第15話 疑惑?


「まさか、クエビコと地上の夜の街を一緒に散策できるなんて思っても無かったよ」


『私もです』


 クエビコは地上ではドローンと言い訳できなくはないけれど、目立つのでステルスモードで私の横にいる。

 認識できるのは契約代行者である私かお父さん。或いは観察眼または空間認識力が優れた人物、後は阿頼耶識さんみたいな超常の存在だと思う。


 アルバイトの件で一旦家へ帰ったところ、お父さんが珍しいことにいた。

 こんな一週間ぐらいで会うことなんて、ここ何年も無かったのに。

 妙にボロボロになっていて、その理由を聞くと「翼を生やしたトカゲの調伏に手間取った」との事だった。

 ……翼を生やしたトカゲって龍のことなんじゃあ。あまり触れられたくなさそうだったので、触れなかったけれどね。

 また驚いたことにお父さんがクエビコを式神として契約を行い、私へ契約の代理行使件を与えるとの事だった。

 あの表情のお父さんに何を言っても意味がないのは、合う回数が少なくても分かっていたので、素直に私は受け入れた。

 その為、こうしてクエビコと地上で一緒に行動することが出来ている。


『しかしアルバイトですか……。もう少し早く私に相談できていれば、簡単にお金を稼ぐことができましたよ』


「――それって犯罪行為じゃあないよね」


『いえ、違います。蘭は容姿に関しては、美少女の類いです。ええ、容姿に関しては』


 ……容姿に関してはって、なんで二度言うかなあ。

 まるで性格に問題があるように聞こえるのだけれど?


『ですから、それを最大限に生かしてフリーのティーンモデルとして写真集販売などしてはどうですか? 今は電子書籍で、ある程度は自由に販売できますよ』


「むりむりむり! スク水とかビキニ着て、愛想良く写真に写るなんて、私には無理! 恥ずかしすぎるからっ」


『――ダンジョン配信者が撮られて恥ずかしいとか、何を言っているのですか?』


「あれはぁ、仮面とかしているから、ギリ大丈夫なの」


 流石に素顔であのテンションを維持するメンタルは私にはない。

 この前のマンダラの動画を見たら、呂布の戦いで破れた制服の角度がギリギリすぎて、仮面をつけていて良かったと思った。

 クエビコの妙な美学で、チラリズムの角度が妙なエロさがあったのもそう思える一因だ。

 そんなたわいのない話をしていると、目的の場所へと着いた。


『それで、どのような依頼なのですか』


「ブラック企業に勤めていた人が、抗議のためか職場で自殺。地縛霊となって、このビルの一室に取り憑いているみたい。

因みに元々のブラック企業は倒産しているから、死んで柵みに捕らわれ現世に縛られているある意味で可哀想な霊だね」


『ランならワンパン案件じゃあないですか。その程度の霊災でランの運命に影響があるとは思えませんね――。アラヤシキ・カグヤという方に謀れたのでは?』


「どうだろう。謀れたのなら、被害がないから一番いいよ」


 しかし、軽く視ただけでビルにいる霊はたいしたことない気配なんだよねー。

 ダンジョンで言うと上層の中位モンスターぐらいかな。ゴブリンチャンピオンぐらいだと思うのだけれど。

 うーん、謎だ。


「お前が京極蘭か?」


 悩んでいると、突然、声を掛けられた。

 年齢は20歳半ばぐらい。黒髪でイケメン。どこか阿頼耶識さんと似た顔と雰囲気を醸し出している。

 たぶん、この人が阿頼耶識さんの言っていた、


「もしかして、阿頼耶識さんの弟さんですか」


「――ああ。戸籍謄本において、アレとは姉弟ということになっている。甚だ不本意ではあるけどな

俺の名前は、阿頼耶識(あらやしき)神威(かむい)

アイツの事を阿頼耶識さんって呼んでいるなら、神威で良い。っというか俺のことを阿頼耶識と呼ぶな。名前で呼べ」


「あ、はい。分かりました。えっと、神威さん」


 複雑な家庭環境……なのかな。

 他人の私が踏み込むべきことではないし、言われたとおりに名前で呼ぼう。

 ――何気に異性で、名前呼びするのって人生初かも。

 同性相手だと割と名前で呼ぶ事が多いけれど、同級生とかは名字で呼んでいたからなぁ。

 少しだけ恥ずかしいような?


『――恋愛クソ雑魚ですか。将来、甘い言葉で誘ってくるイケメンに玩ばれて、ホスト狂いとかに成らないで下さいよ』


「いやいやいや。ならないからね。私の恋人の第一条件は、本気の私に一撃を入れられるぐらいの実力がある事が前提にしているからさ」


『生涯独身宣言ですか? 結婚が人生の全てではないので、お一人様スローライフも有りかもしれませんね』


「この世は広いんだから、本気の私に一撃を入れられる人ぐらい」


「ここにいるぞ」


 神威さんは、そう断言した。

 思わず神威さんを見ると、黒かった眼は、阿頼耶識さんが一瞬だけ見せた虹色の眼へ変わり、まるで恒星のシリアスのように光り輝いている。

 あまりの美しさに魅入ってしまい、――それが駄目だった。

 瞳術の類いか、神威さんと私の思考が強制的に同調させられた。

 神威さんが繰り出してくる拳での攻撃を禦ぎカウンターを叩き込む私。

 それを何回も何回も繰り返す。


 1回。5回。10回。20回。50回。100回。200回。500回。1000回。2500回。5000回。8000回。10000回。12549回


 ――ついに私は神威さんの攻撃を受けた。


「あっ――っ、ぐっあ」


 息を切らしながら、私は膝を地面についた。

 強制的に思考を同調させられ、私との闘いを強制的にシミュレーションさせられたのだ。

 まさか1万回を超えても続けられるとは思っても見なかった。

 結果として、12549回、戦闘を重ねた結果。

 私は一撃を神威さんから受ける事になったのだ。

 ……ま、まあ? 私はまだ全快ではないから。一撃貰ってもしかたない部分はある。うん。


「これで、恋人(仮)ということで良いか」


「……確かに一撃は貰いました! 万全な状態とは言い難いでしたけど、不意打ちの瞳術で戦闘シミュレーションをさせられたとはいえ、仕方が無いです!! 言い訳はしませんっ

ただっ。ごめんなさい。

ロリコンは無理です。本当に無理なので、ごめんなさい」



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る