ブッコロ―が岡崎弘子と大平雅代に襲われてヤバい世界!!!
奇伊洲 羽黒雄
第1話
はじめに私こそが真のR.B.ブッコロ―その人であると此処に明記しておく。
聡明な読者諸君ならば、R.B.ブッコロ―を名乗る奇抜な色彩を持つ怪鳥など興味もないかもしれないが、少しだけ話を聞いて頂きたい。
では早速、単刀直入に言わせ貰おう。
今の有隣堂に居るR.B.ブッコロ―は偽物である。
これから私が語る内容はノンフィクションである。少々ショッキングな話になるかもしれないが、しばしの間お時間を頂きたい。
願わくばブッコロ―が私の前へと来る前に。
時に諸君等は目が覚めたら体が毒虫になっていた青年の話をご存知だろうか。
これは今から百年近く前に書かれた小説の話ではあるが『絶対歩みたくない人生』トップ5には入る壮絶な末期を迎える事で有名だ。なんせ虫である、それも毒虫だ。悪い冗談にもほどがある。
あるいは小学生の頃、国語の授業で芥川龍之介の『蜘蛛の糸』に触れた覚えはないだろうか。
記憶にある方はぜひ思い出してほしい。あの授業が終わった後、私のクラスでは蜘蛛を殺すのがタブーになった。昨日まで平気な顔で虫を殺していた連中ですら生き物に優しくなり、一週間と続かない束の間の平和であったが、イジメもクラスから撲滅された。
私自身も蜘蛛だけは殺していけない気分にさせられたのを覚えている。
蜘蛛を殺すと地獄に落ちる、そんな風に飛躍した不安に居心地の悪さを感じたりもした。
さて、賢い読者諸君ならば察しがついている事であろう。
そう私は目が覚めたら……、
昨日までミミズクだったはずの身体が人間に変っていたのである。
混乱が時間と共に絶望へ変化した事は言うまでもない。
一晩で猛禽類からホモサピエンスへ変身を遂げて冷静でいられる生物など存在するはずがない。流石に毒虫に生まれ変わるよりマシではあるものの、だからと言って毒虫か人間か、その2つの選択肢がなんの慰めとなりえるか。
「誰なんだこれは」と鏡を見ながら言った私の口はクチバシではなく唇であった。
なんでこんな事になってしまっているのか。日頃の行いには自信のある方ではなかったのか。
古よりこの国の神は祟ると恐れられている事は私は知っていたが、仮に私の日常が唾棄すべき悪逆の日々であったとしても、よしんば私の事を「いけ好かない奴だ」と嫌いな神が高天原あたりに八百万と集まっていたとしても……、
果たしてその神々の中に睡眠中のミミズクを、神罰の名の元に人間へ変身させる無茶苦茶な神がいるだろうか。「いくらなんでもあんまりだ!」と止める神はいなかったのだろうか。いくらなんでも、これはないだろう!
その後、私は人類の英知の結晶であるスマートフォンを駆使し、人間がミミズクになる方法がないか調べたりした。
ミミズクの検索をしているのに真っ先にフクロウの飼い方がヒットしたのは癪に障る話だが大事の前の小字である。
「うん?」
そんな私が元に戻る方法の代わりに見つけたのは、動画投稿サイトに投稿されていた見覚えのない一件の動画であった。薄いディスプレイには眼球が飛び出した一羽のミミズクが写っていた。
「あれ? なんだこの動画?」
動画のサムネイルには『ブッコロ―の小説募集』と、貴重な時間を浪費する視聴者の余暇を更に毟り取り取らんとする製作側の意図が透けて見えた。『小説募集』と珍妙な誘い文句に誘われて、動画を覗くまで時間はそうかからなかった。
最初に言った通り、私はR.B.ブッコロ―本人である。
故に今まで有隣堂がアップロードした動画の内容は全て頭の中に記憶されている。
しかしその私にとっても今回見つけた動画はまったくと言って身に覚えがなかった。小説を募集する旨の動画を週録した記憶もない。
動画を再生してみたところ、恐るべき事実が発覚した。
なんとその動画に写っていたミミズクは本当に私そっくりの偽物だったのだ。
「どこで捕まえて来たんだ、コイツ!」
縁日の屋台で売られているカラーひよこの失敗作みたいな独特な色をしているミミズクは私以上によく喋る奴であった。
アメリカで売られている無駄に甘くてマズイ菓子みたいな色をしており、姿形に至ってはダーウィンの進化論に喧嘩を売っているとしか思えない。
深海生物より奇奇怪怪な姿成りをしていやがる。
私はショックを受けた。
「ソイツは偽物だ……なんで気付かないんだ、みんな」
動画の内容など大した問題ではない。
私の代わりにMCを務める偽物を偽物とすら気付かずに平然と進行しているスタジオの空気に私は戦慄したのである。
「どう見たって偽物じゃん!」と画面に向かって声を出すが彼等に伝わろうはずもない。
そんな時、ふとテーブルの上に置いた一台のスマホに着信が入った。スマホを手に取ると「岡崎弘子」と表示されていた。
動画の件で文句の一つでも言ってやろうと思い、急いで電話に出たみた私ではあったのだが……、
「今、何時だと思ってるんですか!」
間髪入れずに文句を言ってきたのは、知らない女の声だった。
私は当たり前のように聞けると思っていた文房具王になり損ねた女の声が、まさかこれほどまで聞きたいと焦がれる日が来ようとは考えてもみなかった。
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