※微グロ(血)※プチ似非シナリオ「バレンタインの放課後」

◯もりの高校家庭科室・放課後

  シンクの中に、洗われた調理器具が大量に置いてある。

  家庭科室のテーブルに紙コップが置かれている。

  テーブルを囲んで手奈土てなづち唄羽うたは真路まじ恋天使れんじぇる手戸てど牙央がお内房うちぼうけんが座っている。

恋天使「つ……、疲れた……」

  恋天使と唄羽はぐったりと机にへたり込んでいる。

唄羽「お菓子作りって、こない大変やったんですね」

恋天使「洗い物とかの雑用しかやらなかったけどね……」

手戸「いやいや、おかげで調理に集中できたし、チョー助かったよ!手伝ってくれてありがとうね〜」

  手戸がラッピングされた小さな袋を取り出し、恋天使と唄羽に手渡す。

手戸「はいコレ、バイト代!」

恋天使「な、なんか良い感じのチョコ!」

手戸「余ったヤツとか型崩れしちゃったヤツとかをテキトーに詰めただけだけど。捨てちゃうのもアレだしね〜」

唄羽「そない謙遜けんそんせんでも。えらい手際よう作ってはりましたやろ」

手戸「……ソレ、すなおに受け取ったらダメな感じ〜?」

  唄羽が狼狽ろうばいする。

唄羽「えっ、いや、違うんです。うち、ほんまに感心して……」

◯家庭科室・ドア付近

 家庭科室のドアを開けて、李下りのした太樹たいじが入ってくる。

太樹「ああ、いたいた。みんな図書室にいないから、探してて……」

  太樹がテーブルの上のチョコ菓子を見る。

太樹「げっ、チョコ……」

  内房が李下に詰め寄る。

内房「『げっ』とは何ですか!ガオくんがこの一週間どれだけ頑張っていたか、あなた知らないでしょう!」

太樹「いや、別に、手戸くんを否定する訳じゃなくて」

  太樹が天を仰ぐ。

太樹「実は、昨日徹夜で樹花じゅかのチョコ作りに付き合わされてさ……」

恋天使「あっ、妹さん?付属中の、2年の」

太樹「バカだよアイツ……。昨日急に『みんな手作りの持ってくるって言ってた!アタシも買ったチョコじゃなくて手作りにする!』って言い出してさ……」

内房「それで、夜通しチョコ作りをしていたのですね」

太樹「そう。おまけに、帰ったら今後一週間は兄さんの貰ってきたチョコ片付ける羽目になるだろうしさ」

手戸「3年の李下センパイ、モテるもんね〜」

  太樹がため息をつく。

太樹「とにかく、もうしばらくチョコは見たくないんだよ……」

恋天使「そ……、それは、災難だったね……」

手戸「ま、タイジくんも座りなよ〜。飲み物もあるからさ」



◯家庭科室・室内

  テーブルに紙コップが置かれる。

手戸「タイジくん何飲む〜?」

太樹「何があるの?」

手戸「水、お茶、コーヒー……」

太樹「じゃあ、コーヒーで」

手戸「オッケー。あったかいのでいい?」

太樹「うん」

恋天使「あっ……。じゃあ、ついでにおかわりください……」

手戸「はーい」

  手戸がコンロにヤカンをかける。

  太樹があたりを見回す。

太樹「ところで。ここで何してたの?」

恋天使「えー?な、なんか、お菓子作ってた……?」

唄羽「うちら、『手伝って欲しい』としか言われてへんかったから……」

  内房が立ち上がる。

内房「ズバリ、手作りチョコ代行です!」

太樹・恋天使・唄羽「手作りチョコ代行?」

内房「はい!学内の生徒から希望するレシピとその個数を受注し、当日に代金と引き換えるのです」

恋天使「な、何故なにゆえそんな業者みたいな事を……?」

  手戸がコーヒーの入った紙コップをテーブルに置く。

手戸「技術向上のための練習、ってトコかな?」

太樹「ありがとうございます」

恋天使「あ、ありがと……」

  太樹がコーヒーを一口啜り、顔をしかめる。

太樹「(咳払い)練習って、どういう事?」

手戸「ボク、シェフ目指してるんだけどさ。ご飯の支度とか調理コンクールとかに応募するだけじゃ、イマイチ技術向上してる感じしないな〜って思ってて。そこで、普段チャレンジしないジャンルにトライして視野を広げるために……」

恋天使「バレンタイン手作り代行、ってコト?」

  手戸が恋天使を指差す。

手戸「そう!」

内房「スケジュール管理等は自分が。起業を目指しているので、事業運営の練習ですね」

太樹「なるほど……」

  手戸が鼻歌を歌いながら端末の画面を眺め、ニヤニヤと笑う。

手戸「いや〜。もうかっちゃったな〜、っと」

太樹「儲かったの?」

内房「いえ、全然。材料費相当分しか頂いていないので、利益が出るとしても数百円単位ですよ」

手戸「でもさ〜。やっぱお金が手元にいっぱいあると嬉しいよね〜」

内房「先行投資した分が補填ほてんされてるだけですよぉ?」

手戸「気分の問題なの〜!」



  家庭科室のドアを開けて、ラカムあんが入ってくる。

杏「よう、太樹!こんな所にいたのか」

太樹「ラカムさん。大丈夫だった?」

杏「おう。ちょっと叱られたくらい、なんって事ねぇぜ」

  杏と太樹以外が首を捻る。

唄羽「あの……」

恋天使「ラカムさん……」

内房「何かしでかしたんですか?」

杏「何って、アタシはただチョコを配っただけだが?」

太樹「……教卓に乗って、大袋のチョコを豆まきみたいにばら撒いてた」

  手戸と内房が顔を見合わせる。

手戸「そ、それは……」

内房「まずいですよね」

  杏が調理台に座る。

杏「途中で担任ビマ先に止められちまったから、2袋半しか開けられなかったぜ。ちぇっ」

太樹「他の学年からも男子生徒が押し寄せてたし、最後の方は軽い暴動ぼうどうになってたんだけど……」

杏「それはさておき!」

  杏が紙袋からチョコレートの大袋を取り出す。

杏「これ、余った分。片付けちゃってくれよな」

恋天使「ワ……!これ、海外のお高いやつ……!」

手戸「食べちゃっていいの⁉︎」

杏「おう。どーせ持って帰っても食わねーし」

恋天使・手戸「ヤッター!」

  恋天使と手戸がチョコレートを袋から取る。

内房「では、自分もいただきます」

唄羽「うちも、ちょっとだけ」

太樹「俺はいいや……」

  杏がチョコレートを掴み取って太樹の手に握らせる。

杏「水臭ぇ事言うなよ!ほら、持ってけ!」

太樹「そんなぁ……」



  チョコレートを食べながら、唄羽たちが談笑している。

手戸「ん〜、おいし〜!中にジュレが入ってるんだね〜」

  太樹が包み紙に入ったチョコをいじる。

手戸「タイジくん、食べないの?」

太樹「いや……。このタイプのチョコ、ちょっと苦手で」

内房「アレルギーでもあるんですか?」

太樹「いや、そうじゃなくて……」

  太樹がコーヒーを一口飲む。

太樹「うちの、兄さんがさ。中学二年生の時のバレンタインに、手作りチョコを貰ってきたんだよ。その時のチョコも、こういう感じで中にジャムとか入ってるタイプのやつで」

手戸「へ〜、かなりってるね」

太樹「三つ入ってたから、一つは兄さんが食べて、俺も一個分けてもらったんだよ」

唄羽「お兄さん、やさしいんですね」

太樹「……噛んだ瞬間、口の中に血の味が広がって。最初は『口の中噛んだかな?』と思ったんだけど、あまりにも血の味が強すぎて吐き出しちゃって」

恋天使「あっ……」

太樹「それで、包丁を持ってきて、残った一個を半分に切ったら……。中から、イチゴジャムみたいな血が……」

  一同、悲鳴をあげる。

手戸「やだやだ怖い怖い怖い!」

内房「ただのホラーじゃないですかぁーっ!」

杏「なんつー話してくれてんだよー!」

恋天使「ヤバいって……。しばらくこのタイプのチョコ食べる時に思い出しちゃうよ……!」

  太樹がチョコレートの包みを置く。

太樹「まあ、そんな訳で……。このチョコ、帰って中身見てから食べるよ、うん」


◯家庭科室・夕方

  校内放送で音楽が流れる。

アナウンス「まもなく、最終下校の時間です。残っている生徒は、速やかに……」

杏「やべっ、もうこんな時間か」

内房「そろそろお開きにしましょうか」

恋天使「あっ、ボウルとか拭いて片付けないと」

  各々が部屋を片付ける。

  手戸が唄羽の肩を叩く。

手戸「ウタハちゃん。コレ、例の頼まれてたヤツ」

  手戸が唄羽に袋を手渡す。

唄羽「ありがとうございます」

手戸「材料は全部入ってるから。レシピ通りに作れば大丈夫なハズ」

唄羽「すみません、『手作りを渡したい』なんてワガママ言うてしもうて……」

手戸「ううん、いいよいいよ。気にしないで」

  手戸が両手でガッツポーズをする。

手戸「頑張ってね。応援してるから!」

唄羽「は、はいっ!」



火村屋敷ほむらやしきリビング・夜

  火村ほむらたけるが座卓に座っている。

武「フフフ……」

  座卓の上には小鉢に入ったおかきが置かれている。

武「エヘヘ……」

  襖の隙間から木戸きど清森きよもりが覗いている。

清森「武が、おかきをニヤニヤしながら延々眺めている。気色悪いな……」

  武が後ろを振り向く。

武「清森」

清森「ギャッ!」

  武が清森に詰め寄る。

武「唄羽がなぁ、唄羽がなぁ」

清森「う、唄羽がなんなんだよぉ」

武「唄羽がな、おかきを揚げてくれたんだ。俺のために、手作りで、おかきを作ってくれたんだ」

  武が天を仰ぎ、涙を流す。

武「もう……、死んでも良い、俺は……」

  清森が感涙に打ち震えている武を引き剥がす。

清森「大袈裟おおげさだな」

  清森が玄関脇の食糧庫の方を見る。

清森「アレだろ、バレンタインだろ?お前、ファンからめちゃくちゃ高いチョコをアホほどもらってるじゃねぇか」

  屋敷の食糧庫は、武(『バーニング⭐︎サムライ』名義)宛のチョコと水面みなも守ノ神もりのしん(『ながれ龍之介りゅうのすけ』名義)のチョコでギチギチに埋まっている。

清森「おかきくらいで、何を今更……」

武「唄羽から、だからだ!」

清森「……ハァ?(猫ミーム)」

武「唄羽が手ずから俺を思って作ってくれたお菓子で甘いチョコにうんざりした所に差し入れられる程よく塩気の効いた口当たりの軽いおかきでちょっと焦げてる所も愛おしいというか唄羽の思考容量の一部が俺のために割かれていたという事実だけで狂う!気遣いができて料理もできて可愛いのにプレゼントは置き手紙を添えて机に置いておくだけという奥ゆかしさが最高だし手紙から女の子のいい匂いがするしもうこれ手紙諸共真空パックとかの劣化しない手段で永久保存したいんですけど」

清森「ハァ?(猫ミーム)」

  清森が頭を抱える。

清森「とりあえず、おかきは食ってしまえよ」

武「嫌だ、食べたら消化されて60日後には細胞が入れ替わって唄羽お手製のおかきを構成していた分子がこの世から消滅しちゃうじゃん」

清森「……一生懸命作ったお菓子がカビたまま放置されてたら、唄羽はどう思うだろうな?」

  武の視線が泳ぐ。

武「(半べそで)わかったよぅ。ちゃんと残さず食べるから……」

  武が小鉢を持つ。

武「あっ、その前に写真だけ撮ってもいいかな?」

清森「俺に聞く必要ないだろ」

  清森が呆れた顔でため息をつく。

〈了〉





2024年2月15日

いつもと趣向を変えて、シナリオ風SSです。

一番時間がかかったのは武の溢れ出る唄羽へのLOVEです。愛が重いよ。

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とわずがたり〜かみよもきかず外伝〜 鴻 黑挐(おおとり くろな) @O-torikurona

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