第14話

 宇津木優治(うつぎゆうじ)。

 彼は、ずっと……

 ずっと、あの親友、切原和也(きりばらかずや)の後ろにいた。

 成績や運動神経は、どちらも同じくらい、はっきりと言えば、どちらも良くはない。

 だが……

 いつも明るい二人は、クラスの中でのムードメーカーだった。

 だけど……

 だけど。

 優治は、ぎりり、と歯ぎしりした。

 知っている。

 知っているのだ。

 自分と彼が、いつもみんなの前で明るく振る舞っても。

 自分と彼が、いくらみんなを笑わせても。

 クラスの皆が見ているのは……

 自分じゃない。

 その隣にいる……

 和也一人だ、という事を。


 どうしてなのかは、解らない。

 だけど。優治はいつしかその事に気づいていた。自分は……

 自分は、誰からも見て貰っていない。

 誰からも、見られていない。

 みんなが自分を見るのは……

 ただ一つ。

 『あの切原和也の親友である』という、その一点だけだ。

 優治は、ぎりり、と歯ぎしりした。

 そんな事は無い。

 考えすぎだ。

 そんな言葉を、幾ら自分に言い聞かせても虚しくなるだけだ。

 どんな言葉で言い繕っても。

 どんな風に、前向きに考えようとしても。

 結局……

 結局、同じ事なんだ。

 自分は……

 自分は……

 誰からも、ちゃんと見て貰えない。

 そう。

 所詮自分は……

 自分は……


『何落ち込んでるのよ?』


 そんな時に。

 声をかけられた。

 それは……

 それは、あの神藤千奈津(しんどうちなつ)だった。


『貴方は、貴方でしょう?』


 そうだ。

 彼女は、そう言って……

 そう言って、自分を……

 優治を、励ましてくれたのだ。

 ずっと和也の後ろで、誰からも見て貰えないで、落ち込んでいる優治の身を案じ、彼女は言ってくれたのだ。優治には、優治にしか無い『もの』が沢山あるのだ、と。

 だから落ち込む必要なんか無い、と。

 その言葉に。

 そして。

 そう言ってくれた時の彼女の優しい笑顔に。

 一体……

 一体、どれほど。

 どれほど、救われただろう。

 そして。

 その時。

 優治は……

 優治は、彼女に。

 神藤千奈津に、恋をしていた。


 千奈津がそんな事を覚えているのかどうか、それはもう解らない。

 だけど。

 優治はそれからずっと、千奈津の事を想っていた。

 だが。

 この恋は、きっと……

 きっと、実る事は無い。優治は、その事も理解していた。

 その時既に、千奈津の心の中には……

 和也しか、いなかったからだ。


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