第20.5話 造られた者たち


 蘭、京華、桜香が入ったビルの真正面向かいに位置するオフィスに一室に男女がいた。


 1人は金髪で髪の先を一部ピンク色に染めていて、今風のギャルっぽい格好をしている20歳未満の女性。。


 1人は黒髪に青いメッシュを所々に入れている優男風の風貌で眼鏡をかけている30歳ほどの男性。


 女性の方は神喰(じんぐう)キサラ。男性の方は空閑(くが)禊(みそぎ)


 2人とも総合人材派遣会社【JOKER】所属している者達だ。


 総合人材派遣会社【JOKER】は、社長の臥龍岡(ながおか)孔明(こうめい)が設立した所謂傭兵派遣会社だ

 殺人、身辺警護、家事全般、システムエンジニアなど多種多様な人材を派遣する事で、裏の世界ではそこそこ有名な非合法な組織であり、日本だけではなく世界各地で活動をしていて、一部の国からはテロ組織にも指定されてたりする。


「空閑ちゃん。どう? 桜香ちゃんは京華ちゃんを殺せた?」


「あー、失敗しちゃったみたいですね」


 双眼鏡で覗きながら禊は答えた。


 弥勒京華の殺しの依頼を、100万で天使側から依頼があった。

 未成年の陰陽師の中では一際有名な京華を暗殺するには、100万は安い金額であったが、場所と道具を用意してくれれば、後は自分たちでどうにかすると、天使側は言って値切りに値切ったことで、今回の場所と道具を用意したのである。

 どうやら今年の「陰陽天覧会」で色々と画策している一派が、京華を邪魔と判断をして、天使家が主に立って依頼を進めたようだ。

 またキサラと禊は、依頼の顛末を見届ける為に、この場に陣取っていた。


 因みに京華を殺すために用意した『愚者の輝石』の相場は高くて十数万程度。

 アンデット・レイス系の魔物をユニークモンスターの頂点・EXTRAモンスターへ強制チェンジさせる危険物だ。

 【ナイトメア】級と比べると驚異の質は落ちるものの、それでも下手に地上に出現すれば、対応次第では数十~数百万人の被害は出る可能性がある魔物である。

 万が一の事を考えれば、そんな物を欲しがる物好きはほぼ居ない。


 今回使用された『愚者の輝石』は、【JOKER】に所属している百鬼(なきり)鬼淋(きりん)が、ダンジョンに潜った際にたまたま拾ってきた物で、使い道がないと死蔵されていたのを、どうせならと今回使用した形である。

 キサラと禊が陣取っているのは、出現したEXTRAモンスターを始末する為でもあった。


「え? 失敗? 『愚者の輝石』が発動しなかったとか?」


「いえ、発動はしたみたいですよ。

発動してリッチの騎士みたいなヤツが現れたら、妙な女の子が介入してきて、リッチの騎士が土下座しましたね」


「何言ってるのか分からないのだけど!? 貸してッ」


 禊が使用していた双眼鏡を奪い取り、キサラは向かい側のビルの一室を見た。

 そこにいる紅と黒の角を頭の左右から生やした少女――A/Zを見ると、全身から汗が噴き出した。

 慌てて手に持っていた双眼鏡を、投げ捨てる。

 これ以上、見ていたら確実に気がつかれていた、とキサラは妙な確信があった


「あ、あの子はヤバイ。ガチでヤバイ

輝夜ちゃんが怒った時並のヤバさだって……っ」


「――噂に聞いてますけど、僕はその人に会ったことないので今一分からないのですが」


「私も最近会ってなくて、今はどれぐらい零落(おち)ているかで違ってくるけど、とりあえず前の時は、あの鬼淋ちゃんが何も出来ずに返り討ちにあってお仕置きに犯されたぐらいの強さだった。今、角を生やした女の子は、その時の輝夜ちゃんよりも、ヤバさがあるの」


「それって最悪じゃあないですか!」


「そうよ。私達は場所と道具を提供した善意の第三者!

これ以上は無関係! と、言う事にして撤収するよ」


「了解です」


 禊は敬礼をして答える。

 そしてキサラと禊が慌ててオフィスから出ようとしたした時、窓ガラスが割れて、風が室内を吹き上げる。


「……妙な感覚がするかと思ったら……。お前か、キサラ」


「うわっ。神威お兄ちゃんかあ。――……あの角の生えた子よりかは、マシかな」


 割れた窓から空中に浮かびながら入ってきた神威の眼は、虹色でシリウスのように光り輝いていた。それに共鳴するかのようにキサラの眼も同様に虹色になった。ただ神威の眼と比べると、光輝が薄い。


「ああ。いいなあ。神威お兄さんの、その、本当の神サマの眼。私なんかのニセモノと違って……凄く羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましいっ。ウラヤマシイ!!!」


「――お前も俺も似たような物だ。本物もニセモノと違いは無い」


「全然違うからね。

神によって造られた神威お兄さんと、人によって造られた私。

明確な差があるっ」


 キサラの感情に反応するかのように、オフィスにあった机へPCが宙に浮かぶ。

 PC等の電子機器に繋がっているコンセント等も、無理矢理引っ張ったことで千切れて火花が散った。

 それに対するかのように神威も手を前へ出すと、風が再び吹き荒れる。

 正に一触即発の状態であった。


 神威は輝夜が自らの血と肉を使用して造り出した存在である。そのため戸籍謄本では姉弟となっているが、実は母子のそれに近い。

 一方のキサラは、同じく輝夜の血と肉を使用されて造られた存在ではあるものの、造り出したの人である点で異なっていた。

 そのため、同じ血肉を使用していながら、神造と人造の違いから、スペックに差がある事がキサラのコンプレックスであった。


 今戦えばキサラは神威に完膚なきまでに敗北する可能性が極めて高い。

 今日の夕方までであれば、実戦経験豊富なキサラの方に軍配が上がっただろう。

 しかし今の神威は、1万回を超える程の戦闘シミュレーションで、キサラの優位性であった戦闘経験の差をカバー出来ていた。


 神威とキサラがぶつかろうとした直前。

 キサラの横にいた禊が、キサラの後ろ首に針を刺した。


「あっ――み、――――ぎ」


 キサラは禊を睨みながら目を瞑り、意識を失い床へ倒れた。

 倒れたキサラを、禊は両手で抱えると神威に向けて言う。


「すみません。孔明さんから貴方達との戦闘は避けるように厳命されてます

社長の義娘を斃されたとあっては、僕の立場がなくなりますので、ご容赦下さい」


「……【JOKER】の中で見た事無い顔だな」


「何分新参者なので。以後、宜しくお願いします」


「お前達とは仲良くしたくねえよ

そもそも――俺がお前達を逃がすと思うか」


 相変わらずオフィス内の風は吹き荒れ、キサラが眠ったことにより制禦を失い、落ちるだけだった机や機器は、そのまま神威が制禦を引き継いだことで、浮かんだままとなっていた。


「逃げますよ。昔から言うでしょう。「三十六計逃げるが勝ち」と

後、僕達に構っていていいのですか?

向こう側、もうちょっとで爆発しますよ。念のために、証拠隠滅の観点からに爆弾を仕掛けておきました。

死ぬ事はないでしょうけど――果たして五体満足でいられるかな」


 禊が言った瞬間。意識を禊から、後ろの蘭たちがいるオフィスへと意識を向けた。

 一瞬の間。

 それを見逃す禊ではなく、意識が自分たちから離れた分かると、直ぐさまこの場から消え去った。

 逃げたことを察した神威は振り返るも、そこには禊達の姿は無かった。

 舌打ちをするものの、禊が言った事が嘘かどうか分からない以上、向こう側と合流する必要性がある。

 神威は慌てて向こう側へと飛ぶのであった。


 

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