第12話 金策


「話は戻るけど、雑談配信って私がする意味あるのかな?

自慢じゃあないけど私って過疎配信者だよ。チャンネル登録件数も1桁台だし、視聴者も最低限――。雑談配信した所で、ね」


 ダンジョン配信は、まぁ、記録みたいな感覚もあるから、視聴者がたとえ0でもなんとかやれるけれど、部屋で雑談配信となると違ってくる。

 視聴者0でカメラに向かって雑談するのって痛い人っぽくない?

 数少ない黒歴史が新しく増えそうな気がする。


「? 蘭さま。チャンネル登録者数は1000を越えておりますよ」


「え、嘘」


「こんな事で嘘はいいませんよ」


 確かに冥月さんが、私のチャンネル登録者数で嘘を吐く理由はない。

 私は慌ててスマホの「DTube」アプリを開き、マイページに飛んで確認すると、確かに登録件数は5183人となっている。


「な、なんで?」


「『月の雫』のリーダーを助けたときに名乗られてたではないです。

そこから特定され、過去の動画アーカイブを見られて今の状況になっていると推測されます。

疑問なのですが、通知などは来るのではないのですか?」


「過疎、配信者、だったので、通知なんてこないからOFFでいいやーってしてました」


 指をもじもじとさせながら、冥月さんの疑問に答えた。


「なるほど。では、なおのこと雑談でも構いませんので、配信をした方が宜しいかと」


「確かに登録者数は増えているけど、今はダンジョンに潜れないから、私の雑談配信なんて需要はないと思うのだけど」


「……需要どうこう以前に、蘭さまの死亡説が流れています。根拠のない噂を払拭する為にも一度配信された方が宜しいのでは?」


「え。私の死亡説が流れるの!?」


「はい。どうやら「月の雫」の最後の方の配信で、血を吐いて倒れたことが噂の大本のようですよ」


 自分の死亡説がネットに流れている事を驚いていると、冥月さんがスマホを見せてくれた。

 確かにスマホを見ると幾つかのまとめサイトで、私の死亡説があたかも真実のように語られている。

 う~ん、ネットって恐いネ。

 インターネットは、魔力とか武力を使ってどうにも出来ないから厄介だ。

 しかし、ダンジョンに潜らない配信かぁ。

 考えれば考えるほど、――話題にする事がないのだよね。


「よし! とりあえず一週間後に配信しますって、通知を出しておけば生存はしているって証明にはなるでしょう。一週間後ならダンジョンも解禁されているからね!」


 話題を考える事が面倒な私は、ダンジョンに潜れる事ができるようになるまで、この事は投げる事にした。

 それに私には配信よりも考えないといけない事があった。


 ――お金だ。お金である――


 現役女子中学生の私の収入源は、基本的に家の家計を握っているお母さんからお小遣いを貰う形しかない。

 今まではなんとかなっていたけれど、今回の件の罰として科されたお小遣いの50%カットは痛い。かなり痛い。

 冥月さんが何を悩んでいるかと聞いてきたので、素直にお金に困っていると答えた。


「玲衣奈お嬢様に言ったら融通してくれると思いますよ」


「……玲衣奈とも友達の関係で居たいからヤダ」


 今世の私は前世の超魔神皇ではないけど、それでも人間として生きたいという細やかな願いぐらいは叶えてやろう、という優しさはある。

 友達の玲衣奈からお金を借りるという行為は、「友達」という重要な要素を犠牲にしてまでするようなことじゃあない。

 特に友情が壊れる原因は、異性と金銭が上位に入ると、なんかの記事で読んだ。


 アルバイトをするしかないけれど……どんなバイトにしよう。

 とりあえずJCビジネス系列のアングラバイトは駄目。

 稼げると思うけれど、自分を安売りするつもりはないし、なんか自分に値段が付けられているみたいでイヤだ。後はお母さんに知られたら、殺されるかも知れないので除外レベル。

 後中学生が出来そうなのは、コンビニ……ぐらい? 出来れば刺激的で楽しめるアルバイト先が良いのだけれどなあ。


「蘭さまほどの実力なら陰陽師関連のアルバイトをしてみてはどうでしょう」


「あー、そっち系は無理なんだ。中学生に出来そうな陰陽師関係の仕事は限られていて、その仕事はきょーちゃんが通っているような専門学校に独占されている」


 将来国を背負って立つ陰陽師を育成するためのうんたらかんたら。

 たまーに捌けない仕事は、外に放出しているらしい。ただ一般人には目に付くことはない。お父さんに相談すれば、どうにかありつけるかもしれないけれど、――最近怒られた関係もあって相談しにくい。


 しばらく悩んでいると、少し前に友達の永久の知り合いが助手みたいな人を探しているという事を言っていた事を思い出した。

 確かなんでも屋みたいな事をしている人のようで、永久に惚気と愚痴をお昼休みにご飯を食べるときに耳にタコができるほど聞かされた。

 正直、あの時には全く興味が無かったけれど、今のアルバイトをして減らされた50%分は稼がないといけない。

 スマホを取り出して、永久へと電話を掛ける。


『蘭? 病気で休んでるんじゃあ無かったの?』


「もう回復したよ。それよりも、前に言っていた、知り合いの人が助手を募集している件ってまだ有効かなっ」


『輝夜ちゃんの助手? う、うん。まだ、募集中だよ。え、もしかして――』


「色々と訳ありでお小遣いが半額に減らされたから、その人のところでバイトしたい!」


『……』


「永久? 聞こえてる?」


『あ、う、うん。聞こえている。念のために聞くけど、蘭が働く事でいいのかな』


「そうそう」


『……蘭なら輝夜ちゃん相手でも、どうにか出来そうかな(ボソリ)』


「え、なんか言った? 聞こえなかった」


『ううん。なんでもない。それじゃあ明日は大丈夫?』


「お母さんから自宅謹慎を言い渡されてから一週間経つから大丈夫!」


『お母さんから自宅謹慎を言い渡されるなんて……何したの蘭』


「あ、あはははは」


 とりあえず笑って誤魔化す。

 DTubeで配信者としてやっている事は、極力秘密にしたかった。

 ――まあ、もうお母さんとお父さん、それにきょーちゃんには発覚しているから、せめて学校の友達にはバレないようにしないとね。

 永久はあまり追求してくることは無く、知り合いの所へ案内するからと明日の待ち合わせ場所を決めて私は電話を切った。

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