第29話 上杉謙信
『いつまで熟睡しているつもりなんだか――。
好い加減に……起きろぉぉぉおおぉ!!!』
「がっぁはっ!」
激痛で目が覚めた。
まるでお腹にエルボーを打ち込まれたような痛みだったけど……。
手でお腹を押さえながら辺りを見回してみる。
どこかの洞窟のようで、すぐ近くには薪が焚かれていた。
確か私は魔力を吸収される吹雪に襲われ、急激な魔力消費することにより魔力急欠症になって倒れたんだった。
「目覚めたようだね」
洞窟の奥から現れたのは、黒髪の美女だった。
腰のところには2本の刀を差している
「あの、雪から助けてくれた人、ですか」
「ちょっと違うね。キミは自力で、ここまで歩いてきたよ。
この洞窟に入ってくるなり、すぐに気絶したしたから、奥の方には私が運んだけどね」
自力で歩いてきた?
全く記憶にない。
そもそも魔力急欠症で倒されていたので、自分で動ける訳がない。でも、目の前の女性が嘘を言っている感じもしないからなあ。
とりあえず助けてもらったことには変わりないからお礼を、
「ところでずっと前から、小手に装着されている機械からずっと音がなってるけど大丈夫?」
「え?」
女性に指摘されて腕につけているスマホを見ると大量のコメントが流れていた。
“良かった。良かったです。LANさま。無事ですね。どこも悪くはないですよね!”
“倒れたときは、マジで焦った”
“要塞型マシンを斃したLANを行動不能にさせる雪ってなんなの?”
“マンダラ……恐るべし”
“フルダイブ型VRで体験してたけど、近くにいる感覚で何もできないのは、もどかしかった”
“えっ。フルダイブ型VRで、この配信を体験できるの?”
“↑可能みたいだぞ。一応、DTubeからのお知らせにあった”
“対応している物は8万を超えるらしい。ハイエンドのスマホよりは安いぞ”
“用途が限られているものに、8万はキツイDEATH(泣)”
もしかして、いや、もしかしなくても全て配信中だったりする?
えっと、クエビコはどこに――!
慌てて見回してクエビコを探した。
隠密で姿を消しているようだけど、式神の代理契約しているので場所ははっきりと分かる。
クエビコの姿を確認した私は、慌ててクエビコへ向くと配信者達に向けて言った。
「ごめんなさい。心配おかけしました!
もう大丈夫です。
あの妙な雪で魔力急欠症に陥りましたけど、もう回復しましたっ」
“(´;ω;`)ブワッ”
“無事で何よりです”
“? 魔力急欠症ってなに。エロい人教えて”
“文字通り魔力が急激に減ることで、魔力が欠けたような感覚に陥る症状”
“軽くて気絶。重い場合は死ぬ可能性もある”
本当に魔力急欠症はキツい。
前世のことを思い出したと同時に、超魔神皇の魔力が溢れ出したので魔力を一気に開放する必要があった。
開放しなかったら……風船を膨らませ続けた末の結果になっていた。
まだ魔力制禦も甘かったので、急激な魔力消費によって何回も魔力急欠症になったのは今では懐かしい思い出だね。
おっと、昔を懐かしんでいる場合じゃあない。
「えっと、名前、聞いてもいいですか?」
「わたしの名は、長尾景虎。
――地上の人間なら上杉謙信のほうがわかり易いかな?」
“マジかっ”
“上杉謙信って――あの上杉謙信か”
“確かに女性説ってあったから、女性でも不思議じゃあないけど……”
私はチラリとクエビコを見ると、クエビコはストレスモードを解除して姿を現した。
『アナライズ完了。自己紹介の通り、彼女は『越後の龍』上杉謙信で間違いありません』
「あくまで私は歴史上の上杉謙信を、人々の想念で産み出された者でしかないけど
もしかしたら歴史上にいた本物の上杉謙信は、男だったかもしれない」
「マンダラには男の上杉謙信は居ないの?」
「居るかもしれないし、居ないかもしれない。わたしは遭ったことないよ」
クエビコを見てみるけど、何も言わないってことは、まだ情報がアンロックされてないってことだろう。
もしアンロックされていたら饒舌に喋りまくるだろうし。
「とりあえず私のことは、謙信と呼んでくれて構わない。
その方が見ている人たちにも分かり易いだろう?」
「わかりました。それでは、謙信さん、よろしくお願いします
……ところで、どうして謙信さんはこんな洞窟に?」
「友を止めようとしたけど、目的のために手段を選ばないようでね。
あの雪の術式の前に、わたしではどうする事もできずに、ここに避難していたと言うわけさ」
「――外で吹雪いている雪って、謙信さんの知り合いの方がしている術ですか?」
謙信さんは困ったような笑みを浮かべて頷いた。
「そうなんだ。――どうしても叶えたい願いがあるようでね。
彼女の気持ちは分からなくはないよ。わたしだって、叶うことのない、叶えたい願いはある。
でも、それは自力で行うべきで、他者の力を強奪してまでするようなことじゃあない
そのような行動は義にもとる……」
「……強奪って、私の力をですか?」
「そうだ。キミは一度運命を変えただろう?」
「あ、はい。あまり記憶にはないですけど、未来は変えました」
きょーちゃんが死んでしまう最悪な未来。
あの時の事はあまり記憶にはないけど、きょーちゃんが生きているという事は、未来が変わったという事だろう。
「どんな形であれ、変えたという実績は大きい。
神殺しという存在は、神を殺さない限り生まれないように、未来という運命を変えた存在は貴重で、その力を奪えたら――確定されている事柄を変えることができるかもしれないと希望がある。
だからこそ、彼女――蘆屋道満は、キミの力を奪うために動いているようだ」
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