第2章 運命の分かれ道
第11話 未来からの贈り物
「暇だぁ――」
私は自室のベッドの上で叫んだ。
シューティング・スター・プラチナ【ルナティック】に取り付いた高次元存在と対峙して、もう一週間ほど経った
前世の――超魔神皇の力を使用するという、反則ギリギリの裏技を使用する事で、病原菌みたいな存在は一時的に退かせる事は出来たけれど、反動で私は血を吐き倒れた。
人外の超魔神皇の力を、人の身で使用するのは、ほぼ不可能。
背後に背負っていた金色と漆黒が回転する円環が、外部デバイスの役割をする事で使用する事は可能ではあるけれど、許容を超える魔力は害となる。
あの時の私は、常に大ダメージを受けている状態かつ、意識も前世に引っ張られていたので、きょーちゃんには心配をかけてしまった。その点は反省しています。
一応、自然回復で、ある程度までは回復はした。
ただ無理矢理に超魔神皇の魔力を使用した反動で、今の私は少し弱くなっている。
具体的に言うと時を止める程の超スピードを出せなくなり、パワーもあの時と比べると7~8割程度と言ったところ。
今回の事は、無断でダンジョンに入って重傷になった事は、お父さんとお母さんにかなり心配をかけ、それと同じぐらいバレてかなり怒られた。
久しぶりに怒られている最中に泣いた。泣いてしまった。
罰としてお小遣いは向こう一年間は50%カット。
更に一週間の自宅待機と静養を言い渡され、ダンジョンに関しては更に2週間は潜る事も禁止されている。
だから、私は暇を持て余していた。
きょーちょんと玲衣奈がお見舞いに来てくれるけれど、それでも暇なものは暇なんだ。
あの2人は喧嘩するほど仲がいい関係のようで、どうやら好きなモノが共通しているからだそうだ。
共通の好きなモノがあるというのは、なんだか親友っぽくて羨ましい。
――因みに私の好きなモノは、バトル。
残念なことに、私とバトルをしてくれる人は、悲しいことに今のところ0人なのよね。
「でしたら、雑談配信でもしてみてはどうでしょうか」
「――いつから居たの冥月さん」
「玲衣奈お嬢様から、蘭さまのお世話を命じられている間は、ずっと側におります」
「そっそう」
黒髪でキリッとしていて、出るところが出ている割にはスレンダーボディな美人のお姉さん、愛染冥月さん。
正直、もう日常生活には支障が無いレベルで回復しているので、もう帰って貰ってもいいのだけれど……。色々と世話してくれる人が居る生活に慣れない。
しかし、どうやらお母さんから、自宅待機している二週間は見張るように別口で頼まれているようで、お母さんから私に対する信用の無さに涙する。
ベッドから身体を起こす。
「雑談配信かあ。――クエビコが居ないから無理だね。基本、配信は全てクエビコ任せだったから、私は出来ないの」
「クエビコ様は、蘭さまの式神ではないのですか」
「違うよ。――あくまで契約関係上、一緒にいるだけで上も下もない間柄なんだ。そもそも私の陰陽師界隈での評価は底辺。中学2年になる今でも式神の一体も使役できないんだから、当然と言えば当然だけどサ」
現代陰陽師は、小学生の頃には最低一体の式神を使役をして、その式神の質で術者の実力を測るというのが一般的となっている。
私はというと、自分より弱い式神を使役する利点が思い浮かばず、式神が持つ多種多様な権能も、普通に自分で習得すればいいだけだし――。
決して前世(超魔神皇)の魔力が邪魔して、誰も召喚に応じてくれないから諦めているとかじゃなくて、本当に必要ないからしていないだけだからっ。
「式神が召喚できなくて困ることは――あるよ。陰陽師の集まりとか行くと、式神一体も使役できないってだけで見下してくる奴の相手は面倒だけど、それ以外で困ることは無いし」
「ですが、そろそろ恒例の「陰陽天覧会」の時期だと記憶しております。確か今年は次世代の陰陽師達により、式神大戦がメインとなると情報を掴んでおりますが」
「――興味ないなぁ。ダンジョン深層のモンスター達が戦う様子を見た方が何十倍も面白いと思うよ」
「一般の方々は、深層まで辿り着くことはできませんので、異形同士が戦うという場面は面白いのでしょう」
「人生半分は損してるね。――まあ、兎に角、私がそれに出席することは無い、――!」
突如、顔面に虚空からグーパンを叩き込まれ、ベッド後ろの壁に頭部を激突させた。
座っていた冥月さんは、立ち上がるとメイド服のスカートを靡かせると、ナイフと拳銃を取り出して警戒をする。
「ご無事ですかっ。申し訳ございません! 辺りを警戒していたましたが、感知できませんでした。敵は今もまだ居ますか?」
「いたたた。あー、いいの。これは未来の私が、フラグを立てた事に対する意趣返しだから、言うならば自業自得? 自傷行為? 兎に角、責任は私にあるから気にしないで」
いつの時点の私かは知らないけれど、乙女の顔にグーパンで正気だろうか?
まあ、しかし、私ならやりかねないか。うん。
冥月さんは唖然としている。
「み、未来の自分からの、攻撃、ですか?」
「そうそう。グーパンの拳圧を過去に向けて飛ばすの。未来だと不確定で当てにできないけど、確定された少し前の過去ぐらいなら、そこへ殴り送る事が出来るよ。
今、殴ってきた感じからきっと未来の私は面倒事に巻き込まれて「陰陽天覧会」に出るハメになってんだろうね。大抵の事は力業で解決する私が、フラグを立てたこの時間に、拳圧を送ってくるぐらいだから――。はぁ、未来が憂鬱だよ」
溜め息を大きく吐いた。
確定されたトラブルが待ち受ける未来。
――人の生は七難八苦。と、誰かが言っていた。
トラブルはあまり好きでは無いけれど、前世の超魔神皇だった時の経験上、下手に過去・未来を弄ると現在に余計に厄介な事になる事が多々ある。
とりあえず海月のように運命という波に漂うのも、人としての生の処世術だと、最近は思うようになってきた。
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