第■■話 IF-BAD・END-
「……い……ください…………気をしっかりして下さい! 蘭さまっ」
冥火さんの声で、意識が戻る。
身体が気怠いく意識が朦朧とする。
私は――確か、……。
そうだ。私は、負けたんだね。神喰キサラに。
徐々に何があったか思い出してくる。
陰陽天覧会で起こった大規模テロ。
きょーちゃんを裏切って死なせた元凶、天使桜香が再び現れた。
総合人材派遣会社『JOKER』介入。
総理大臣以下、出席していた大臣達の死亡。
――そして私の超魔神皇としての力を、キサラに喰われて奪われた。
今の私は超魔神皇の力の残滓。または搾り滓。
朦朧とする意識をなんとか保ちながら周りを見る。
ここは……京都にある京極本家。その本家地下にある物理・魔術的に強固なシェルターのようだ。
ああ、そうだ。キサラの猛攻で負けた私を、お父さんが最後に身を挺して、逃がしてくれたんだった。
気配を探ってみるけど、もうお父さんの気配を全然感じない。
――うっううう、お父さん、ごめんな、さい。ごめんなさい!!
「そうだ。玲衣奈は! 玲衣奈は無事!?」
「はい。冥月と共に少しでも京都から遠くへ逃げております」
「――無事、なんだね。そっか。良かった」
きょーちゃんを喪い、お父さんも殺され、その上に玲衣奈まで殺されていたら、私はもう立ち直れない。絶望に支配されて、ただ、ただキサラに殺されるのを待つだけの者になっていたと思う。
「……冥火さんは、なんで居るの? 玲衣奈に付いてかなくていいの?」
「玲衣奈お嬢様から、自分の代わりに蘭さまに最後まで従うように命令されております」
「――冥火さん。玲衣奈の私に最後まで従うという命令とは異なるけど、最後に、私のために命を使ってくれますか?
勿論、タダとは言いませんよ。
受けてくれるなら――私が神喰キサラを斃します」
「……――本当に、あの化物を斃せるのですか?」
懐疑的な目を向けてくる冥火さん。
まあ、キサラに手も足も出ず、「奥の手」を使用した状態で完膚無きまでにやられたので、そう見られても仕方ないね。
キサラはどうやら神である阿頼耶識さんの血肉によって人の手によって造られた存在らしい。因みに神威さんは、阿頼耶識さん本人が自身の血肉で造った存在とのこと。
私の超魔神皇としての力を喰ったキサラは、人間としての肉体でしかない私よりも、更に効率よく魔力循環・運用を可能とした。
ただし肉体では上回っているようだけど、精神はそうでも無かった。
超魔神王の魔力を操るには、キサラの精神は未熟すぎた。
キサラとしての精神は今では消え去り、今のアレは、キサラでも、超魔神王でもなく、ただ周りに破壊と死と絶望を振り撒く、災厄存在でしかない。
「信じて、としか、言えないけど……。命を賭けて、私はアレを斃してみせる」
「……分かりました。蘭さまを信じます。
あのままアレが存在していれば、逃げた玲衣奈お嬢様へ十中八九危害が及ぶでしょうから……。
私は何をすれば良いのですか?」
「時間を。時間を稼いで下さい。
兎に角、時間との勝負となります。
――お父さんから託されていたけど、私には必要ないですからこれは冥火さんが使って下さい」
逃がすときに託された『終焉(エンド・オーダー)』を、冥火さんへ渡した。
神妙な顔をした冥火さんは、『終焉(エンド・オーダー)』を受け取ると、シェルターを出て行く。
……これから『奥の手』を使って出来る限りの後始末をしないといけない。
ただし『奥の手』は超魔神皇の魔力を使用するということ。使用すればアレがこっちに向かってくるのは目に見えている。
正直、冥火さんでは今のアレには、1分持たせる事も厳しいとは思う。
でも今は、その1分という時間すらも、欲しかった。
精神を集中させて、超魔神王としての力を呼び出した。
――今は一重の円環しか無理、か。
『奥の手』を発動した瞬間、見られている気配を感じる。間違いない。アレが私を見ている。
見て広範囲攻撃をしてこない所を見ると、力を最後まで搾り取りたいのだろうね。
見られている感覚は直ぐに無くなったけど、気配が近づいてくる。
早く、少しでも出来る事をしておかないとッ。
背中に現れた漆黒と金色が混ざり合った円環を、正面へ移動させた。
左手を伸ばすと時空間が歪む。
まずは、こんな最悪最低の未来がこないように、過去へ干渉をしておかないと……。
今の私の魔力だと、拳一発分を過去へ送る事しかできない。でも、それで構わない。
私の全ての経験を超魔神王と融合させた物を造り出す。アストラル体の存在だけど、過去の私が絶望に襲われたときに、自動的に現れるようにしておく。
……できることならきょーちゃんが助かって欲しいけど、それは過去の私の行動に託す。
とりあえず右手拳に術式を込め、過去「陰陽天覧会」の話題が出た所の私へ、思いっきり拳圧を飛ばした。たぶん顔面にクリティカルヒットしたと思う。
次に私は首から提げていた宝石が装飾されているアミュレットを手に持った
「きょーちゃん。ごめんね。……こんな事にならなければ、生き返らさせてあげられたのに」
宝石部分にはきょーちゃんの魂を封じ込めている。
知り合いの神威さんとの間に赤ちゃんを作って、きょーちゃんの魂を赤ちゃんに入れる予定だったけど、もうその計画はご破算となった。
神威さんは血統は優秀だったので、超魔神皇としての魔力と合わせたら、きょーちゃんを入れる優秀な素体が出きるハズだったけど……。
もう神威さんがキサラに殺されている。今から10分後の未来が真っ黒で見る事ができない。つまり私は10分後には、死んでいるということになる。
……まだ妊娠はしてないのが救いかな。またきょーちゃんを殺される事になっていた。
宝石部分を砕き、きょーちゃんの魂を輪廻させるべく術式を発動させた。
「――バイバイ。きょーちゃん」
魂は光の粒子となり消えていく。
来世では幸せになってほしい。もう、私がきょーちゃんと来世以降で出会うことはまずないから、今はもう願う事しか出来ない。
シェルターの天井が音を立てて破壊された。
同時に、私の前に破損した「終焉(エンド・オーダー)」が落ちて来た。
……冥火さん。ごめんなさい。
でも、貴女が稼いでくれた時で、この未来が来ないようにするキッカケを過去に託すことが出来たよ。
死んだ後、私はあの世に行くことはないから、せめて私の死に様をあの世から見ていて欲しい。
空中に存在するのは、超魔神王の力を得て暴走している「神喰キサラだったもの」を、私は忌々しげに睨み付ける。
五重の円環が背中に現れ、円環からは木の根っこのように伸びてたそれは、時空間に干渉していた。
「――RE:ZERO<START――」
これだけは……これだけは正直、使いたくなかった。
この術は転生を無効化して元に戻る為のもので、デメリットとして、今の私――京極蘭の存在並びに今までの経験の消滅と、二度と転生系の術が使用出来なくなる。
普通に死ねばそんなデメリットはないのだけど、お父さん達を殺したアレを私は許す気は無い。
例え、永劫の時をずっと超魔神王として有り続けることになろうとも。
人間として生きるという超魔神皇の願いも壊すことになって、申し訳ないとは思うけど、こればかりは、これだけは譲れない。
術式が発動した事で、――私が――京極蘭という存在が消滅して――真の超魔神皇が降臨する気配を感じたのか、「神喰キサラだったもの」は私へ攻撃をしてくるが、空間に阻まれて干渉できない。
意識が薄れていく。
思考が回らない。
視界がぼや――……。
戻る。戻る。戻っていく。
ああ、私が、――京極蘭は、消えていく――。
こうして、京極蘭という存在があったことすら消え去り、今まで蘭の人生経験により超魔神王が得たであろう人間性も無くなった。
存在しているだけの最強・無敵の存在として識られていた、超魔神皇が地球に降臨した。
――BAD・END――
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