になるよ。たぶん。きっと”


 なぜか道満さんを擁護して、私に弟子を勧めてくるコメントが大量に流れる。

 えええ。意味が、分からない!!

 でも、どうみても流れは道満さんの弟子に私がなる流れが出来ている。

 これが同調圧力ってヤツ?

 断固拒否してもいいけど、そうなると少なからず炎上する危険性が孕んでいる訳で……。


『わ、分かりました。道満さんの、弟子に、なります!』


 もうやぶれかぶれだ!



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